海洋プラスチック廃棄など深刻化するごみ問題。これを解決すべく、オーストラリア・メルボルンの女子高校が奇策を打ち出した。メルボルン・ガールズ・カレッジは2019年9月から、トイレなど一部の場所を除いて校内のほとんどのごみ箱を撤去したのだ。
この決定の目的は、生徒たちにいかに普段の生活で無意識にごみを出しているかを意識してもらい、ごみの少ない生活に向けて取り組んでもらうこと。生徒たちは、ランチタイムで出る食品のパッケージなどを含め、学校生活で出るすべてのごみを家に持ち帰ることになる。
同校の校長であるカレン・マニー氏は、「生徒とその家族が、学校で食べるランチのサステナビリティなどについて考え、包装や使い捨て製品をなるべく減らすようになれば」と期待する。
生徒の親はどう反応しているのだろうか。双子の娘が10年生に通うリサ・グリーンナッフ氏は、学校の方針を誇りに思う一方、「正直、最初は少し負担。でも変化するうえで痛みは常にあること」と冷静に受け止めている。生活の変化について、同氏は「シリアルバーは(プラスチック包装されているので)を買うべきかを考え直し、ビーズワックスのラップを使うようになった。ヨーグルトは、小分けになったものではなく、大きいサイズのものを購入して何度も使える容器に入れて持っていくようになった」という。
さらに、2人の娘たちも自分でランチをつくる際に、ごみ問題について考えるようになり、マイカップをいつも持参するようになったそうだ。ごみ箱の撤去を機に、いかにごみの少ない方法でランチをつくるか、という創意工夫が生まれている。単にごみを減らすだけではなく、その過程が重要な環境教育になっているとも言えるだろう。
しかし、ごみを学校で捨てずに、家で捨てていたら結局は同じではないか、もしくはごみが邪魔になって帰り道で捨てたらさらに問題ではないか、と思う人もいるかもしれない。
行動変容と環境持続可能性の専門家であるメルボルン大学のジョフリー・バインダー氏は、これについて「実行方法と、関係者をいかに巻き込むか」が成功のカギだと指摘する。「生徒やその親と一緒に“もうごみ箱はない”という事実に向き合うための戦略を立てることができれば、とても建設的な取り組みになるだろう」
メルボルン・ガールズ・カレッジはでは、9年生の海洋生物学の授業の一環で、海や川におけるプラスチック汚染の影響についても学習。また、導入にあたっては、同校のサステナビリティチームが生徒やその両親と6ヶ月にわたって協議を行うなど、関係者の巻き込みに時間をかけている。
タイミング的にも今が適切、とバインダー氏。というのも、この夏、中国とインドネシアがオーストラリアからのリサイクルごみの輸入を禁止したのだ。結果、州内で処理しなければいけないごみが急増し、ビクトリア州のリサイクル業者SKMが30以上のカウンシル(オーストラリアの行政区の名称)からのごみの受け入れをストップ。年間18万トンのごみの行き場がなくなる危機に陥った。
「今、(ごみ箱を撤去するという)緊急ボタンを押さなければこの問題は忘れ去られ、みんな頭をポリポリかきながら言うだろう。何が問題なの?と」
日本にとっても対岸の火事とは言えない。中国などアジアの国々は軒並みプラスチックごみの輸入規制をはじめた。ごみ箱の撤去は一見奇策に思えるかもしれないが、世界の問題を日々の暮らしに落とし込めば、当然のこととも言える。
ごみ箱がなくなると、自分が出したごみを明確に意識することになる。ごみ問題を自分ごと化せざるを得ない。グローバルな問題も、まずは自分が日々出しているごみを考えることから。学校や職場でも、ごみ箱がない前提で1日過ごしてみてはいかがだろうか。
【参照サイト】Melbourne school’s bin ban forces students to reuse containers or take garbage home
【参照サイト】Melbourne school to remove all bins to achieve zero waste