9月23日にニューヨーク国連本部で開催された国連気候行動サミット。その日の夜、筆者の住むスペインでは、サミットで強い怒りを込めて演説をする一人の少女が話題になっていた。スウェーデンの高校生、グレタ・トゥーンベリ(Greta Thunberg)さんだ。「あなた達は私達を裏切った」「私達はあなた達を見ている」と、各国首脳を前に気候変動への具体的な対応を行っていないと痛烈に批判した。
9月22日に世界気象機関(The World Meteorological Organization、WMO)が発表した内容によると、2015年から2019年の5年間に排出された二酸化炭素量は、その前の5年間と比べて20%上昇しているという。また、世界の平均気温はこの5年間が観測史上最も高くなるなど、地球温暖化の兆候が見られ、その影響力は加速していると警鐘を鳴らす。
世界中の若者達が参加している「グローバル気候マーチ」
気候変動への対応に危機感を覚える若者はグレタさんだけではない。9月23日の国連気候行動サミットに先立つ9月20日(金)~27日(金)にかけて、世界各地の若者が「グローバル気候マーチ(Global Climate Strike)」に参加している。
グローバル気候マーチの始まりは、2018年夏にグレタさんが気候変動のための学校ストライキを始めたことがきっかけだった。その夏、北欧は記録的な熱波に見舞われており、選挙権のなかった彼女(当時15歳)は、スウェーデン政府に気候変動への対策強化を訴えるため、学校をストライキし一人でストックホルムにある国会議事堂前で座り込みを続けた。そしてスウェーデン政府がパリ協定に沿った具体的な行動を起こすまで、毎週金曜日は気候変動ストライキを行う日として活動を続けたのだ。
彼女の行動はソーシャルメディアを通して人々の注目を集め、多くの若者の共感を呼んだ。そして「未来のための金曜日(Fridays for Future)」として、世界各地の若者達が毎週金曜日に学校をストライキし、気候変動への対応を求めるグローバル気候マーチを始めた。
今回のグローバル気候マーチはこれまでで最も規模が大きい。初日の9月20日金曜日には、世界185カ国以上で約400万人が学校をストライキし、マーチに参加したという。当日夜の発表では、参加者はオーストラリアで35万人、ベルリンで27万人、ロンドンで10万人、世界合計400万人だったそうだ。
「何が欲しい?(What do we want?)」「気候に関する正義(Climate justice)」
「いつ欲しい?(When do we want?)」「今!(Now!)」
と掛け声をあげながら、若者達がプラカードを掲げて街中を行進し、気候変動に対して一刻も早く具体的な行動を起こすよう世界に向けて訴えた。
各国の様子
参加者数が35万人となったオーストラリアでは、国内の大学に所属する250人以上の教授・講師・研究員達が、この気候マーチに賛同を示している。賛同する学者達の名前と共に9月20日に公開されたレターでは、「オーストラリア政府は、ゼロ炭素社会の実現に向け持続可能で公正な社会の変革に力を入れるどころか、石炭産業や二酸化炭素排出を伴う産業の強化を続けている。子ども達が将来生きる地球環境を守るために、政府は市民に代わって行動する責任があるが、その役目を果たしていない」と政府を批判した。
また、サミット開催地であるニューヨークでは、9月20日に先立ち、ニューヨーク市は市内の110万人の学生達に対し、保護者の同意を得るという条件付きで9月20日のマーチに参加するために学校を休むことを認めていた。「この10年で地球を救えるかどうかが決まる。たった10年だ。子ども達が住み続ける地球環境を考え、今を担うリーダーは行動をしなければならない。ニューヨーク市は若者達と共にある。」ニューヨークのビル・デブラシオ市長は言う。ニューヨーク市のマーチの参加者数は、市の発表によると少なくとも6万人以上、企画団体によると25万人以上とされている。
参加者は学生達ばかりではない。アメリカのシアトルでは、マイクロソフト、グーグル、アマゾン、フェイスブックなどに勤める社員達約3,000人がマーチに参加。また、アマゾン社に公正な環境行動を求める社員の団体(Amazon Employees for Climate Justice)によると、世界14カ国で1,800人以上のアマゾン社員が9月20日のマーチに参加したそうだ。ベルリンやロンドンといった大規模なマーチが行われた都市でも、様々な職業、年代の市民が参加したという。
日本では23都道府県で約5,000人がマーチに参加し、東京では表参道や渋谷などを行進した。
なぜ今、子ども達が学校をストライキするのか?
子どもは学校で勉強をすべきだ、または子どもは勉強をする権利があるのだからそれを妨げてはならない、と考える人々もいるだろう。実際にイギリスの教育省は、「建設的な取り組みは推奨されるべきだが、子ども達が学校に行く機会を犠牲にしてはならない」と教員労働組合に注意喚起を出していたという。教員達は、もし彼らが子ども達に学校を休んで9月20日のマーチに参加することを促した場合は、法的措置や懲戒処分を取ると伝えられたそうだ。
一方で、学校をストライキしてマーチに参加する若者達は、より深刻で切羽詰った状況に自分達が置かれていると感じている。9月20日のマーチ開始前に、ニューヨーク市でグレタさんは、集まった多くの人々を前にこうスピーチをしていた。
「なぜ私達は今日学校に行かないのか?なぜ何人かの大人達は今日仕事を休んだのか?それは今すぐ行動を起こさないと、危険な状況にまで環境問題が差し迫っているからだ。」
「私達は科学の元に集結した。環境問題がこれ以上悪化する前に、全力で問題を止めなければならない。そのために学校や仕事を休んだ。なぜなら、もっと重要なことだからだ」
「このままでは、自分たちの未来が奪われてしまう。そんな中、なぜ『将来のために勉強する』のか?」
「『大人になったら気候学者や政治家になりなさい』と言う人もいるが、それでは遅い。今アクションが必要なのだ」
サミットを巡る、各国の温度差
9月23日の国連気候行動サミットでは、グテーレス国連事務総長は温室効果ガス削減に向けた具体的な対応策を用意した国の代表者にのみ演説を許した。イギリス、インド、ドイツ、ニュージーランド、フランス、中国など60カ国以上の代表者が演説をした。その一方、石炭火力発電所の建設などをめぐって日本やオーストラリアはスピーチの機会が与えられなかった。他にスピーチの機会がなかったのは、アメリカ、ブラジル、サウジアラビアだ。
まとめ
若者達のマーチは、今を担うリーダー達に環境問題のための具体的な行動を求めるメッセージであるのと同時に、今のリーダー達のアクションを待ちきれず自分達若者がリーダーとなり行動を起こすべきだというメッセージも含まれている。
環境問題は「大人」と「子ども・若者」、「今」と「未来」という二項対立で考えるべき問題では本来ないはずだ。しかし、悠長に待っていることもできない。理想や言葉ではなく、具体的な数値目標を掲げたアクションが今求められている。
【関連記事】世界中の若者たちが学校を休んで気候変動への対策を訴えた。#FridaysForFuture デモから私たちが学べること
【参考サイト】Greta Thunberg: ‘Leaders failed us on climate change’
【参考サイト】Global Climate Strike
【参考サイト】Fridays for Future