海に流れ出たプラスチックが問題となっていることは、すでに多くの人が耳にしているだろう。環境省の調査によると、世界では年間800万トンのプラスチックが海洋に流出しており、対処しなければ2050年までにプラスチックの量が魚の量を上回ると予想されている。
なぜ海に流れ出たプラスチックを、リサイクルするのは難しいのだろうか?まず第一に、海に漂うプラスチックを回収するのにコストがかかる。海からプラスチックを集めて生成し直すよりも、石油からそのまま新しいプラスチックを作り出した方がはるかに安上がりなのだ。
また、衛生上の懸念もある。通常のリサイクルではプラスチック内に入り込んだ異物を完全に取り除くことは難しく、異物が残ってしまうと食品用として安全基準をクリアできないため、使用済みのプラスチックからペットボトルなどの食品を入れるプラスチック容器を作り出すのは困難とされてきた。
海洋プラスチックごみを布や建築物などの材料にアップサイクルする試みが各地で行われるなか、2019年、コカコーラ(Coca Cola)が海洋プラスチックごみを使用したペットボトルを発表した。
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最初のサンプルとして発表された300本のペットボトルは、素材の25%が海洋プラスチックごみからできている。海洋プラスチックごみ自体は、Mares Circularesと提携し、スペインやポルトガルの海岸で実施されたボランティアによる清掃活動と、地中海の漁師が集めたものだ。
世界初となるこの試みは、オランダのスタートアップ企業であるイオニカ・テクノロジーズ(ioniqa technologies)とコカコーラのペットボトルを生産しているインドラマ・ベンチャーズ(indorama ventures)との提携によって実現した。
回収された海洋プラスチックごみはイオニカ・テクノロジーズ独自の技術で再利用可能なPET樹脂に解重合され(水やグリコールなどに浸し成分を分解すること)、インドラマ・ベンチャーズによって新しいペットボトルに生成し直される。
この解重合の技術を使えば、プラスチックに混入した異物を分別できるだけではなく、これまでは燃料として使用するか埋め立てるかしかなかったプラスチック類もリサイクルが可能になる。また、石油から新しいペットボトルを生成する際に生じる環境汚染も抑えられるなど、多くのメリットがもたらされる。
イオニカ・テクノロジーズのトニス・ホールハルト氏は、「このリサイクルシステムは世界規模に拡大するだろう」と語る。コカ・コーラのような大企業がリサイクルプラスチックを導入することで、飲料や食品の包装に使われるプラスチック業界は大きな変革を見せ、ワンウェイでない循環経済を加速させるだろう。
またホールハルト氏は、プラスチックゴミからペットボトルを生成することによって、テクノロジーが何をもたらせるのかを示し、プラスチックを使い捨てる習慣やプラスチックはゴミになるというイメージを変えることがこの挑戦の狙いだとも語っている。
コカ・コーラは2020年から海洋プラスチックごみを使用したペットボトルの導入を開始し、2030年までにペットボトルの材料の50%以上をリサイクルプラスチックに置き換える予定だ。
現在、プラスチックは環境を汚すものとして「脱プラスチック」が叫ばれ、プラスチックを生物分解の早い別の素材に置き換える試みが注目されているが、コカ・コーラはこの試みを通してプラスチックを悪者にしない未来への可能性を提示している。
【参照サイト】海洋ごみとマイクロプラスチックに 関する環境省の取組
【参照サイト】イオニカ・テクノロジーズ