賛否を巻き起こした、英TESCOヴィーガンソーセージCM。その3つの意義とは?

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イギリスの大手スーパーマーケットチェーンTESCO(テスコ)が放映したヴィーガンソーセージのTVコマーシャルが、今イギリス国内のみならず世界で大きな議論となっている。市民が食料品を調達する場所であり、生活に密着した存在のTESCOが発信する「新しい食の形」に関するメッセージは、私たちの生活にどういった影響を及ぼすのか考えてみたい。

10月10日に放映が開始されたのは、TESCOのプラントベース食材を扱う「Plant Chef シリーズ」を紹介するTVコマーシャル。印象的な一言でこの30秒のメッセージは始まる。

「お父さん、私はもう動物を食べたくないよ。」

おそらく小学校低学年くらいの娘はキッチンで、父親にこう打ち明ける。それに対し父親は、

「私は肉が大好きだけど、娘への愛情ほどではない。だから、いつものメニューをちょっと変えてみることにしたんだ。」

と言いながら、2人の好物メニューであるキャセロールを Tesco のヴィーガンソーセージを使って用意する。完成したキャセロールを食べながら、

「以前と変わらず、美味しいね。」

という父に対し娘は、

「むしろもっと美味しいよ。」

と言って、この短いTVコマーシャルは幕を閉じる。

幸せな家族の食事の一コマを再現しているが、決してありきたりではない。新しい何かを確実に発信しており、多くの人たちが今まで避けがちであった会話をオープンにする機会を与えてくれているのではないだろうか。

このTVコマーシャルに対し、英国農家組合の畜産部門は抗議文を発表した。「コマーシャル内の(「動物を食べたくない」という)文言は肉を悪者化している」、「現に縮小している畜産業界にさらに打撃を与える」、「肉から摂取できる、特に10代女性の発育に重要な栄養が摂れなくなる危険性がある」といった内容である。

それに対し、TESCOのプラントベース食品部門の代表は、「このコマーシャルは肉を悪者化などしていない。シンプルに肉は動物から来ていることを関連付けただけだ」、「実際に肉製品のコマーシャルは日々もっと多く放映されている。畜産業界に障害はない」、「私たち大人の感覚が鈍っているからといって、新しい食の動きが起きていることは無視できない」、「プラントベースが人間の健康と地球環境により優れていることを証明する科学的根拠は十分に発表されている」とコメントした。

こうした議論はイギリス国内のテレビ番組やインターネット上で広められ、多くの人の注目を浴びている。反論も存在する中で、私たちはTESCOが発信したメッセージから、何を読み取ることができるだろうか。

1. 若い世代の言葉が持つパワー

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Image via Shutterstock

このTVコマーシャルが特別である点は、幼い子供である娘の主張へのフォーカスだと、筆者は強く感じる。

30秒のフィクションの世界で、どういった経緯で彼女が「もう動物を食べたくない」という考えに至ったかは語られていない。言葉の使い方からは、今まで肉や肉製品として処理された食品に関しては違和感がなかったのに、何かをきっかけに動物を食べることの道徳性を意識するようになったことで受け入れられなくなったのではないかと想像できる。もしくは、気候変動ストライキで知られ、環境へ悪影響があるとされる畜産に反対し自らもヴィーガンであるグレタ・トゥーンベリさんと、それに賛同し運動を進める世界中の子供達に影響を受けたのかもしれない。

どちらの点からも、ヴィーガニズムはこれからを生きる若い世代に投げかけられている大きな課題の一つであることは間違いない。

今まで当たり前であったことや、大人が当然のこととして日常的に行っていることが、必ずしも正しいわけではない。そして今、変化を起こす大きな潜在性を潜めているのは、むしろ未来を担う若い世代であることを示している。

2. 新しい食の形のムーブメントは、すでに各家庭レベルで起きているという事実

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ベジタリアンやヴィーガンといった食のスタイルは、今やメディアなどで話題になる機会が急増したということにとどまらず、現に家庭という私たちにとって最も身近で最も小さなコミュニティにも変化をもたらすレベルに達している。

食事は家族にとって重要なものだ。家族の誰か1人がベジタリアンやヴィーガンになることによって、今まで通り食事を楽しめなくなることへの不安が障害になり、言い出せない人もいるであろう。コマーシャルの中の父親は、子供の主張を前向きに受け入れ、肉なしでも従来の食事を楽しめるよう協力する。これは現にベジタリアン・ヴィーガンが増えている今、家族が従来の通り食事を楽しむ上での前向きな取り組み方の例を表している。

3. 各企業が、需要の変化に対応しバランスを取りながら、段階的にビジネス移行を進める重要性

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TESCO同様、プラントベース食品部門に注力し始める食品会社や小売業者は増えている。一方、100%プラントベースなビジネスはまだ少なく、肉、卵や乳製品を扱いながらも並行的にベジタリアンやヴィーガン向けの製品の取り扱いを始める企業の方が圧倒的に多い。このことに矛盾を感じたり、新しい市場の利益追求に過ぎないと指摘したりする意見も出かねない。

しかし、個人レベルにおいても、ベジタリアンやヴィーガンになる人のほとんどは段階的である。ミートフリーマンデー(週一ベジタリアン)を取り入れたり、フレキシテリアン(ゆるベジ)やペスカタリアン(魚を食べるベジタリアン)などのステップを経て、最終的な決断をするのが一般的だ。一朝一夕に100%切り替える人の方が稀である。

需要と供給のバランスが重要な資本主義のもと、消費者の動きと同様に企業も今の変化に伴い徐々に新しい食事スタイルを取り入れる手段を提供し始めているのは、自然なことではないだろうか。食以外の分野でも、UberやAirbnbなどの新しいビジネス、AIやブロックチェーンといった新しいテクノロジーの台頭とともに、失われるものは当然ある。同じように、プラントベースの食品の普及が進むことで、畜産業が打撃を受けるのは避けがたいことだ。その損害を最小限に控える上でも、段階的に移行していくことは最も有効的であると筆者は感じる。

TVコマーシャルによって議論の機会が生まれた

世界で確実に起きているムーブメントである、ヴィーガニズムやプラントベースへの移行をとらえた今回のTVコマーシャルは、反論も含め多くの人に議論の機会を与えている。特に衣食住の一つである食事を変えることは、拒絶反応を示す人もいるほど大きなインパクトを持ち、容易なことではない。

しかし実際に起きている事実を知り、考え、調べ、家庭や同僚・友人同士での会話を生んだという点において、このTVコマーシャルには大きな意義がある。日本においては依然として話題になりにくいテーマであっても、世界ではこういったTVコマーシャルが放映されているほどであることは、知るに値するのではないだろうか。

【参考サイト】Watch Tesco’s New Controversial Vegan Sausage Commercial
【参考サイト】British Meat Industry Attacks Vegan Tesco Commercial(VegNews)
【参考サイト】NFU Disappointed with Tesco Advert