自分でやってみる人を増やしたい。電気機器を参加者自身が修理するリペアラボの挑戦

Browse By

Eウェイスト(電子廃棄物)という言葉を知っているだろうか。捨てられたスマホやパソコン、家電などの電気電子機器のゴミのことである。世界では毎年約5,000万トンのEウェイストが発生しており、その量は2050年までに3倍近くに増える恐れがあるとされる。国際廃棄物協会(ISWA)による2016年の調査によると、日本で発生するEウェイストは年間210万トンで、中国(720万トン)、アメリカ(630万トン)に次ぐ、世界第三位のEウェイスト大国が日本である。

もちろん日本では、Eウェイストを回収しリサイクルしようという動きも進んでいる。しかし、これだけ大量のEウェイストが発生している背景には、私たち消費者の多くに根付く「機械が壊れたら自分では何もできない」という意識があるのではないだろうか。

そうした意識を覆す、壊れた電気電子機器を自分で修理する場所がある。ファブラボ世田谷が月1回開催する「リペアラボ」だ。今回IDEAS FOR GOOD編集部は、リペアラボを2018年に立ち上げ、運営している鐘居さんにお話を伺った。

話者プロフィール:鐘居 和政(かねい かずまさ)

kanei-san株式会社ものづくり学校 FabLab Setagaya at IID(ファブラボ世田谷)のディレクター。東京工業大学工学部中退後、人材開発会社にて総務・人事などの業務に従事。2014年に株式会社ものづくり学校に入社し、ファブラボ世田谷の前身となるPrototype Thinking Areaの立ち上げに携わる。現在はファブラボ世田谷の運営全般を担っているほか、商店街のホームページ運営など、複数の仕事を兼務している。

場所と工具を貸し出し、参加者自身が修理する

2018年11月にスタートしたワークショップ「リペアラボ」。IID 世田谷ものづくり学校内に併設されているものづくりスペース「ファブラボ世田谷」が月1回実施している。ここは、壊れた家電を誰かに直してもらう場所ではない。無料で貸し出される場所と工具を使って、熟練エンジニアのアドバイスを受けながら、参加者自身が修理するのだ。直すために持ち寄られる電気電子機器はさまざまで、ドライヤー、ポケットラジオ、おもちゃといった小さめのものから、空気清浄機といった大きなものが持ち寄られることもあるという。

参加は予約制で、1回の定員は4名。アドバイスをしてくれるのは、熟練エンジニアのIGZY(イグジー)さんだ。IGZYさんはその経験とスキルから、機械が壊れた原因を特定することができるのだという。どこまでは正常でどこが壊れてしまっているのか、どこを直せばよいのかを特定し、ではここを直してみようというアドバイスをしてくれる。

repear-lab1

リペアラボ参加者に、故障箇所を説明するIGZYさん。

「スマホなどの電子回路は直せないのですが、電気機器類は多くのものが直せます。これまでに持ち込まれたものには、海外で買って大事にしていたというランプや、押すと音が鳴る判子などもありました。直すことができると皆さんとても喜びます」と鐘居さんは話す。

直すことをきっかけに、自分でなんとかしてみる経験をしてもらいたい

リペアラボを開催するファブラボ世田谷は、世界中にあるファブラボの一つだ。ファブラボというのは、多様な工作機械を備えた市民工房のネットワークで、もともとは2002年にマサチューセッツ工科大学で始まった。現在は世界中に1600か所以上のファブラボがあり、先進国だけでなく、ケニアやアフガニスタンなどの途上国にも広まっている。ファブラボの名称を利用するためには、「一般市民に開かれていること」「ファブラボ憲章の理念に基づき運営されていること」「共通の推奨機材を備えていること」「国際規模のネットワークに参加すること」という条件を満たす必要がある。

ファブラボ世田谷は当初、試作品を作る場として別名でスタートしたが、より地域に開いた活動をしたいと考え、ファブラボの理念に共感したことから、2016年4月にファブラボのネットワークに加わった。3Dプリンターやレーザーカッターなどの専門機器を有償で貸し出し、地域に開かれたものづくりスペースを提供している。「自分でほしいものを自分で作る」という文化を広げていくことが、鐘居さんたちの狙いだ。

fablab-setagaya

ファブラボ世田谷の入り口には「ご自由にお入り下さい!」と書かれた看板が立っている。

fablab-setagaya2

一般人には見慣れない、3Dプリンターなどの機材が揃っている。

ファブラボ世田谷は、基本的にはユーザーが機器の利用料を時間単位で払って、自分が作りたいものを作りたいときに作るというスタイルだ。それに加え、機材の使い方を説明する機器講習を週10回実施したり、無料で機材を貸し出しものづくりをしてもらうオープンラボも開いたりしてきた。そうした活動をする中で、より多くの人に「自分でなんとかしてみる」という経験をしてもらいたくて、「直す」場を提供することを考えた。

鐘居さんはこう話す。「『オープンラボ』は無料で機材を使って何かを作ってもらう取り組みですが、『作る』だけではなくて『直す』に焦点を当てたものがあってもいいのではないかと考えました。

私自身は父親の影響もあって、1歳の頃からドライバーを持ち、機械を修理する経験をしてきましたが、修理の経験がない方もたくさんいます。経験がないと、壊れたら『誰かに直してもらおう』『捨ててしまおう』となってしまいます。でも、実は壊れたものは簡単に直ることもあります。直す経験を通して、『自分でなんとかしてみることができる』ということに気づいてもらいたいですね。」

修理しながら長く使い続けるのが、合理的な選択肢に

冒頭で述べたように、日本のEウェイスト排出量は世界で第三位だ。Eウェイストの問題を解決する上で、リペアラボが果たす役割はどのようなものになるだろうか。

「私自身は、Eウェイストの問題に対して個人ができることはあまり多くないと考えています」と鐘居さんは話す。「新しい家電を買って古いものをどうするのかというときに、やはりどうしても個人レベルでは不要になるものが出てしまいます。そのとき個人ができることは少ないので、根本的な課題の解決は、国やメーカーがリユースの流れを作るなどして対応する必要があると考えています。

一方で個人ができることとしては、『できるだけ捨てない』という意識が必要だと思います。古い機械は古い機械なりに、別の形で使ったり、必要な人にあげたりといった使い道があります。

ただ私個人としては、『我慢して古いものを使い続ける』というのは好きではなくて。新しい性能は取り入れたいので、初期の頃のiPhoneやiPadは毎年のように買い替えていました。Apple Watchも4台目です。でも、今のPCやスマホは十分な性能を持つようになりました。だからこそ、一度買ったものを長く使い続けるというのが合理的な選択肢になってきました。」

買い替えても大して性能が変わらないものは、できるだけ修理して長く使い続ける。それこそが、今の成熟した日本社会のあるべき姿なのだろう。

自分で直してみる、自分で作ってみるという人を増やしたい

鐘居さんは話す。「リペアラボは『直す』場ですが、参加者の方には『直す』ことをきっかけに、『作る』ことにも興味をもってもらいたいと考えています。何かほしいものがあるときに、『作る』という選択肢があった方が人生の幅が広がるからです。

来年度から小・中学校で始まるプログラミング教育も、究極的には同じで、『誰もが作りたいものを作れるようになるべき』というところにつながると考えます。例えば、多くの人がWordやExcelなどを使っていますが、それはMicrosoftが作った一つの形態に過ぎません。使っているうちに、自分としてはこうしたいというのが出てくるはずです。そのときに、じゃあマクロを組んでみようとか、自分でプログラミングしてみようということが、誰でもできるのが理想です。将来的には誰もが、ファブラボのような場で何かを作ったり、プログラミングをやったりということができるようになっていくはずです。その方が人生を便利に過ごせますから。」

最後に、リペアラボ、そしてファブラボ世田谷の今後の展望について伺った。「リペアラボの活動は続けていくことが大事なので、細く長く続けていきたいと思っています。ファブラボに関して言えば、まだ日本に約20か所しかないんです。ファブラボやリペアラボの活動を続けていくことで、『自分で何かを作る』という文化を、日本でもっと広めていきたいです。

また、海外の人向けに、日本にあるものづくり学校などを紹介するようなプラットフォームを作りたいです。日本のものづくりを見に、世界中からたくさんの人が来ているのですが、今はその対応がうまくできていません。日本のものづくりを知りたい人と、ものづくりの現場とをつなぐようなことができたらと考えています。」

編集後記

ファブラボ世田谷のある「IID 世田谷ものづくり学校」は、廃校となった旧池尻中学校舎を再生した場所で、建築設計事務所やデザイン事務所をはじめ、約50のものづくりに関わる様々な企業やクリエイター、スタートアップなどが入居している。地域の人々を対象に年間600件以上のイベントを開催しているというだけあり、建物全体がまるで文化祭のような雰囲気で、ものづくりの空気に溢れていた。

筆者を含め多くの人が、電気電子機器に対して苦手意識を持ち、「壊れたら自分には何もできない」という意識を持ってしまいがちだ。でも、ちょっとした経験をきっかけに苦手意識を取り払うことができれば、電気電子機器への愛着が湧き、Eウェイストの問題も解決に向かうかもしれない。

次回のリペアラボは11月24日(日)に予定されている。修理すること、作ることに少しでも興味を持った方は、ぜひ参加してみてはいかがだろうか。

【参照サイト】ファブラボ世田谷ホームページ
【参照サイト】The Global E-waste Monitor 2017 Quantities, Flows, and Resources

FacebookTwitter