アクセシビリティという言葉を知っているだろうか?そのまま日本語にすると「利用しやすさ」という意味だが、特にITの分野では、「障碍や病気、高齢などで体の機能に制約があっても、機器やソフトウェアの操作、情報の入手、利用などが可能である状態」を意味する。
「地球上のすべての個人とすべての組織が、より多くのことを達成できるようにする」というミッションを掲げるマイクロソフトは、Windowsを発売して間もない頃、障碍のある人から「Windowsが使えない」という問い合わせをもらったことをきっかけに、アクセシビリティの研究を重ね、取り組みを続けてきた。テクノロジーの進化とともに、マイクロソフトのアクセシビリティは「障碍があっても情報にアクセスできる、パソコンを使える」というレベルを超えて、「障碍があっても、自立した生活をより便利に送ることができる」レベルを実現しつつある。
「国際障害者デー」である12月3日、マイクロソフトは視覚障碍者向けトーキングカメラアプリ「Seeing AI」(iOS版のみ)で、日本語を含む5か国語の対応を開始した。なお、英語版は2017年より提供している。
アプリ内で下記の機能をすべて使えるのが、「Seeing AI」の特長だ。
- 短いテキストを認識し、瞬時に音声で読み上げる
- 書類をスキャンし、音声で読み上げる
- 製品のバーコードをスキャンし、登録されている製品情報を音声で読み上げる(英語対応)
- 人の顔を判別し、推定される年齢・性別・感情を音声で説明する
- 風景を音声で説明する
- 紙幣を読み取り、音声で知らせる
- 色を識別し、音声で知らせる
- 明るさに対応して、ブザー音を鳴らす
(iOSのバージョンやiPhoneのモデルによっては使用できない機能がある)
一部の機能は、アプリを通して「Azure Cognitive Services」という学習済みのAIと接続し、情報を呼び出している。学習を積み重ねたAIだからこそ、画像に映し出された状況などを詳細に解説することができるのだ。短いテキスト・人・紙幣・色・明るさの機能はアプリ上で完結し、インターネットがない環境でも利用できる。
記者発表には、手術をきっかけに30歳で全盲となった視覚障碍者の石井暁子さんも登壇した。石井さんは、1年前から「Seeing AI」の英語版を使用し、マイクロソフトからの依頼により日本語版のβ版(ユーザーテスト用のバージョン)を1ヶ月間使用したという。
石井さんは一般社団法人 セルフサポートマネージメントの代表理事として活躍しながら、3歳の娘を育てている。仕事においては「会議室の部屋番号の確認」「手渡された書類の確認」、育児においては「娘が静かすぎて何をしているかわからないときの、娘の様子の確認」「寝室が暗くなっているかどうかの確認」「郵便物や保護者会のお知らせなどのプリントの確認」などに、Seeing AIを活用している。みりん・醤油・料理酒などの形が似ている調味料の使い分けや、冷蔵庫の中の食品の確認にも、Seeing AIが活用できるという。
「Seeing AIを使うことで、見えていたときと同じような感覚を取り戻すことができました」と石井さんは話す。「一人でできることが増えたと実感しています。今までは、誰かにお願いして読んでもらったり、誰かを待って操作をしてもらったりしなければなりませんでした。それが自分でできるというのは画期的で、見えているような感覚になれたと実感しています。」
ロンドンを拠点とするミュージシャンのアンドレ・ルイスさんも、動画の中で「テクノロジーのおかげで独立した生活ができるようになった」と話す。タクシー移動中に、スマホを窓にかざし、街の風景の中にある文字を音声で聞いているシーンが印象的だ。
以前から提供されていた英語を含め6か国語対応となり、世界中の多くの視覚障碍者が利用できるようになったSeeing AI。障碍の有無にかかわらず、すべての人がより良い生活を追求できるように、進化し続けるテクノロジーを活用したサービスが今後も発展していくことを期待したい。
【参照サイト】Seeing AI App Store