野外フェスティバル後に出るゴミは深刻な問題だ。Green music Australiaの調査によると、フェスティバルで使用された約50%のゴミがキャンプサイトに取り残され、特にテントについては、参加者の23%が「そのまま会場に捨ててきた」と回答している。
テントに使用されているポリエスチルは、埋め立てられたあと約600年間ものあいだ土壌に残り続け、環境を汚染する。フェスティバルをカラフルに彩っていたテントが使用後は一転して、未来を暗く塗りつぶす存在になっているのだ。
今回紹介するのは、そんな廃棄テントに新しい命を吹き込むブランド「E tū(エトゥー)」だ。
オーストラリア出身のデザイナー、レイチェル・ケリー氏(Rachel Kelly)は、フェスティバル後に廃棄されるテントの事実を知り、会場に足を運んだ。「(野外フェスティバル後)少しぐらいテントが捨てられていてもおかしくないと思っていた。しかし、目の前に広がっていたのは廃棄されたテントの海で、まだ問題なく使えるテントがこんなにも捨てられていることに驚愕した。」とケリー氏は語る。
ケリー氏は2018年、Pitch Music Festivalと提携し野外フェスティバル会場で廃棄されたテントを回収して試行錯誤の上、持ち帰ったテント布から3種類のトートバックを試作品として作った。「テントに使われていた布は複雑で、実際に縫い始めるまでにすごく時間がかかった。」とケリー氏は当時を振り返る。現実的な目標として2020年までに50個のバックを作成することを掲げ活動を続けた。
そして2019年11月、オーストラリア最大のファッションショーUndress Runwayにてアップサイクルブランド「E tū」としてバックコレクションを発表。ショー内ではコレクションを発表するまでに通ったプロセスを1つ1つ伝えるビデオや写真、試作品の展示を介して商品の向こう側にあるストーリーを伝え、アイデアさえあればゴミとして扱われている布もまだ使い続けられることを世界に訴えかけた。
ブランド名の「E tū」はマオリ語で「Stand up(立ち上がれ)」を意味し、フェスで廃棄されたゴミが埋め立てに回される際の有害性への認識を高め、環境のために立ち上がろうというメッセージ性を含んでいる。「(私たちは)廃棄されるテントをゴミとせずバックに生まれ変わらせることによって、サーキュラーエコノミーを実施している。」とケリー氏は話している。バックコレクションはファッションショー後にオンラインで販売が開始され、現在ケリー氏はテント布をレインコートなど他の商品にも生まれ変わらせることができないか検討中だ。
以前IDEAS FOR GOODで取り上げたパーツを使い続けるエシカルスマホ「Fairphone」や廃棄予定のジャガイモからできた新建築素材「Chip[s] Board」、着物をアップサイクルさせたシューズブランド「Relier81」のように、廃棄物を資源として再利用するサーキュラーエコノミーが様々な業界で急速に広がっている。いつもはゴミとして扱っているものも立ち止まって考えてみれば、あなたも新たな「資源」に気が付くかもしれない。
【参照サイト】 「E tū」公式サイト
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