プラスチック容器やプラスチックストロー削減の取り組みについて、飲食店などの事例をこれまで紹介してきた。この流れはホテル業界でも広まりつつある。スペインの大手ホテルグループ「パラドール・デ・トゥーリスモ・デ・エスパーニャ(Paradores de Turismo de Espana)」は、2019年に「使い捨てプラスチックとの戦い」を宣言した。
パラドール・グループは1928年以来、スペインの古城や修道院など歴史的価値の高い建物を修復し国営ホテルとして運営している。2019年時点でホテル数は97にのぼり、スペインの観光地化と地域活性化への貢献で知られている。
同グループは、ホテル事業をさらにサステナブルなものにするため、2019年に2つの大きな取り組みを始めた。
1つは、客室から使い捨てプラスチックをゼロにする取り組みだ。従来ボディソープやシャンプーなどのバスグッズは、滞在客ごとにミニボトルが用意されていたが、現在は客室備え付けの大容量ボトルに置き換えた。
また、使い捨てされやすい歯ブラシなどのアメニティ・グッズは、プラスチック製から環境に配慮した素材に切り替えた。歯ブラシと櫛は、小麦繊維とバイオベースの樹脂素材に切り替え、シャワーキャップは植物でんぷんをベースにした素材で作られたものを導入した。アメニティ・グッズの素材や環境配慮の考え方がそれぞれの包装箱に記載されており、利用客の目に留まるような工夫もされている。包装箱自体もリサイクルの厚紙と大豆由来のソイ・インクで作られたものだ。
客室外でも、従業員オフィスの自販機からペットボトルを撤去し、代わりにウォータークーラーを設置した。ホテル内の飲食スペースでは、生分解可能なポリ乳酸の容器(とうもろこしデンプンや小麦などの100%自然由来素材)や生分解性サトウキビ・ストローを採用しており、年間約70万本のプラスチックストロー削減に貢献しているという。
パラドール・グループのもう1つの大きな取り組みとして、フード・ロス削減が挙げられる。ゼロ・ウェイスト目標に近づくため、グループ全体で有する100店以上のレストランで、利用客が自分の食べ残しを持ち帰られるように生分解可能で堆肥可能なテイクアウト用容器を無料で提供し始めたのだ。こういった取り組みは、スペインのホテルグループで初の試みだという。
「持続可能な開発のための2030アジェンダを事業の中心に捉え、環境保護のためにホテルグループができることを従業員とともに日々取り組んでいます」と同グループのCEO、オスカー・ロペス氏(Oscar Lopez)コメントした。「ホテルやレストランで環境に配慮したサービスを提供することで、利用客の皆様にも環境への関心を高めていただくことに繋がると考えています。」
筆者は、アンダルシア地方のアルハンブラ宮殿内にあるホテル「パラドール・デ・グラナダ(Parador de Granada)」を訪れる機会があった。実際に客室にも足を運ぶと、アメニティ・グッズの他にも、客室内の飲料水もペットボトルではなく紙パックで用意されており、使い捨てプラスチックをゼロにする数々の試みが窺えた。
アメニティ・グッズの素材や食べ残しの持ち帰りなど、一つ一つは小さなアクションかもしれない。しかし、利用客の多いホテルやレストランの日々の取り組みは蓄積され、プラスチックやフードロス削減の大きな効果になるだろう。そして何より、ホテル側の取り組みに利用客が触れることで、環境配慮の取り組みがより広く社会に発信されていくはずだ。