国の経済成長の象徴ともいえるもの、それはそびえ立つ高層ビル群だ。しかしながら、摩天楼とも称されるそれらに使用されるコンクリートや断熱材は化石燃料から製造され、リサイクルできないものがほとんどである。今回紹介するスウェーデンの新しいマンションは、そうした都市のランドマークのサイクルに一石を投じるものだ。
スウェーデンの建築デザイン会社C.F. Møller Architectsが設計を手掛けたマンション”Kajstaden”は、CLT板を全面的に使用した9階建ての木造建築だ。CLT板とは、ひき板を並べた後、繊維方向が直交するように積層接着した建築素材のことで、断熱性や遮炎性、遮熱性、遮音性など複合的な効果が期待できる。木目を使用した見た目も温かみがあり、住居空間の雰囲気作りによく使われている。ヨーロッパでは、1990年代に開発されて以来、多様な住宅形態に使用されてきた。このマンションは、CLT板を使用したものとしてはスウェーデンで一番高いビルとなっている。
CLT板は、コンクリートなどの建築資材を製造する場合と比べてCO2排出量を削減する事ができる、エコフレンドリーな素材でもある。また、軽量なため、建築資材の運搬時に発生するCO2排出量も合わせて削減できる。C.F. Møller Architectsによれば、コンクリートの代わりに無垢材を使用したことで、建物の耐用年数内に排出されるCO2排出量がおよそ550トンほど削減できると見積もっている。
素材以外のこのビルの特徴の一つに、ビル自体の構造が極めてシンプルな点が挙げられる。たった3人の大工が平均3日で一フロアを組み立てられるほど、行程と人員の無駄が省かれているのだ。さらに、あとで建物を分解して材料を再利用できるようにする工夫もされている。
北欧では、今後も高層ビルの材料に木材を使用していく流れは活発化するだろう。技術の発展のおかげで、これまでは建築資材としての使用が不可能だった素材の使用も可能になっていく。都市の新陳代謝は目まぐるしい速さで進んでいくに違いない。
古来より、我々は快適な暮らしを求めて環境に適応しながら住居を進化させてきた。今後、気候変動問題はますます深刻になっていくだろう。人間が快適に暮らす事のできない環境の到来は目前まで来ている。今回のビルは、そういった悲惨なシナリオを回避するための、建物の進化形の1つだといえるのではないだろうか。
【参照サイト】一般社団法人日本CLT協会 CLTとは
【参照サイト】C.F. Møller Architects Kajstaden, Tall Timber Building