フランスの企業に、自己PR文の代わりに「志望しない動機書」が届いた理由

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「私にはあなたの会社を志望しない理由があります。出社時間には間に合わないですし、常に疲れています。突然の発作によりミーティングを途中退出してしまうかもしれません」

スイスのNPOであるInnocence in Dangerが、2019年にウィットに富んだキャンペーンを実施した。暴力や性的虐待から子供を守る活動を行う同団体は、フランスの複数企業に「志望動機書(Letter of Motivation)」ならぬ、「志望しない動機書(Letter of Demotivation)」を送ったのだ。

志望動機書

企業側の担当者としては採用活動で見慣れた書式ながら、書かれているのは、自分の魅力をアピールする文章とはまったく正反対の内容である。「貴社にとても興味があるのですが、私はあまり良い候補者ではないと思います」こんな文章から始まる書類には、幼少期の虐待のトラウマから、働けない理由、職務を全うできない理由が綴られている。Innocence in Dangerは、支援の輪を広げるため、複数企業に対して虐待が大人になってからも与え続ける影響への認知を促したのだ。

世界保健機関(WHO)によると、世界の子供のうち約20%が虐待を経験している。フランス国立人口研究所INEDは、20歳から69歳を対象に実施した調査で、女性の7人に1人、男性の25人に1人が性的暴力を受けたことがあることを明らかにした。ヨーロッパでは、5人に1人の子供が何らかの形で、性的暴力の犠牲者になっているという。

また、国際開発と人道問題を専門に活動するシンクタンクODIの2015年の調査では、身体的、心理的、性的な暴力に関連するコストと経済損失は、7兆ドル(約700兆円)。つまり、世界GDPの8%にも達する可能性があることがわかっている。

この動機書の差出人は実在しないとはいえ、受け取った企業側の衝撃は想像に難しくない。虐待が、社会にとってどれほど害悪を及ぼすかを感じることだろう。実際、対応した採用担当者の中には内に秘めていた虐待の経験を吐露した者もいた。Innocence in Danger自体の認知度も向上し、寄付金が33%増えたという。

本キャンペーンでは、多くの人々が知らない虐待被害者の苦しみに対する認知を「志望動機書」というフォーマットに落とし込んで広めた好例だ。子供の頃の苦しみは、大人になってからも消えない― そんな痛烈なメッセージが、この志望しない動機書に書かれている。

【参照サイト】Innocence in Danger

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