「生涯にわたる絆は、日常の何気ない瞬間に生まれているのです。」そう語るのは、フィンランドの家庭問題・社会福祉省長官であるAnnika Saarikko氏だ。2017年のOECD(経済協力開発機構)のレポートによると、フィンランドでは父親の方が母親よりも1日につき8分間ほど長く子供と接しているという。
8分間というのは、一見たいした長さには思えないかもしれない。しかし、父親が子供と接する時間が母親と同じかそれ以上あるということは、多くの女性がフルタイムで働き、育児の義務は男女共にあるという北欧社会の風潮を反映しているようだ。
今回は、そんなフィンランドの育児に関する興味深い一例をご紹介しよう。2017年11月に実施された、父親の育児休暇のフル取得を促すキャンペーン「It’s Daddy Time」だ。

Image via Finland Ministry of social affairs and health
フィンランドでは、父親になると合計54勤務日または9週間の育児休暇を取る権利が与えられ、休暇中には給与の70%から75%が払われる。この育児休暇期間が終了しても、両親のどちらかは雇用を維持したまま子供が3歳を迎えるまで家で過ごすことができ、その間は1ヶ月に528ドル(約5万7000円)が支払われる。
「It’s Daddy Time」は、ラジオやソーシャルメディアなどを通じて、父親も育児休暇という権利をしっかりと使い、子供と過ごすことの大切さを理解するための取り組みだ。キャンペーンの特設サイトには、復職の際のアドバイスや8人の父親による「子育ての喜び」を綴ったコラムが掲載されている。フィンランドの父親による育児休暇取得率は、現在8割を超えている。

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さすが母親に優しい国フィンランド、進んでるなぁ。こんな感想を持ちそうになるが、今回のようなキャンペーンを国が行う背景には、フィンランドでも男性が育児休暇を「取らない」ことが社会的に問題視されていたということも、ここで指摘しておかねばならない。
フィンランドの育児休暇のシステム自体は1978年に導入されたものだが、2016年に与えられた育児休暇のうち、男性が消化したのはわずか10%であった。当時、フィンランドの父親のおよそ5人に1人は仕事を離れず、まったく育児休暇を取らないという選択をしている。多くの父親は、最初の数週間ほど休んだあとに、職場に復帰していくのだという。
フィンランドを含む多くの先進国での未就学児の育児の大部分は、依然として女性が行っている。小さな子供にとっては、やはり母親の存在は大きい。まだまだ課題はあるが、雇用の機会が性別に関わらず平等になりつつある今、家庭での子育ての機会も平等にするこのキャンペーンはひとつの良いきっかけとなっただろう。
【参照サイト】These statistics show the countries where fathers spend most time with their children
【参照サイト】Father, take some daddy time!
(※画像:Finland Ministry of social affairs and healthより引用)