「難民」は名前?社会の多様性を引き出すために、ラベルを剥がすこと

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あなたは「STAY HOMEできない人」がいることをご存知だろうか?

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ホームレス状態にある人や、同居人からの暴力のリスクがある人など、外出自粛の要請により行き場を失った人々だ。市民団体などの支援もあるが、十分なサポートが行き渡っているとは言い難く、STAY HOMEがすべての人々にとって安全ではないことが指摘された。

各国の政府が新型コロナウイルスの感染防止のためにSTAY HOMEを呼び掛ける中、STAY HOMEができない人々の存在が明らかになったが、実はウイルスの影響を受けるはるか前から、STAY HOMEできない人たちは存在していた。「難民(※1)」だ。

私たちが聞き慣れたSTAY HOMEとは、「おうちにいよう」の意。この「HOME」からは「家」を想像する人が多いだろう。自分の住んでいるアパートやマンションなど、生活の場としての家である。しかし、「HOME」には物理的なモノとしての家のほかにも「生まれ故郷」や「ふるさと」の意味がある。自らの「故郷」とそこにあった住まいとしての「家」の2つのHOMEを離れざるを得なかった人々が難民である。

「故郷」とそこにあった物理的な「家」、二重の意味でSTAY HOMEが不可能な難民という人々を通して、今回は「多様性」について一緒に考えていきたい。

(※1)この記事では、難民認定を受けた人だけではなく、紛争や人権侵害から住み慣れた故郷を追われ、逃れざるを得ない人びとの意で使っています。

STAY HOMEできない「7950万人」のひとびと

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2019年、紛争や迫害によって移動を強いられた人が「7950万人」いた。つまり、世界の人口の100人に1人が、何らかの理由でふるさとを離れることを余儀なくされた。多くの人が耳にしたことがあるであろう「シリア難民」「シリア内戦」という言葉から想像されるように、戦禍から逃れてくる人たちのほか、民主化を求める活動や反政府活動を行うことで国から命を狙われる人、自らの性的指向よって迫害される人など、さまざまな理由で国や地域を追われる人がいる。自分が住んでいた場所にとどまることに危険を感じた人が、国内で、もしくは国境をまたいで移動し、難民となる。

そして今、新型コロナウイルスは、もともと十分な支援がなく、マイノリティとして社会から排除されがちな人々をさらに苦しめている。多くの日本人が職を失い、生活に困窮しているように、日本に暮らす難民たちもその多くが仕事を失った。そもそも就職することのハードルが高い難民たちにとって、再就職はひときわ厳しい。政府からの特別定額給付金10万円の給付対象も住民登録をしている人のみで、家がなく本当に困っている人々の手には渡らず、仮に受給の資格があっても、申請書類の記入方法などの複雑さなどが申請の壁を高くしている。さらに、これまで難民の生活をサポートしていた人々自身の生活が厳しくなり、その影響を受けている場合もある。

これだけ聞くと、「難民=みじめでかわいそうな存在」と思う人もいるかもしれない。確かに、彼らは難しい問題をいくつも抱え、文字通り「難しい民」と捉えられてしまう場合も多い。しかし、その人たちは「難民」という名前を持つ人たちではなく、私たちと同じように、それぞれ異なる名前や性格、趣味や特技を持つ「一人の人間」である。

「ラベルを貼る」ということ

人間はつい、人をラベルでくくり、ジャッジしてしまう。

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「日本人は真面目だ」と海外で認識されていたとしても、全ての日本人が真面目なわけではなく、性格は多種多様だ。同様に、難民と一言で言ってもそれぞれの事情で逃れてきた、一人一人性格の異なる人たちである。中には母国で大学を卒業しバリバリ働いていた人や裕福な人もいれば、専門的なスキルを持っている人もいる。難民という言葉から「かわいそう」「貧しい」「危ない」などのネガティブなイメージを抱き、「脆弱性」が強調されてしまうことが多くあるが、その時、一人一人が持つ「個性」は見えにくくなってしまう。

また、「マイノリティ」のラベルを貼ることは、貼られた人々が自分が「弱い」存在だと感じることにもつながり、それによって一層生きづらさを抱えて生きていくことになる人もいる。しかし、他者に自分の存在を認められ、持っている能力を発揮できる場があることで、社会に貢献している、自分の存在価値を感じられるようになる。

近年、「多様性がある社会を目指そう!」というメッセージがよく聞かれるようになった。多くの場合、この「多様性」に含まれるものは国籍、性別、年齢や宗教などである。日本では特に、「インクルーシブ」という言葉とともに働き方の文脈において使われ、女性や外国人、障がい者などの積極的な雇用や職場における活躍を意味する。しかし多様性というのは、単に異なる属性の人々が集まることを指すのではない。

なぜ多様性が良いのかと考えてみると、それは一人一人が多様な価値観を持つユニークな存在で、それが集まることで様々な視点からモノを見ることができるようになるからではないだろうか。似たような価値観を持つ人たちの集まりよりも視野が広がり、さまざまなアイデアも生まれる。多様性の意義をそう捉えるとき、表面的な多様性だけでは十分ではないだろう。つまり、国籍や性別、年齢などの「表面的な多様さ」を超えた「内側の多様さ」が見出され、一人の名前を持つ人間として関わることができてこそ、人は生き生きと輝けるのではないだろうか。そんな一人一人の「人間としての個性」が見える社会こそが本当の多様性ある社会なのかもしれない。

「ラベルを剥がす」ということ

難民を含め、いわゆる「マイノリティ」と言われる人たちは社会の中で不利な立場に置かれることも多いだろう。法律や制度から変えていかなければならないこともたくさんある。しかし、私たちにできることが何もないわけではない。

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難民に限らず、日本に長く住みながら排除されてきた外国にルーツを持つ人々、LGBTQ(性的マイノリティ)やホームレス状態にある人、障がい者などの一人一人が、さらに言えば、世界中に生きる約80億人すべてが、多様性のある社会の多様さを構成している。これまで社会から排除されてきた人々一人一人に貼られたラベルを剥がし、自分たちと同じように名前を持つ、一人のユニークな存在としてその人を見つめるとき、それぞれが秘めた魅力や可能性に気づくことができるのではないだろうか。そして「違い」をもっとポジティブに受け取ることができ、「差別」をなくしていくことにもつながるのかもしれない。

まずは近くにいる人への固定観念を払拭し、名前を持つ「一人の人間」として対峙してみる。それが、すべての人が心から支え合って生きていける社会の実現につながるのではないだろうか。


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