パリとベルリンのスタートアップは難民の人とどう一緒に未来を作っているのか?

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「難民」という言葉を聞いたとき、あなたはなにを思い浮かべるだろうか?「国から逃れ、帰る場所のないかわいそうな人たち」、「日本で出会うことはない、自分とは遠い存在」。どちらかというと、暗く悲しいイメージをお持ちの方が多いかもしれない。

でも、それは彼らの存在のほんの一面に過ぎない。本当は、私たちが想像する以上にもっと多様で前向きな側面をもっている。そんな彼らの可能性に焦点を当て、「難民支援」ではなく「ともにカラフルなセカイをつくる」活動をしている団体がある。それが、特定非営利活動法人WELgeeだ。

このたび、WELgeeが主催する【パリ・ベルリン報告会 × 共創型ワークショップ】 ~ From Chaos to Co-creation 変革は辺境から起きる~というイベントに参加した。第一部では、フランスのパリとドイツのベルリンにある難民・移民関連の11のスタートアップのユニークな取り組みが紹介され、第二部では、難民当事者の人が持ち寄った夢をテーマに少人数でディスカッションがおこなわれた。

第一部報告会の様子

第一部報告会の様子

パリとベルリンの最新事例

第一部では、WELgeeがパリとベルリンで視察した、難民とともに新たな挑戦をしている11の団体が紹介された。ここではそのなかから3つの団体を取り上げたい。

  • Espero
  • パリの郊外に6箇所の養蜂施設をもち、難民の人が自ら養蜂家になるための研修を行う団体Espero(エスペロ)。創設者のマヤさんは、難民危機と、フランスでの蜂の数の減少という2つの社会課題に注目し、難民の人とともに養蜂業をスタートした。

    https://www.facebook.com/esperofrance/photos/a.723537384473812.1073741829.544014355759450/906155589545323/?type=3&theater

    https://www.facebook.com/esperofrance/photos/a.723537384473812.1073741829.544014355759450/808362135991336/?type=3&theater

    Esperoの成功には、いくつか理由がある。まず、養蜂家として30年以上の経験があるシリア人に出会えたことである。また、まだ政府から就労許可がおりていない状況でも、研修生として実用的な養蜂スキルを学べることも大きい。スキルがあれば、他の国でも養蜂家として働けるからだ。言語の壁が問題とならないことも挙げられる。

  • Les Cuistots Migrateurs
  • 食をこよなく愛する社会起業家と一流シェフが届けるパリ発の難民シェフケータリングサービスLes Cuistots Migrateurs。チームメンバーは、シリア、エチオピア、イラン、ネパール、チェチェン共和国からの難民と、アメリカ、パリのシェフで構成されている。ソーシャルなケータリング会社として有名で、15-700名規模の場に、質が高く新鮮で美味しい食事を提供している。

    パリ発の難民シェフケータリングサービス

    Image via Les Customs Migrateurs

    パリではビジネスの場でケータリングを利用したパーティーがよくおこなわれている。Les Cuistots Migrateursの利用者は、自社ブランド向上を図ったり、自社の価値観をクライアントやビジネスパートナーに示したい感度の高い企業が多いという。自分たちのビジネスイメージにとってもプラスになったり、次のビジネスチャンスにつながるなど、単なる社会貢献以上の考えが背後にあるのがおもしろい。

    パリ発の難民シェフケータリングサービス

    Image via Les Customs Migrateurs

  • ReDI School
  • Digital Integration(デジタルを用いた融合)をテーマに、難民の人たちにプログラミング技術を教えるtech school「ReDI School」。地元企業はもちろん、フェイスブックやマイクロソフトといった大手グローバル企業もスポンサーとなり応援し続けている。200人を超える企業人が無償で講師役となり、15のコースを提供する。

    コース終了後には、学んだスキルを何に使いたいか、何を変えたいかについて発表する機会(demoday)がある。それを聞いた企業の人が「あなたと働きたい」と、その場で採用が決まることもあるという。

ほかにも、難民の人を支援するメンターとのマッチングサービスや難民の人たちと住むシェアハウス、難民の人の移民先で必要とする情報に特化した検索エンジンを提供している会社なども紹介された。

代表の渡部さんへのインタビュー

代表の渡部 清花(わたなべ さやか)さんは、「トビタテ!留学JAPAN」1期生として、バングラデシュの紛争地にて先住民族の村に駐在するUNDP(国連開発計画)で 平和構築インターン留学をおこなった。その後、2016年3月に難民の若者たちの夢を叶えるプラットフォーム「WELgee(ウェルジー)」を創設。

WELgee代表の渡部さん

WELgee代表の渡部さん

Q:渡部さんは、パリとベルリンの11団体を視察してどのような印象を持ったのだろう?

「どんなに大きな額の資金を調達している団体であっても、みんな最初のひとりとの『人』としての出会いからはじまっている。人に対してのアプローチが温かいなと感じました」

Q:また、これだけ多くの団体に話を聞くなかで、日本と比較して感じたことはなんだろうか?

「ドイツやフランスでは、NGOや企業は彼らの独自の活動をとおした『社会統合』により重きをおいている印象がありました。そして彼らは難民支援のジェネラリストではなく、スペシャリストでした。

また、民間団体はマイナスからゼロだけでなく、ゼロからプラスにする活動ができるのが特徴です。問題解決から、価値創造の領域へというように。『難民支援団体』として全面的・包括的支援をしているわけではなく、自分たちの一番得意なところから切り込んでいる。

それはその国の政府が、逃れてきた命を保護するという部分や最低限の福祉を担う努力をしているということが前提ですが。日本では民間の団体が、全面的・包括的支援をせざるを得なくなってしまっている現状があります」

まさにどの団体も、難民の人のできることと自分のできることの掛け合わせを考えて、変に気負いしすぎることなく、活動している。報告会と渡部さんのお話を聞いてそんなふうに感じた。

ワークショップの様子

イベント第二部は、難民の方8名がそれぞれやりたいことについてピッチをした後に、私たち参加者とブレーンストーミングする共創ワークショップの時間だった。

チュニジア料理のレストランを日本に開きたい女性、ファッションの力で人に自信をもってもらいたいカメルーン出身の男性、エチオピアコーヒーを日本に広めたい男性、ブロックチェーンを活用したアプリを開発したいシリア人男性などが、それぞれの目標を各グループ内で共有し意見を出し合った。

第二部少人数ワークショップの様子

第二部少人数ワークショップの様子

プログラミングや法律などの専門知識がある人は、自分の経験からアドバイスをしていた。

一方で、そういった特別な知識やスキルがないと思っていても、実は彼らの目標を達成させるために力になれることがあると感じた。

たとえば、コーヒー。私はコーヒーの味やメーカー、生産方法に詳しかったり、輸入業者とつながりがあるわけではない。しかし、いちコーヒー消費者として、日本人の好みや感性を共有することはできる。そしてそういうものが日本のマーケット感を知る機会となり、彼らにとって有益なものだったりするのだ。

難民の人が作ったチュニジア料理のランチ

難民の人が作ったチュニジア料理のランチ

編集後記

今回のイベントとWELgeeの活動理念をとおして感じたのは、難民の人だけではなく、参加者からも溢れ出る前向きなパワーだ。そうした前向きな雰囲気が会場に蔓延していたのは、「難民」という問題にフォーカスするのではなく、難民の人と一緒にどんな活動ができるのかを考えて、一緒に未来を作っていこうとしているからだろう。

WELgeeが今後目指しているのも、難民の人に直接的に働く場所を提供することだ。「働くこと」が彼らにとって「生きること」につながるから。そのために、「難民」だからではなく、彼らの能力を買ってくれる企業に出会いつなげていく。そんな活動をしていきたいという。

生きることは、働くこと

“生きることは、働くこと”

祖国を逃れてきた人に「難民」というラベルを貼るのではなく、そのラベルの下に隠されている一人ひとりのパッションやスキルを発掘し、育て、活かす社会。すべての人が生まれた境遇や過去、おかれている状況でカテゴライズされることなく、多様な才能を発揮できる社会。そんな素敵な社会を、私たちはどのように創っていけばよいのだろうか?

そのヒントは、「Talk ABOUT refugee(難民について語る)」のではなく「Talk WITH refugee(難民とともに語る)」ことにある。まだ難民の人に会ったことがないという方は、WELgeeの活動に参加して、難民の友だちではなく、固有名詞の友だちを作ってみてはいかがだろうか。

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【特定非営利活動法人WELgee】https://welgee.jp/

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