アートでサンゴ礁を救う。グレートバリアリーフにできた海中美術館「MOUA」

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豊かな海中環境を誇る世界最大のサンゴ礁群、グレートバリアリーフ。今、この唯一無二の自然が失われかけていることをご存知だろうか?オーストラリア・ジェームスクック大学の調査報告によると、エリア北部の1000km圏内で約95%のサンゴが白化しており、白化が長期にわたると死滅する可能性がある。これは過去に類を見ない現象であり、今も刻一刻と悪化している。

サンゴが死滅してしまうと、サンゴを生活の基盤にしている生物の居場所もなくなり、生態系のバランスが大きく崩れてしまう。グレートバリアリーフには、絶滅の危機に瀕する生物も多く、世界に類を見ない豊かな生物環境は一度失ってしまうと取り戻すことが非常に難しい。

そのような状況下で、アートでサンゴ礁を救うべく、グレートバリアリーフに海中美術館「MOUA(The Museum of Underwater Art)」がオープンした。南半球初の海中美術館となるMOUAは、サンゴ礁の重要性、保護や修復の方法について科学的な側面での教育を促すのを目的のひとつとしている。美術館には計4か所の展示があり、そのうち2か所はすでに公開されている。

1つ目の展示「オーシャン・サイレン(Ocean Siren)」は、海中美術館で唯一海の上に突き出したモニュメントだ。グレートバリアリーフへの玄関口となる街、クイーンズランド州タウンズビルの湾岸に設置されており、その姿は潮の満ち引きに関わらずいつでも確認できるようになっている。

オーシャン・サイレンが放つメッセージは、海水温度上昇への警告(サイレン)だ。人型のモニュメントにはLEDライトが搭載されており、その体の色によって海水温度の危険度をビジュアルで示している。近郊のデイビスリーフ測候所で検出された海水温度がリアルタイムで反映され、色は暗い青から黄色、オレンジ、最後には警告を示す濃い赤へと変わる。

サンゴ礁の白化の一因は、地球温暖化による海水温の上昇とされており、これを色によって可視化することで、海上からは見えにくい海中で起こっている様々な問題へと人々を誘う役割を担っている。

2つ目の展示「コーラルグリーンハウス(Coral Greenhouse)」は、岸から80km離れたジョン・ブルーアサンゴ礁に位置し、ダイビングで訪れることができる。このモニュメントは、サンゴ礁の保護と修復の重要性をメッセージとして発信している。ビニールハウスを模様したスチール製のハウス内には、鉢を植える人や顕微鏡を覗き込む研究者、海底を掃除する人など、グレートバリアリーフと共に在る様々な人々の像が設置されており、この風景は時を経ることによって自然と調和していく。

前述のオーシャン・サイレンとコーラルグリーンハウスの展示コンセプトを手がけたジェイソン・デケアーズ・テイラー氏(Jason deCaires Taylor)は、世界的に有名な海中彫刻家かつ環境活動家でもある。訪れる人は、グレートバリアリーフと融合した彼の美しい作品をきっかけに、その自然の尊さや保護活動の重要性にも目を向けていくだろう。

また、コーラルグリーンハウスの周りには「リーフガーディアン(reef guardian)」と名付けられた、植物型のモニュメントが20箇所以上設置されている。リーフガーディアンは、サンゴ礁の成長を促進するスチールでできており、人々の環境への意識を高めるだけでなくその存在自体がサンゴ礁に良いアート作品だ。

3つ目と4つ目の展示はまだ詳細を明らかにされていないが、この地域の原住民であるアボリジニの文化が色濃く残るパーム島(Palm Island)近海で、その文化的ストーリーを伝える展示が2021年に公開予定だ。また、野生のコアラが多く生息し、ハイキングなどの観光業が盛んなマグネティック島(Magnetic Island)では、ツーリズム的側面からのメッセージを伝える展示が公開されるという。

MOUAの広報は「MOUAはサンゴ礁やアボリジニについてのストーリーを共有する現代的なプラットフォームを提供し、サンゴ礁の保護について意義深い会話と解決策を生み出すきっかけとなっています。」と展示の教育的な可能性を強調している。自然的な美しさだけでなく、グレートバリアリーフを取り巻く様々な視点からの問題解決へのアプローチがなされていく予定だ。

アートをきっかけに、サンゴ礁内で起こっている問題への意識を高める海中美術館「MOUA」。
エコツーリズムとして、グレートバリアリーフの観光業をより良い方向へ導いていくだろう。オーストラリアを訪れた際は、ぜひ立ち寄ってみてほしい。

【参照サイト】MOUA
【参照サイト】グレートバリアリーフで過去最大規模の白化現象

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