音楽とファッションを社会貢献のきっかけに。ヴィジュアル系エシカルブランド「​兆-KIZASI-」

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様々な社会課題を抱えるファッション業界。 国連貿易開発会議(UNCTAD)によると、ファッション業界は全世界の廃水の20%を生み出しており、衣料品と履物の製造は全世界の温室効果ガス排出量の8%を占めているなど、世界で2番目の汚染産業とみなされている。

また、環境問題だけでなく児童労働といった雇用の問題もある。私たちが着ている洋服に使われる綿の多くはインドで生産されているが、そのコットン種子生産に携わる労働人口の25%が、15歳未満の子どもだと言われている。加えて、洋服を作る過程においても児童労働が存在することがわかっている。

そういった環境問題や労働問題に対して、ヴィジュアル系エシカルアーティストの兆-kizasi-氏(以下、兆氏)が立ち上げたネオエシカルファッションブランド「兆-KIZASI- MADE WITH JAPAN(以下、兆-KIZASI-)」は、音楽やアートなどのエンターテインメント、そしてファッションを通してエシカルなアクションを起こしている。

兆

Photo by 石田吉信(Lond)

​ブランド名の由来でもある【兆/兆し】には「物事が起ころうとする気配。兆候。」という意味がある。人や動物、地球のための「より良い未来への“兆し”となるように」という願いが込められ「兆-KIZASI-」というブランド名になった。​ ​

兆氏自身、ファッションを勉強する中でファストファッションの裏側を描いたドキュメンタリー映画を観たことがきっかけで、ファッション業界が抱える環境負荷や児童労働問題などを目の当たりにした。そうした状況をなんとかしたいという気持ちから、かねてより活動をしてきた「音楽」と「ファッション」でエシカルな活動をしていきたいと思うようになったそうだ。そして、2020年2月にエシカルファッションブランド「兆-KIZASI-」を立ち上げた。

兆-KIZASI-のアイテムは、原糸の段階でオーガニック認証を取得したインド産オーガニックコットン「bioRe Cotton」を100%使用し、ミシン糸にもアメリカ産スーピマオーガニックコットン(アメリカ南西部で採れる超長綿を使った高級コットン)を使用している。

その背景には、コットンの生産が盛んなインドの劣悪な労働環境の改善や児童労働撲滅を目指し、認証を受けたオーガニックコットンによるフェアな貿易で現地を支えていきたいという思いがある。bioRe Cottonを展開する「Panoco Trading」は、インド、タンザニア、ペルー、ブラジル、スイスなどの国々から、オーガニックコットン100%の糸と原綿を輸入し、いずれの産地でも児童労働や不当な搾取のない健全な有機農業を行っている。こうした生産背景における透明性をも注視し、兆-KIZASI-ではQRコードをかざすとオーガニックコットンの布地がどのような過程で製造されてきたかが分かるタグを使用している。

​こだわりは素材だけではなく、デザインや生産工程にも詰まっている。兆氏自身がデザインしたアイテムには、気候変動への問題喚起やオーガニックな商品を選択することの重要性など、社会的なメッセージが込められている。

Tシャツ

また、兆-KIZASI-のアイテムの中でも特徴的なブラックカラーは、京都の黒染めを用いたサステナブルな染色だ。約300年前に確立された黒染めは黒紋付に施され、江戸時代の武士の間で護身服や日常着として愛用されていた。 明治時代以降、黒染めは女性の喪服や国民の礼服に施され、現在では洋服の染め直しや染め替え、アニメのグッズなどにも黒染が施されるようになり、時代に合わせて伝承され続けている。染料は厳しい基準をクリアした環境負荷の低い染料を使用しており、とりわけ京都の黒染めは高い堅牢度で色落ちしづらく、長く着られるサステナブルな染色方法として知られている。

また、縫製は東京の工場で行っており、受注生産かつ小ロット生産にすることで必要な量しか生産しない仕組みが採用されている。加えてマスクやシュシュには残布や端材が使用されており、ごみの削減にも注力している。

シュシュ

ヴィジュアル系エシカルアーティストとして活動を展開する兆氏。ファッションブランドだけでなく、兆-KIZASI-の公式Spotifyアカウントを開設し、兆氏のヴィジュアル系のルーツでもあるレジェンドの方々の楽曲をプレイリストとして公開している。今後は社会問題をテーマとした楽曲制作や、廃棄される素材を使ったアート制作など、エンターテインメントの中でエシカルな施策に挑戦していきたいという。

今後の目標は、アーティストやミュージシャンが既成概念に縛られることなく、胸を張って社会貢献をできる風潮にしていくことだ。そういった活動を通してエシカルな行動は「かっこいい」ことであり、「幸せ」に繋がることなんだと思ってもらいたい、と兆氏は話す。

社会課題が複合的に絡まっているファッション業界の中で、本来ファッションが人々に与えてくれるときめきやワクワク感を忘れずに楽しむには、一様なエシカルのアプローチではなく、様々なブランドによる表現の多様性が必要だと筆者自身も感じている。ナチュラルなテイストが多いエシカルファッションだが、兆-KIZASI-のアイテムはどれもクールで斬新なデザインが施されている。興味がある方は、エシカルへの思いが詰まった​兆-KIZASI-の洋服を纏ってヴィジュアル系ファッションを楽しんでみてはいかがだろうか。

【参照サイト】兆-KIZASI- MADE WITH JAPAN
【参照サイト】兆-KIZASI- MADE WITH JAPAN – Instagram

Edited by Megumi Ito

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