近年、プラスチック問題が注目されている。日本では世界のプラスチックの4%を生産しており、日本の人口1人あたりのプラスチック容器包装の廃棄量は、米国に次いで2番目に多い。
そうした状況の中で、脱プラスチックの動きも進んでいる。世界的にビジネスを展開しているスターバックスでは、2020年までに世界の約28000店舗での使い捨てプラスチックストローを廃止することを発表した。そうした脱プラスチックストローの動きが起こる中、新しいストローのあり方を追求するブランド「DLINK STRAW(ド・リンクストロー) 」が2020年秋に誕生した。今回、このプロジェクトの開発リーダーである、野村優妃氏にDLINK STRAWの開発背景について伺った。
飴でできた「食べられる」ストロー
DLINK STRAWは、ストローをくわえて、吸い上げ、味を感じ、飲み込むまでを丁寧にデザインする日本発の「食べられる」ストローブランドだ。ブランド名には、「ドリンク(Drink)とリンク(Link)するストロー(Straw)」という意味が込められている。
DLINK STRAWのオリジナルストロー第一弾として開発されたのが、「キャンディーストロー」だ。キャンディーストローはパラチニットという砂糖を使用した、体内に入れても安全なストロー。砂糖の結晶は非常に微細なため、口当たりも他のストローに比べると上質な仕上がりで、ドリンクを飲んでいる間に飴のストローが少しずつ溶け、ほのかな甘さをプラスしてくれる。
また、パラチニットという素材は「スローカロリーシュガー」として注目されており、体内にゆっくりと吸収されながら血糖値を抑え、肥満予防にも効果があると言われている。ストロー1本分の糖分摂取量が、WHOで定められている1日あたりの糖分摂取量(約20グラム)までに抑えられるよう、ストローの長さまで調整されている。人体にも地球にも優しいストローを目指して改良が重ねられたという。加えて、デザイン性にもこだわりがある。パラチニット特有のガラスを超える透明度を活かし、ドリンクが吸い上げられるのを目で見て楽しめるデザインとなっているのだ。
ストローマエストロの活動から、食べられるストロー開発へ
DLINK STRAW代表の野村優妃氏がストローに興味を持ち始めたのは、フィリピン滞在中にカフェで出会った竹ストローがきっかけだった。普段使っているストロー素材との違いから、これまで何気なく使っていたストローの面白さを実感したことでストローについて研究し始め、現在では世界中のストローを1000本以上コレクションしているそうだ。
近年、プラスチック問題をはじめとした環境問題の観点からストローに注目が集まり、紙ストローやエコな素材のストローの導入が進む中で、消費者からは「ふにゃふにゃで飲みにくい」、「いっそストローはなくてもいい」などネガティブな声が多い。そんなときだからこそ、もっとストローの魅力を多くの人に知ってほしいと、野村氏は考えるようになったそうだ。
そこで、野村氏は「ストローマエストロ(ストローの魅力を発信しドリンクごとにそれを選ぶ人)」としてストローの魅力の発信を始めた。一般的に使用されているプラスチックストローや紙ストロー以外にも、サトウキビストローや麦わらストローなど20種類を超える素材のストローの情報を発信し、様々な野菜をストローにする実験も行ってきた。また、コロナ禍で開催した「オンライン試吸式イベント」では、異なる7種類の素材のストローキットを提供し、素材ごとのストローの個性を体感できる機会が作られた。
世界中で脱プラスチックストロー運動が進み、ストロー批判が加速する一方で、魅力的なストローを作ることで「ストロー消費のイメージをポジティブに変えられるのではないか」と野村氏は考えるようになった。 数年後には「今日はこのストローを使いたい!」とストローを楽しく手に取る人が増えることを願い、DLINK STRAWからストロー革命を起こしていきたいと野村氏は話す。
ストローを通して探る、新しい「食」の可能性
それでは、DLINK STRAWはどのような背景で、どのような想いが込められて、誕生したのだろうか。
Q. 今回の「食べられるストロー」の開発の中でも、特にこだわったところは何ですか?
ドリンクとの相性と「吸いたい」と思えるような、可愛いデザインとパラチニットという素材にこだわっています。私自身もパスタや海藻などストローを試した事があるのですが、ドリンクに合うものではなく、正直美味しくなくて。そういった経験を生かして、使った後に食べても美味しいものになるよう、素材を選定しました。
Q. このストローを通して、飲む人にどんな気持ちになってほしいですか?
「楽しい」「面白い」って思ってもらえることが一番嬉しいです。このストローがないと、ドリンクが完成しない、と思ってもらえるようなストローを目指しています。主役はドリンクですが、キャンディストローを使う時はストローが主役だと思っていて。飲んでくれる人たちには、ストローが主役である面白さを感じてほしいです。キャンディストローを吸った経験を身近な人に伝えてもらいながら、ストロー自体の選択肢が広がっていってほしいと思っています。
Q. 脱プラスチック運動が進む中で、脱プラスチックストローの運動にも拍車がかかっていますよね。その中で、あらためて「ストロー」の魅力は何だと思いますか?
ストロー自体が「食育」だと思っています。ストローは口に触れるものだし、ストローの素材が違うことで感じる味も変わります。今まで使ってきたものとは異なるストローの楽しさを通して、新しい食について考えられる点にストローの魅力を感じていますね。
Q. 今後、ストローマエストロとしてどのような活動をしていきたいですか?
ストローって無意識で使われていることが多いですが、DLINK STRAWのように食べられるストローを提案することで、新たな気づきを生めると思っています。「ストローって、食べられるんだ!」という感覚的な気づきが、自分自身の考えを変える事が多いなと思っていて。そんな体験を、今後展開予定のカフェの中で作っていきたいです。
特に、エシカルやサステナブルを「じぶんごと」にできるような問いを投げかける仕掛けを作りたいです。まずは、1つのモノを通して自分が伝えたいことを伝えていきたいと思って、今のストローの活動に至りました。
これまでの活動を通して、ストローの魅力を感じ、面白いと思ってくれる人たちの考え方の変化を感じてきました。今後もストローマエストロの活動を続けて、ストローの活動から「循環」をテーマにしたカフェの活動につなげていきたいと思っています。また、この活動を通して、消費の選択を見直すということを発信し、これからも想いを込めて、ストローの魅力を伝えていきたいです。
インタビュー後記
脱プラスチックの動きが見られる中、ストロー自体を廃止しようという声もあるが、「プラスチック問題の根本はストロー自体ではなく、大量に消費する行動にある」と話す野村さんに筆者も共感した。社会課題に対して様々なアプローチが見られる中で、人々がより感覚的にワクワクし、面白いと思えるようなプロダクトは、結果として消費に対する価値観を大きく変える可能性がある。
ストローの話題は環境問題の視点から語られることが多い。しかし、「エコなストローを広めたいというのではなく、様々な選択肢があることを伝えたい」と野村氏が話す通り、今まで無かった選択肢を作っていくことで、自然と社会課題解決に繋げていくことができるのではないだろうか。
現在、「DLINK STRAW」のさらなる普及に向けたクラウドファンディングがスタートしている。興味がある方は、ぜひチェックしてみてほしい。
【参考ページ】ストローの常識を壊す、次世代ストローブランド『DLINK STRAW』
Edited by Megumi Ito