不要なものに価値を。旅するダンボールアーティストが伝えたいこと

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近年世界中で広がっている、アップサイクルのムーブメント。東京都立産業技術大学院大学が2020年9月に実施したアップサイクルに関するアンケート調査(N=452人)によると、リサイクルという言葉の認知度は98%であるのに対し、アップサイクルという言葉の認知度は45.7%に留まる結果となった。一般的な認知度はあまり高くないのが現状だ。

しかし、アップサイクルの内容を説明した上で、「アップサイクルは必要か?」という質問をしたところ、91.7%の方が「必要」だと回答しており、言葉の認知度と必要性への意識に大きなギャップが見られた。そこで、このギャップを埋めるべく、東京都立産業技術大学院大学の越水研究室では、アップサイクルのムーブメントを起こすためのプロジェクトに取り組んでいる。プロジェクトの活動を進める中で出会った「アップサイクルの実践者たち」を記事で紹介していく。

第一回目の今回、ご紹介するのは、アップサイクルプロジェクト開始のきっかけにもなったドキュメンタリー映画、『旅するダンボール』に登場するダンボールアーティストの島津冬樹(しまづふゆき)さんである。

島津さん

島津冬樹さん

ダンボールアーティストが、ダンボールに魅了される理由

ダンボールをこよなく愛する島津さんは、世界30か国を巡り、街角に捨てられているダンボールを拾い集めては、デザイン性と機能性を兼ね備えた「ダンボール財布」に生まれ変わらせる。さらに映画では、ダンボールが導く人との交流が心温まるストーリーで展開されていく。島津さんは今回の取材で「アップサイクルを特に意識していなかった」と語っていたが、活動内容はまさに、アップサイクルのわかりやすい事例だろう。

廃棄されたダンボールは「ものを梱包する」という役割は終えているかもしれないが、「強度があるのに軽く、柔軟で加工しやすい、しかもあたたかみがある」といった特性は残存している。その特性を生かして、ダンボール財布という全く別次元の価値を持った製品を生み出している。

ダンボール財布

ダンボール財布

ダンボール財布

ダンボール財布

さらに、島津さんの作るダンボール財布はおしゃれでかっこよく、20,000円という高値で売れているというのだから驚きである。さらに、島津さんは“ダンボール財布の作り方”を教えるワークショップも開催しており、そこへの参加者も多い。ダンボール財布の価値はしっかり伝わっていると言えよう。すなわち、アップサイクルは“価値創造の知的プロセス”であり、同時に世の中を良くする活動なのである。

ダンボールとの出会いは一期一会

Q. 映画では、海外でダンボールを拾い集める姿が印象的でした。ダンボールの魅力を教えてください。

島津氏: ダンボールとの出会いは一期一会。ダンボールの魅力は、その「ご当地性」にあります。文字やデザインなどにその国ごとの個性があるんです。どこで拾ったかということや、そのダンボールが何処からやってきたのかということも重要です。自分が旅して拾ってきたものは、また拾える保証がないので、まさに一期一会。そのストーリー性に惹かれています。

Q. そもそもダンボール財布を作ったきっかけは何ですか?

島津氏: 大学2年生(2009年)のときに自分の財布が壊れ、買い替えたいと思ったのですが、お金がありませんでした。そこで何かで代用できないかなと考えたときに、ダンボールの財布を思いついたのです。

「最初は短い期間でもいいから財布として使えればいいや」と、考えていたのですが、結局1年間も使えたのです。それで「ダンボールの価値がもっと世に広がるべきだ」と考え、当時通っていた多摩美術大学の学園祭で1個500円で売ってみたのが始まりです。最初に作ったのはワインが入っていたダンボールを使ったのを覚えています。

島津さん

Q. ダンボール財布について“こだわり”を教えてください。どういう方が購入されているのですか?

島津氏: ダンボールはチープですが、使いやすさや耐久性は抜群です。そして、デザインにおいてチープさを感じさせないような工夫もしています。ダンボールの財布は、当初500円で売っていましたが、お客さんから「もっと高くてもよい」という声があり、だんだんと値段が上がってきています。海外でもフランスや中国などでの販売実績があります。

「環境に配慮しているから」というよりは、デザインに惹かれて購入されている方が多いようです。購入してく方は30代の男性が中心ですね。

ベトナムで出会った、再利用の文化

Q. 海外の話が出ましたが、海外と日本で何か違いを感じますか?

島津氏: 感じますね。海外では再利用の文化が根付いていて、環境やデザインに対しての意識が日本よりも高いと思います。

例えば、以前に取材でベトナムに行ったのですが、ベトナムでも再利用が根付いていました。印象的だったのは、タイヤからサンダルを作る「クチサンダル」です。

ベトナムのクチサンダル

ベトナムのクチサンダル

もともとはベトナム戦争下で靴のないベトナム兵がその辺のタイヤでサンダルを作ったのが始まりだったそうです。ベトナムのクチという地域には、いまだ戦争の爪痕としてベトナム軍の地下豪が残っているのですが、そこで職人が一つ一つ手作りでサンダル作っています。そこでクチサンダルを購入して以来、ずっと愛用しています。靴底にはタイヤがリアルに残っています。このタイヤも、もともとはベトナム中を走ったタイヤかもしれない、そんな物語が潜んでるのが魅力の一つでもあります。このように、ベトナムでは既存のものを再利用するという概念が当たり前にあったんです。

しかし、実は日本も昔はそうだったんですよね。祖母や母親世代は割と当たり前に再利用などしていたと思います。例えば、折り紙で作ったごみ箱や、発砲スチロールを使った花壇など、幼い時に見たことがある方も多いのではないでしょうか。

ワークショップを通して、個人の意識を変える

Q. 書籍でダンボール財布の作り方を公開していますね。ワークショップも盛況のようです。

島津氏: 参加者はデザインや、工作に興味がある方が多く、圧倒的に20~30代くらいの若い方が多いです。今後は、ワークショップなどを中心に、作り方をシェアしたりして、個人の意識を変えていくような活動を主体としたいとも思っています。

Q. 島津さんの活動に興味を示す企業もあるかと思います。これまでに企業とのコラボはありますか?

島津氏: 例えば、The North Face(ザ・ノース・フェイス)さんとのコラボは、先方からオファーを頂いたことがきっかけでした。具体的な取り組みでは、ワークショップを行ったり、同社の靴の空箱から財布を作れるように、サイトに誰でもダウンロード可能な型紙を載せています。YouTubeにアップしている作り方の動画を見れば、家庭でも財布を作れるんです。

また、Nike(ナイキ)さんは、サステナビリティやSDGsに関して先進的な取り組みをされていらっしゃいますが、みんなが楽しめる視点で、消費者の方々と一緒にやりたいということで、ナイキアプリをインストールされている方を対象にした夏休みのキャンペーンとして、靴の空箱からクラッチバックを作るオンラインワークショップ行いました。

クラッチバック

「楽しい」を入り口にすることが大切

Q. 島津さんのようにアップサイクルなものづくりに挑戦してみたいという人もいるかと思います。そのような人にアドバイスをお願いします。

島津氏: まずは作ってみることも大事だと思います。ただ、作りながらセンスは磨かないとだめですね。また、自分自身、実は「環境に優しい」ということはあまり意識していませんでした。まず「ダンボールが好き」ということが前提にあって、あとから「アップサイクル」という言葉が付いてきました。入り口が楽しいということが重要で、エコを押し付けないことを大切にしています。

Q. 最後に、今後どのような活動をしていきたいですか?

島津氏: 無理せず続ける、楽しく環境問題に取り組む、ということが求められるサステナビリティだと思います。私たち個人だけの力でできることは限られているかもしれません。ただ、それが世界に広がり、そしてずっと続けられるソーシャルグッドなら、それはきっといつか、世の中を変えるかもしれません。

アメリカでのワークショップ

アメリカでのワークショップ

取材後記

ダンボール愛に満ち溢れる島津さん。廃棄されたダンボールで作った財布などを販売するだけでなく、製作の楽しさやノウハウをワークショップで伝えるなどして、多くの人にそのダンボール愛が伝搬している印象を受けた。

そもそもアップサイクルは創造的で楽しい活動のはずだ。島津さんのワークショップを受けた人が生活の中で新しいアップサイクルに挑戦する、そうした好循環が生まれてくることに期待したい。

【参照サイト】 FUYUKI SHIMAZU

筆者プロフィール:東京都立産業技術大学院大学 越水研究室

アップサイクルのムーブメントを起こすためのプロジェクトに取り組む。プロジェクトの活動を進める中で出会った「アップサイクルの実践者たち」を、今後連載で紹介していく。

Edited by Erika Tomiyama

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