パソコンをアートに。理想的な物質社会の未来を問いかける「For the Rest of Us」

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パソコンに鉄、プラスチック、銅、貴金属、アルミニウムといった素材が使われているのは、なぜだろうか。背景には、それぞれが持つ機能性やコスト、ビジュアルなど様々な理由がある。ではここで判断基準を変えて、私たちが心地よく感じる素材、むき出しの自然を体感できる素材、人間らしい豊かさを見直せる素材でパソコンを作ってみたら、今私たちが使っているものとは異なる姿が露呈されるのではないだろうか。

インダストリアルデザイナーのハンク・ベイヤー氏とアレックス・サイズモア氏は、私たちが普段触れている素材を見つめ直し、物が生み出す「感情」に焦点を当てたパソコンをアート作品として発表している。それはなんと氷、泥炭、石炭、石灰岩、ラード、蜜蝋、砂岩、粘土を使って作ったパソコンだ。このアート作品は、人間にとって理想的な物質社会の未来について考えてみてほしいという想いから生まれた。

氷でできたパソコン

Image via HBAS

草でできたパソコン

Image via HBAS

岩でできたパソコン

Image via HBAS

これらの作品の中には、パソコンとして機能するものもあれば、ただの模型に過ぎないものもあるという。デザイナーたちは、パソコンの素材に関する現実的な提案を試みているわけではなく、「素材を変えることで、私たちが製品に対して抱く感情がこんなに変わる」ということを示す象徴としてパソコンを選んでいる。パソコンを選んだ理由は、それが過去30年間で人々に最も認知された、見慣れた製品のひとつだからだ。

このプロジェクト名は「For the Rest of Us」。これは、アップルが1980年代に初代Macintoshを発表したときのスローガン「The computer for the rest of us(残された私たちのためのパソコン)」にちなんで名づけられている。アップルは当時、一部の専門家向けだったパソコンを、広く一般の人々に届けたいという気持ちを込めて、このスローガンを掲げた。そしてパソコンが広く一般に普及した今、ベイヤー氏とサイズモア氏は、当時とは異なる意味合いで「残された私たちのためのパソコン」を再考してみてほしいと呼びかけている。

デザイナーたちは同プロジェクトの一環で、使用した8種類の素材に関する写真集も制作している。2人はアメリカ中西部をめぐりながら、地域の素材にまつわる歴史、政治、関わる人々などについて調査し、その内容を写真集に収めた。素材がどこから来ているのかというストーリーにまで考えを巡らせて作品を見ると、新たな魅力を発見できるかもしれない。

写真集

Image via HBAS

これらの風変わりなパソコンを目の前で見たら、私たちは様々なことを想うだろう。石灰岩の濁った色合いに愛着を持つかもしれないし、ラードのしっとりとした艶に心を落ち着かせるかもしれない。彼らは、産業に最適な素材は人間にも最適であるという考え方を覆すことで、日常の中にある物質への一般的な先入観を捨てることに挑戦し続けているのだ。

【参照サイト】 Hank Beyer
【参照サイト】 Alex Sizemore

Edited by Erika Tomiyama

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