キーワードは「フレキシブル」。グリーンマンデーから学ぶ、菜食生活を広めるヒント

Browse By

最近、スーパーやコンビニで「大豆ミート」と書かれた商品を目にするようになった。大豆ミートとはその名の通り、大豆を加工してつくられた植物性のお肉のこと。動物性のお肉の代わりに食べられる代替肉で、ヴィーガンベジタリアンにとってのたんぱく源でもある。今では技術の進歩により、見た目や触感、味が動物性のお肉に近い代替肉が増えたほか、最近は日本のスーパーやコンビニ、チェーンのカフェなどでも目にするようになった。今や代替肉は、お肉を食べない人だけでなく、より多くの人にとって身近な存在になってきている。

そんな、今日本でも広まりつつある代替肉。その開発をいち早く行ってきたのは、ヴィーガンやベジタリアンの人口が多いイギリスやアメリカなど西欧の国だけではない。同じアジアで代替肉の開発を進め、植物性の食事の普及に取り組んできた国の一つが香港だ。そしてその普及の立役者ともいえるのが、「週に一日だけお肉を食べない日をつくろう」というメッセージを発信し、プラントベース(※1)の食生活を推進していく非営利団体『Green Monday(グリーンマンデー)』である。

日本でも2020年に販売を開始し、イギリスなどでも食べられている植物性代替肉『OmniMeat(オムニミート)』を開発した同団体は、今やアジアをけん引する団体となった。今回IDEAS FOR GOODは、グリーンマンデーで活動するメンバーの一人、インパクト開発部マネージャーを務めるAngel Li(エンジェル・リー)氏を取材した。

2015年から団体に関わり始め、企業や学校などでのプラントベース食の普及や海外でのイベント運営、啓発活動などを担当するエンジェルさんに、グリーンマンデーの活動や強み、日本で菜食を広めるためのアドバイスなどを伺った。

※1 プラントベースとは、日本語で「植物由来」。その定義はさまざまだが、植物性の食品を積極的に取り入れる食事法をプラントベースダイエットという。食のスタイルの一つであるため、教義であるヴィーガンやベジタリアンとはしばしば区別して用いられる。

グリーンマンデーの活動

香港で始まったグリーンマンデー。現在はタイやシンガポール、マレーシア、中国、台湾、韓国、日本などアジアの国々に加えてアメリカやイギリスでも活動を行う。活動内容は、SNSでの発信やイベントの開催、企業や学校での教育活動や食堂へのプラントベースメニュー導入、オムニミートの商品開発など幅広く多面的だ。

グリーンマンデー シンガポール

シンガポールのMaria Bay Sandsのレストランでは、プラントベースの食事を増やそうという試みが見られる。

そして活動の内容だけでなく、その対象が多様なのもグリーンマンデーの特徴。子どもから大人まで、幅広い年代に対してアプローチしている。例えば、プロジェクトの一つであるスクールプログラムでは、これから大人へと成長していく子どもに対して、言葉だけでなく、体験の機会を提供することで、食と環境、健康の関係性を伝えている。

その内容は、植物性のおやつをつくるワークショップや読書会からスーパーやオーガニック農園を訪れるエコツアーまで多岐にわたる。同様に、企業に対しても植物ベースの食に関する勉強会やワークショップなどを開催しているほか、プラントベースメニューを提供するレストランのネットワークづくりなどにも力を入れている。

「頑張らなくていい菜食」を広める活動

そんなグリーンマンデーが目指すのは、人々にヴィーガンになってもらうことではなく、「フレキシタリアン」な食生活を意識してもらうこと。いきなり「今日からお肉は食べない!」と決意することは簡単なことではない。しかし週に一日だけ野菜中心の食事に切り替えることなら誰でも気軽にチャレンジできるのでは……?

――そんな考えの下、グリーンマンデーは団体名が持つ「月曜日だけでもいい、週に1度は野菜中心の食事にトライしてみよう」というメッセージと共に、人々のちょっとした変化を後押ししている。

「国の文化やライフスタイルによって、食生活は大きく左右されます。元々肉を中心とした食事が多い国に住む人、実家暮らしで家族と同じ食事をとっているため野菜中心の食生活が難しい人など……一人ひとりが置かれている状況はさまざまです。そんななか私たちは、グリーンマンデーの活動を通して、誰でも気軽に挑戦できる菜食、頑張らなくていい菜食を伝えています。モットーは、押し付けない菜食です。」

グリーンマンデー

image via Shutterstock

「また、私たちはグリーン“マンデー”と名乗っていますが、月曜日でなくても良いと思っています。木曜日だって日曜日だっていいんです。フレキシブルさも、グリーンマンデーが活動において大切にしていること。人々に『意外と簡単にできる』と実感してもらうことで、菜食が持つ『大変そう』というイメージを変えていきたいと思っています。」

押しつけないことと柔軟であること。それに加えてグリーンマンデーが大事にしているのが「ポジティブさ」である。団体の名前であるグリーンマンデーにもそれは反映されているという。

「私たちは、アメリカのミートレスマンデーやミートフリーマンデーという運動からインスパイアされて始まりました。ですが、この二つに含まれる『レス』や『フリー』という言葉から、肉を『除く、減らす(食べられなくなる)』といったニュアンスを感じる人もいるかもしれないと思い、もっと多く野菜を取り入れるといった意味を込めてグリーンマンデーという団体名になりました。前向きな言葉を使うことで菜食をポジティブなものに捉えてもらいたかったんです。」

人々の価値観の変化とスクールプログラムで感じた若者の力

香港では今、フレキシタリアンの食生活を実践している人が人口の約三分の一。グリーンマンデーの活動が開始した2012年から2020年までの8年間で20%から34%に増加した。さらに、熱烈に肉食を好んで食べる人の数もほぼ半減するなど、ゆるやかではあるが着実に変化をつづけている(※2)。そこで活動を行う中で、そういった人々の変化を感じることはあるのか、エンジェルさんに尋ねた。

「イベントなどを通して人と話すとき、『野菜中心の食事を始めました』という声を聞くことが増えました。サステナビリティの観点から、動物の権利保護の観点からなどと理由は人それぞれですが、香港に限らず世界中のさまざまな地域で、ポジティブな変化が起きていると実感しています。」

さらに、そんなポジティブな変化に加えて、活動の中で感じることの一つが「若者の力」だそう。スクールプログラムでも、若者に対して「教えている」という感覚よりも、逆に若者の影響力の大きさに驚かされているという。

グリーンマンデー

グリーンマンデー スクールプログラム

「今の若い人たちの中には、自分たちの食事が環境や身体、自然とどうつながっているかに関して、高い意識を持っている人が多いと感じます。例えば、プラントベースの食に関する情報が若い人たちによってシェアされているのを目にすることも増えました。グリーンマンデーが若者に影響を与えている一方、彼らの熱意や行動力が社会に大きなインパクトをもたらしている。双方向に良い刺激を与えあっていると感じています。」

また、エンジェルさんはこう続けた。

「若い人たちの発している声が大事だし、若い世代がサステナビリティに興味があることは希望ではないでしょうか。」

※2 Green Monday

成功の秘訣は、かっこいいと思ってもらうこと、寛容であること。そしてソリューションの提供

プラントベースの食生活が人々の間に広がっている香港において、今や人口の半分弱である46%がグリーンマンデーのことを知っているという。たった8年でここまで認知されるようになったのはなぜだろうか。

「まず、活動を始めるにあたり、香港の有名人にアンバサダーになってもらいました。そうすることでウェブサイト訪れる人が出てきて、見てくれた人が食と環境、健康の問題に気付いてくれます。その次のステップが、実際に菜食に挑戦してみること。そのなかで、意外と簡単にできると感じた人が、菜食を日常に取り入れたり周囲の人に伝えたりして広まっていったのだと思います。」

Green Monday

image via Green Monday

柔軟さやポジティブさといったグリーンマンデーが大事しているもの。それらに通ずる「インクルーシブさ」もまた、活動への理解や賛同につながっていると感じているそうだ。

「共に活動しましょう、コラボレーションしましょう、とこちらから提案したとき、断る企業や団体はほとんどありません。それはおそらく、私たちがお肉を食べている人を決して批判したり責めたりしない“インクルーシブな団体”であるからだと思います。ネガティブなことを言わない、むしろ人々の抱えている事情や背景にも考慮したうえで人々の一歩を後押しするポジティブな団体だからこそ、多くの人たちが一緒に活動してくれています。」

グリーンマンデー

2013年、香港国際空港では30を超える飲食店でプラントベースメニューが導入された。

そんな同団体の活動のキーワードは、“cooperation”と“collaboration”、つまり「協力」だ。一つの団体だけではできないことも多いため、レストランや学校、民間の団体や企業など、プラントベースの食を推進するパートナーがいることはありがたいことだとエンジェルさんは言う。そしてもう一つ、グリーンマンデーが大切にしているのが、「ソリューションを提供すること」だ。

「人々の意識を高めるために色々な取り組みを行ってきましたが、結局具体的なソリューションを提供しなければ、それぞれが行動に移すのは難しいと感じています。私たちは代替肉の販売、学校や企業の食堂でのベジタリアンメニューの導入、料理教室などを通して、食生活を簡単に変えるための具体的な解決法を提供している。だからこそ、人々の行動の変化につながっていると思うんです。」

オムニミート

オムニミート

「例えばレストランでも家庭でも、肉を一切使わずに野菜だけで料理することに戸惑う人がいるかもしれません。そんなとき、気軽に植物性の代替肉を手に入れることができれば、プラントベースの料理に挑戦しやすくなるのではないでしょうか。オムニミートの販売、学校・会社などの身近な場所で菜食のメニューを増やす……選択肢を増やし解決策を提供することで、人々の菜食へのハードルは低くなり、生活に取り入れやすくなると思っています。」

食だけでない、生活自体をもっとサステナブルに

多くの人々、多くの企業と手を取りながら、前進を続けているグリーンマンデー。今後の活動についてお伺いした。

「実は香港の菜食を取り入れるレストランの中には、『これはプラントベースメニューです』と表記していないお店もあります。美味しかったら人は来るからです。植物性であることを強調しないでも売れる。そんなお店を増やすべく、代替肉の触感や味などを改善し、より本物に近いものにすることで、人々がより気軽に取り入れられるようにしていきたいです。プラントベースの食生活に切り替えることで、何かを犠牲にしていると感じてほしくないので。」

「また活動の中心にあるのは食事ですが、私たちは『生活自体をもっとサステナブルにすること』を目指しています。菜食中心の食事の先にある環境問題などにも取り組むことが大事だと思っています。」

気候危機の影響を真っ先に受ける国の多くが途上国であるなど(※3)、『正義』や『不平等』という大きな存在とも密接にかかわっているのが環境問題。植物ベースの食事をすることはそういった社会的側面にアプローチすることにもつながっている。だからこそ大豆からオムニミートまで、さまざまな『サステナブルなたんぱく質』の存在を伝え、人々に新たな選択肢に気付いてほしいという。

※3 GLOBAL CLIMATE RISK INDEX 2021

日本でもプラントベース食を広めるためには?

グリーンマンデーの日本での活動は、昨年コロナ禍で始まったこともあり、まだまだこれからという段階。そんな日本で今後プラントベースの食生活を広めるためには何が必要なのか。最後にエンジェルさんには、日本での普及のためのヒントをお伺いした。

学校で子どもたちにプラントベース食について伝えるエンジェルさん

「もちろん国によって固有の文化があり、それぞれの地域に合わせて取り入れていく必要がありますが、香港で実践してきたように『植物性の食事がかっこいい!』というトレンドを作り出していくのも一つかもしれませんね。人々の価値観を変えるためには、もっと菜食を魅力的に感じてもらう必要があり、そのために商業施設などの取り組み、教育・情報のアップデートも欠かせないと思います。」

加えて、代替肉の価格や手の届きやすさ、代替肉そのものへの理解、そして菜食を取り入れやすくするための選択肢を提供することがカギになるだろうとエンジェルさんは言う。

オムニミート

オムニミートを使った料理イメージ

「日本では現状、植物性の代替肉は高いというイメージが多くの人の中にあると思いますが、例えばイギリスでは、代替肉の価格は動物性のお肉と同じくらい、香港では動物性のお肉の方が高い場合もあります。またオムニミートのように、忙しい人でもオーブンに入れるだけで手早く簡単に調理できたり、ファストフード店やコンビニなどで安価で手に入ったりといった『手軽さ』も大事なのではないでしょうか。」

「さらに、比較的生産が安定している大豆を原料とした代替肉は環境に左右されることが少なく、一定の価格で販売しやすいこと、動物性のお肉より栄養価が高いものもあるのもポイントです。そういった事実がもっと認知されていくべきかもしれません。」

「そして最後はやはり解決策を用意すること。どちらかだけではなく、ムーブメントを起こしながら解決策も提供しているようなプラットフォームが増えていくといいですね。すぐにアクションにつながる『ソリューション』があることで、日本でもますます普及していくと思います。」

取材後記

今回の取材の中で印象的だった言葉がいくつかある。グリーンマンデーのスローガンである“baby steps go green(小さな一歩が環境を良くすることにつながる)”と“celebrate small wins(小さな成功を褒める)”だ。パリ協定や各国の政策などはあるけれど、結局は一人ひとりがアクションを起こしていくこと、たとえそれがどんなに小さなアクションであっても続けていくこと。――そんなメッセージを持つ、二つの言葉だった。

そしてもう一つ、エンジェルさんはこんなこともおっしゃっていた。「エクササイズでも何でもそうですが、変化って最初は歓迎されないと思うんです。だから少しずつでいい、菜食を魅力的に感じてもらい、小さな変化を起こしてもらうために活動していきたいです。」

小さな一歩、小さな成功、小さな変化……。繰り返し使われたこの「小さい」という言葉は、この地球に暮らす70億人の中のたった一人の、ちょっとした挑戦が世界を変える。――そんなことを伝えているような気がした。

「誰かとピザを食べるとき、一つだけベジタリアンのピザを選んでみる。そんな些細なことでも褒めてみてください。」

エンジェルさんやグリーンマンデーが見せてくれた、「前向きでインクルーシブな菜食」のあり方。これからもっと多くの人を巻き込みながら、日本にそして世界に広がっていくだろう。

※ ヴィーガン食のレシピ提供などを行うブイクックが開始したヴィーガン総菜の宅配サービス「ブイクックデリ」で、オムニミートを使った惣菜を食べることができる。こちらのページから購入可能なので、興味のある方はのぞいてみてはいかがだろうか。

【関連サイト】Green Monday
【関連サイト】オムニミート

FacebookTwitter