【後編】若者と共に考える気候危機のこれまでとこれから。パタゴニアの「クライメート・アクティビズム・スクール」

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2020年12月、「私たちは、故郷である地球を救うためにビジネスを営む」をミッションに掲げるパタゴニアが、気候危機に対して行動を起こしたい若者に向けて開講した「クライメート・アクティビズム・スクール」。

前編にてお届けした同プログラム1日目の様子に続き、本記事では2日目に行われたより実践的かつ未来志向の学びについて掘り下げていく。

Moriharu© Patagonia, Inc.

2日目:これからをつくるための構想〜心と頭と手を動かす〜

プログラム2日目前半は、ゲスト講師3名を招いての対話と座学のセッションが行われた。ここで、各ゲスト講師による講義の概要をご紹介しよう。

能條桃子(のうじょう・ももこ)さん:大学4年生、NO YOUTH NO JAPAN 共同代表

能條桃子さん(NO YOUTH NO JAPAN)

「#私たちが生きたい社会をつくるために」をトークテーマに、SNSでの情報発信を軸に取り組む「U30のための政治・社会の教科書メディア」づくりについて解説を行った。能條さんは、現役大学生でありながらNO YOUTH NO JAPANを通して若者の政治参加を推進している。そのなかで、選挙期間外にも若者が政治への興味関心を深めることができるように、気候危機やジェンダーといった社会課題に関して広く情報発信を行っている。

社会に変化を起こす方法に正解はないとしたうえで、「まずは動き出し、トライアル・アンド・エラーでできることを少しづつ増やしていけば良いのではないか」と参加者を勇気づけた。

明智カイト(あけち・かいと)さん:NPO法人 市民アドボカシー連盟 代表理事

明智カイトさん(NPO法人 市民アドボカシー連盟)

セッションのテーマは「市民にある力〜草の根ロビイングでより良い社会をめざす」。ロビイングとは、政策や政治的判断を有利な方向へ進めるために、議会外の場で政治家に直接働きかけを行う運動のことだ。

明智さんによると、民間人が政治を通して国を変えたいという思いを持っていても、政治家という立場を目指すにはその壁が高すぎるという日本の課題があるという。そこで、市民の立場からでも政治に働きかけることができる手段の一つとして、ロビイストを目指すこともできると続けた。実際に自身のロビイング活動で政策を成立させた「食品ロス削減推進法」の例も挙げ、社会の関心を引きつけたり世論を動かしたりする力について解説を行った。

関治之(せき・はるゆき)さん:一般社団法人 コード・フォー・ジャパン 共同理事

関治之さん(一般社団法人 コード・フォー・ジャパン)

もともとITエンジニアとして活躍していた関さんだったが、東日本大震災をきっかけに自身の知識と技術を社会のために生かしたいと、震災情報を集めて共有するサイトをオープン。行政とのつながりを強めながらオープンコミュニティでより良い社会をつくるため、アメリカで行政のDX(デジタルトランスフォーメーション)導入支援に取り組む「Code for America」の仕組みを学んだ。そして、日本でCode for Japanを設立。以後、「行政×ITコミュニティ」をキーワードに活動を続けている。

関さんはセッションで、従来の行政と市民の関係性には、サービスを提供する側とされる側に分断されがちだったが、地域課題ないし社会課題の解決には官民の連携が不可欠であると示した。そして、市民みんなで手を加えてまちをつくりあげる「DIY都市」の実現に向け、いつでも行動を起こせるようなリソースの提供をテクノロジー分野から担っていきたいと話した。

正解のない問いと共に生きる

計2日、7セッションにわたる講義の集大成は、実際のアクションに向けた実用的なワークショップだ。

この時間では、株式会社エンパブリック代表取締役でソーシャル・プロジェクト・プロデューサーの広石拓司(ひろいし・たくじ)さんを講師に迎えたメディアリテラシーの講座を通してニュースから主体的に情報を読み取るコツを学んだ。

インターネットが発達し、常に膨大な量の情報が目から、耳から入ってくる現代社会。情報の発信者として、自分の内側にある一時の不安や焦り、怒りや喜びなどが価値判断の根拠となることがないよう、情報を多面的に比較・整理する力の重要性が改めて示された。また情報を受け取る立場としても、自分が目にしている情報がどのような価値判断を経て共有されたものであるか、日頃からそれを精査する習慣を磨くことが大切だという。

情報は、理論だけでなく人々の感情も混ざり合った複雑なものである。答えのない問いに向き合いながらも課題解決に向かって行動を起こすため、まずはその複雑さを理解しようとする姿勢が求められている、と広石さんは語った。

広石拓司さん(empublic)

自分の理念と既存の社会構造、どちらを信じるべきか

「クライメート・アクティビズム・スクール」を通じて、参加者たちはどのようなことを感じ、これからどのような行動に出たいと考えたのか。以下に、彼らから共有された2日間の学びをご紹介する。

まず初めに、学生だからこそ抱えがちなジレンマについて共有がされた。

「日常の中で社会課題に対して小さなアイデアが浮かんでも、高校生という立場ではそれを具現化するための知識や手段を持ち合わせておらず、ときおり無力感を憶えることがある。」

「経済のシステムを著しく変えていくためには、社会全体に大きな影響を及ぼす何かが求められると考えており、そのためには大きな企業や組織を選ぶべきかもしれない。その一方、現状多くの企業が資本主義経済から抜け出せていないため、すでに影響力のある組織に参加することで自分自身が従来のシステムに飲み込まれてしまうのではないかと恐怖を感じている。これから就職活動に取り組む中で、自分の信念にあう企業や組織をどのように探せば良いのだろうかと悩んでいる。」

「社会をもっと良くしようと実際に行動を起こしている人々の中には、怒りから行動を起こしていたり、衝突を引き起こすことで解決を目指している人もいるだろう。自分は、実際に行動に出たいと考えているが、たとえ未来の幸せのためであっても喧嘩や対立を生み出したいとは思えず、自分の内にある正義感との間で板挟みになっている。」

社会課題の解決に向けて一歩踏み出したいと思うからこそ感じる複雑なジレンマ。時代の変革期を生きる若者ならではの感情だ。

小さな行動変容の重なりが社会全体を変化させていく

次に、実際に行動を起こしていくうえで誰にどのような形で働きかけるべきか、という議論がなされた。

「これまでの自分は、無関心層にアプローチする方法ばかりを考えていたが、社会課題に関心の低い人々を無理に説得しようとする必要はないのかもしれないと考え、少し肩の荷が降りた。このスクールへの参加を通して、悩みを抱えながらも同じように社会を良くしたいと考えている同志がたくさんいることを知り、彼らともっと深くつながることを通して社会全体をリードする方向へ進みたい。」

一方で、社会課題に関心の低い人であっても、アプローチの方法を工夫することで社会全体に良い変化を及ぼすことができるのではないかという意見もあがった。

「気候危機に関心がない人々も日々モノ買って消費しているため、一定の影響力やパワーを持っていると思う。社会全体を良くしていくために関心の低い人たちに働きかけられることは説得ではなく、社会課題の歴史や背景にあるストーリーを説明することではないか。心に語りかけることで何か新しい感情を持ち帰ってもらえるかもしれない。」

さらに、課題に対する自身の発想や捉え方を転換することで行動を起こす負担を減らし、取り組みをより持続可能なものにできるという見方もあった。

「個人ができる行動変容には限界がある。自分や相手を変えようとそれだけに注力すると、大きな成果を感じることが難しいかもしれない。そこで、もっと広い視野を持ってシステム全体を眺めることで、一人ひとりのほんの小さな変化が積み重なって社会全体が少しづつ変化している様子を俯瞰的に観察できるよう心がけたい。」

「社会課題の解決と聞くと、楽しんで取り組むべきことではないと感じていたが、このプログラムで出会った講師の皆さんが自分なりに楽しみながら行動している姿を見て意識が変わった。自分ももっと楽しみながら行動し、活動をより息の長いものにしていきたい。」

また、インターネットの発達した現代社会だからこそできる行動の起こし方もあるようだ。

「最近では、とても小さな草の根の取り組みであっても、SNSで情報が拡散されることで大きな影響を持つ活動に成長していくことも稀ではない。行動を始める前から『どうしたら成功するか』『よりたくさんの人に知ってもらえるか』などとあれこれ考えていても始まらないため、まずはとにかく動き出してみたい。きっとその先で見えてくるより良い方法や手段もあるだろうと考えて、行動を起こす勇気になった。」

意見を共有し、団結して取り組む若者の力

参加者それぞれから共有された意見は、モヤモヤとした悩みから実際のアクションに向けた前向きなパワーまで様々であった。

そして、ワークショップの最後に寄せられた次の意見には、参加者から多くの賛成の声があがった。

「本やニュースを読んだりテレビや映画を観たりした後、他の人と感想や意見を共有できる場がもっとたくさん欲しい。何かをインプットして学んだ後に自分一人ではわからなかったことを他の人とシェアすることで、自分では気がつくことができなかった部分を知ることができて、自信につながる。」

周りの意見を気にしてしまう傾向は、時にネガティブな特性として現れることがある。しかしながら、みんなで意見を共有しながら「一緒に」取り組んでいきたいと願うからこそ生まれる一体感や団結力は、気候危機の解決に向けては重要な要素であるにちがいない。

オンライン座学セッション時の集合写真

座学セッションの様子

2日間にわたる「クライメート・アクティビズム・スクール」を通じて垣間見えた、若者たちの持つ強い課題意識とそれに立ち向かおうとする仲間意識。3月に予定されている同プログラムのアウトドア・アクティビティのセッション(*オンライン形式に切替となりました)で、今回の座学に参加した若者たちがどのようなアクションを起こすのか、注目だ。

編集後記

気候のための行動を学ぶ若者へ向けたプログラム「クライメート・アクティビズム・スクール」。筆者も20代の一人の若者として取材を行うなかで、気候危機という社会課題に対して、自分が何を感じ何を考えるのかを改めて問い直した。

これまでにも、持続可能な社会の構築に向けて、社会の仕組みそのものの変革が求められていると耳にすることはあった。塵も積もれば山となるように、私たち一人ひとりの小さな行動が社会に変化を与えるということもわかっていた。しかし、このスケールの大きな課題に対して、本当に自分の行動が社会に影響をもたらしているのかどうかを実感できる機会は決して多くなく、無力感に苛まれることもあるのが正直な本音だ。

それでも、私たちは行動をやめてはいけない。課題の背景や構造に目を向けながら、長期的視点を持って踏み出し続けることで、たとえ小さなアクションでもきっと未来の地球はより良い環境を取り戻すことができる。このクライメート・アクティビズム・スクールでの同志たちとの学び・対話を通して、希望を新たにすることができた。自分自身と同じような悩みやジレンマを抱えながらも、暗中模索で課題の解決に立ち向かっている仲間がいるということを忘れずに、前向きな思いを持って行動を続けたい。

【前編】若者と共に考える気候危機のこれまでとこれから。パタゴニアの「クライメート・アクティビズム・スクール」

【関連サイト】パタゴニア クライメート・アクティビズム・スクール
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【参照サイト】NO YOUTH NO JAPAN
【参照サイト】Code for Japan
【参考文献】加藤三郎(2020)『危機の向こうの希望』プレジデント社

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