いま、サステナブルツーリズムの気運が世界で高まっている。これは、旅行先の地域文化と環境の保全を第一に考えた「持続可能な観光」を意味し、そこに住む地域の人々の生活も豊かになるように考えられた旅のことだ。現地の雇用を生む農業ツアーや、土に還る道具だけを使用してごみを出さない自然体験ツアーなどが当てはまる。
そんな中、もはやサステナブルな(=将来世代に向けて環境を保つ)観光だけでは地球資源の枯渇に間に合わないとして、新たに「再生型観光(リジェネラティブ・ツーリズム)」と呼ばれる観光業が中東・西アジアの砂漠の国サウジアラビアで始まっている。
再生型観光とはその名の通り、旅を通して環境を積極的に再生していくものだ。同国のシュライラ島で進む「コーラル・ブルーム・プロジェクト」は、周辺の海や陸を再生するリゾート地を2030年までに作る計画で、まずは2022年末までに国際空港と初めの4軒のホテルのオープンを予定している。
本プロジェクトでは、島のホテルやゴルフ場、マリンスポーツ場などの観光施設が一体となり、砂浜の自然浸食を最小限に抑え、島の自然環境を強化する修景によってマングローブやサンゴなどの新たな生息地を創出する。主導は、ムハンマド・ビン・サルマン皇太子が会長を務めるザ・レッド・シー・デベロプメント・カンパニー(以下TRSDC)と建築事務所フォスター+パートナーズが行う。
フォスター+パートナーズのスタジオ責任者であるジェラルド・エベンデン氏は、プレスリリースで次のように述べる。「私たちが使用する素材や環境への影響を最小限に抑えたデザインは、島の自然環境の保護を保証します。それと同時に、加えられるものは、すでにそこにあるものを引き立てるように設計されています。よって、コーラル(サンゴ)・ブルーム(咲く)という名が付きました。」
生き物の貴重な生息地や海岸の自然を損なうことなく、島にすでにあるものを維持し強化する。たとえばサンゴ礁は「海のオアシス」と呼ばれるほど、海の生物多様性に欠かせない存在だ。水中のCO2を循環させ、さまざまな生き物の住み家や産卵場所を提供している。
また、リゾートには軽量で熱量の少ない素材を使用し、新しく作られるビーチやラグーンでは、土地の高さを上げることで、世界的な海面上昇の脅威に対する防衛策に貢献する。
ホテルは、ポストコロナ時代に適応した広いスペースをとり、広大な砂丘の一部に入り込むように作られている。また、景観に溶け込んで島の美しい自然を満喫できるよう設計されている。
TTRSDCが目指すのは、2040年までに希少種保全効果30%アップの実現である。世界最大規模の地域冷房プラントを建設し、24時間体制で再生可能エネルギーを利用することで、観光地全体を効率的に集中冷房することを目指す。これは、世界最大の蓄電システムに支えられ、観光地全体が再生可能エネルギーでまかなわれることを意味する。
2015年には国連で持続可能な開発目標(SDGs) が採択されたことに続き、国連世界観光機関(UNWTO)が「観光と持続可能な開発目標」を発表したことからもわかるように、環境における観光業の役割はますます重要になってきている。
新たなホテルを複数建設することなど、大規模なリゾート開発に伴う環境負荷からも目を背けるわけにはいかないが、このコーラル・ブルーム・プロジェクトは今後どのような形で世界に「再生型観光」の手本を示していくのか。引き続き注視していきたい。
【参照サイト】サウジアラビア、自然を生かしたリジェネラティブ・ツーリズム (再生型観光)プロジェクト 、「コーラル・ブルーム」のコンセプトを発表