各地で広がりを続ける新型コロナウイルス感染症。普段は環境意識からリユース食器を使っている飲食店でも、一時的に使い捨てプラスチックストローや、使い捨て容器を使うなど、世界的な衛生観念の高まりが見えるときだ。同時に、プラスチックごみの増加も深刻になっている。
環境先進国ドイツでは、パッケージフリーで買い物ができるバルクショップ(量り売りのお店)が確実に増えている。ドイツ国内で2020年に新規オープンした店舗は、70店舗にものぼる。コロナ禍における衛生配慮は重要だが、ごみばかりが増えるこの状況を放置していいのだろうか。
今回は、日本にはまだ数が少ないバルクショップの現状について、ドイツ第二の都市ハンブルクにあるバルクショップ関係者に話を聞き、前編と後編の二回に分けて掲載する。今回話を聞いたのは、2017年にハンブルクのOttensen、そしてSt. Pauliにハンブルク初のバルクショップを構えたパイオニアである「Stückgut」、そして2020年6月、コロナ禍のドイツで開店した「LOKO Unverpackt」だ。
▶️ 後編はこちら:コロナ禍でむしろ増えた“量り売り”【ドイツのバルクショップオーナーの声を聞く・後編】
以下、Stückgutの創業者であるDehneさん、そしてLOKO Unverpacktの創業者であるGülcanさんによる回答を載せていく。
バルクショップの始まりと、コンセプト
Q. なぜバルクショップを始めようと思ったのですか?
Dehneさん:きっかけは、私個人の日常生活です。買い物に行くたびに、いつも大量のパッケージごみが出てしまうことに悩んでいました。創業メンバーは3人ですが、それぞれ同じ問題意識を持っていて、共に起業をしました。他の都市ではすでにバルクショップが始まっていて、(ドイツ初のバルクショップは2014年にキールでオープン)ハンブルクでも純粋に同じものが欲しいと思ったのです。結果的に2017年、Ottensenに最適な物件も見つけ、オープンに至りました。1年という短い準備期間ながらSt.PauliのRindermarkthalleに2店舗目をオープンしました。Rindermarkthalleはハンブルク市内でも最も大きなショッピングセンターで、人通りが多い場所に非常に早い段階でオープンしたのはよい判断でした。
Gülcanさん:LOKO Unverpacktをオープンしたのは2020年の6月25日です。まさにその2週間後、ドイツではロックダウンが始まったのでコロナ禍の真っ最中でした。確かに出店時期は悩みましたが、オープンの4年前からすでに構想を練っていたことや、Eppendorfという大学病院付近の好立地で理想的な物件に出会ったこともあり、開店を決めました。
きっかけは、もともとKaufmann(商業人)の研修を受け、自分のお店を持ちたかったことと、プラスチックごみを削減する新しいコンセプトのお店がドイツ国内で大きなトレンドになりつつあるのを見たからです。特に首都ベルリンではOriginal Unverpacktという量り売りのお店が若者の絶大な支持を受けていて、自分も実際に訪問し、成長を確信したのが大きかったですね。LOKOというお店の名前は、Lokal(ローカル)とKonsum(消費)からとりました。できるだけ地域に密着したお店にしたいという願いがありました。
Q. 取り扱う商品に、何かこだわりはありますか?
Dehneさん:まずはじめは穀類やパスタ、ナッツ等生活に必要なベーシックなものから揃えていきました。Ottensenのお店では野菜や果物等の生鮮食品を多く取り扱い、St. Pauliでは非食品分野も充実させることで他店舗との差別化を図っています。非食品分野は台所用品や歯磨き粉、洗剤類、月経カップ等、幅広く取り揃えています。商品を選ぶ際には、梱包材を使わずに入荷できることを第一に考え、ほとんどの食品はオーガニックやフェアトレードのものを取り扱っています。
Gülcanさん:店名にも掲げている通り、地元の生産物を扱うようにしています。いわゆる地産地消ですね。野菜や果物はハンブルク近郊のブレーメンやシュレスヴィヒホルシュタイン産のものが多いです。地元の商品を取り扱うことは、輸送時のCO2削減の観点からも大切にしています。また、オーガニックの品質にもこだわり、当店では基本的にDemeter Quality(※1)のものを取り扱っていますが、カカオやお茶の場合はフェアトレードであることや、加工品は極力添加物等を使っていないこと等を基本的条件として商品選びを行っています。
また、入荷する際の梱包材削減は当店も同じで、例えばコーヒー豆はBlack Delightという業者から購入しています。デポジット制でコーヒー豆を配達するサービスで、毎月ボトルで豆を運んでもらい、空になったら回収してもらうというサイクルで廃棄物ゼロを実現しています。ほかの穀類等についても、できるだけ25kgの紙袋で注文し、配送時にごみが出ないように工夫しています。
Q. どのようなお客さんが多いのでしょうか?
Dehneさん:日常の買い物でごみを減らしたいというお客さんすべてをターゲットにしているので、客層はばらばらですね。年齢や性別に関係なく来店されます。
Gülcanさん:客層は学生さん、特に医大が近くにあるのでそこで勉強・勤務している人が多く、世代的には20代以降30代前半、圧倒的に女性が多いですね。
Q. 食品や日用雑貨の販売以外にも取り組まれていることはありますか?
Dehneさん:Stückgutは開店当時からさまざまなワークショップを行っています。赤ちゃんを持つ親御さん・これから親御さんになる方向けの「布オムツに関する勉強会」や、自分で作る「ゼロ・ウェイスト、セルフケアグッズのセミナー」等ですね。特に布オムツについては、実践してみたいけれど、どの製品を利用したらいいのか?どうしたら継続的に使うことができるのか?など、なかなかハードルを越えられない層をターゲットに定期開催しています。
こうしたアイデアは、当初から、ただのショップではなく、廃棄物を出さない、資源を大切にするなどのテーマで交流できる場を提供したいという思いで始まりました。バルクショップを運営するだけでは、社会に対して大きな影響を及ぼすことはできないという問題意識が根底にあるからです。
Gülcanさん:当店の場合は開店直後からロックダウンが始まってしまったので、まだ実現できていないのですが、イベントやワークショップの計画は練っています。これから夏になるので、自分で作る日焼け止め講座や、自家製コンポストの作り方、地元のアーティストと作るハンドメイド小物等のワークショップなんかも実践したいと思っています。幸い店舗面積がとても広いので、色々なネットワークを駆使して積極的に企画していきたいですね。人が集まるソーシャルな場のようなものを提供し、もっとバルクショップについても知ってもらえればと思っています。
コロナ禍とバルクショップ
Q. コロナ禍が本格化してから、はや1年。客層の変化や、何かトレンドはありましたか?
Dehneさん:残念ながら、新型コロナの影響で、特に非食品分野で売上が激減しています。お客さんの多くは郊外に住んでおり、在宅勤務が増え、感染予防の観点から数か月来店されない方も多かったです。コロナの不確実性に対して明らかに脅威を覚えました。しかし、私たちが行っている衛生管理はコロナ前でも後でも変わりなく、店内の間隔を確保すること、客数の制限、プレキシガラス製の什器などの規制遵守、アルコール消毒剤の提供等、以前からごく当たり前に行ってきたことです。ですから、お客さんから衛生管理についての質問を受けることもほとんどありません。
Gülcanさん:当店は丁度コロナ禍の真っ只中に出店準備をしていたのもあって、工事の際に地元の人から衛生面については色々と質問を受けることがありました。ただStückgutと同様、今までもこれからもやることはあまり変わらない印象ですね。アルコール消毒や距離を保つこと、お客さんがお買い物を終えた際には清掃すること等、コロナだからといって大きく変わったわけではありません。
ドイツではパンを購入する際、トングでとって自分で紙袋に入れる習慣があるので、それほどの抵抗感なく受け入れられたのかもしれません。その他にコロナの影響が大きかったのは商品配送ですね。一時期自宅でパンを焼くブームが起こったときは、当店もイーストや粉類等の確保に苦労しましたし、スエズ運河がさし止めになった際は、当店でもドライフルーツの入荷に遅れが生じてしまうことがありました。今ではそうした入荷の影響はもう随分と落ち着きました。
Q. ウィズ・アフターコロナのドイツにおける、バルクショップの今後の役割とは何でしょうか?
Dehneさん:現在、ドイツには300以上のバルクショップがあり、さらに約250店舗の新規オープンが計画されています。このトレンドは、買い物が従来とは異なる方法でできること、そして考え方を変えることが可能なことを示していると考えています。私たちStückgutとしては、目下はコロナの危機を早期に脱して、コストの安定化を目指しています。長期的には、サプライチェーン全体の包装を減らすことに貢献していきたいです。
Gülcanさん:LOKO Unverpacktとしては、長期的に店舗拡大も視野に入れていますが、まずはLoko独自商品の開発も進めていきたいと考えています。ジャムや牛乳など。あとは先ほど話に出たワークショップの開催も、もう少し規制が緩和されたら積極的に企画していきたいですね。
ドイツ全体のトレンドでいうと、私もバルクショップはこれから増えていくと考えています。Facebook等のさまざまなSNSに、バルクショップオープンを目指す人向けのコミュニティができていて、先輩からのアドバイスや意見を気軽に聞くことができるようになりました。また、Unverpackt e.V.(バルクショップオーナーが所属する社団法人)でも各地のオーナーと繋がり、情報収集がしやすくなっているので、比較的出店しやすい土壌ができあがりつつありますね。ドイツ以外に、バルクショップはアメリカやカナダ等でも急速に広がっています。日本で出店を考えている方も、もし読者にいらっしゃるのであれば、臆することなく、ぜひ他の国のネットワークも活用して情報収集してみたらいいのではと思います。
編集後記
ドイツの衛生観念は一般的に日本とかけ離れているわけではない。今回2人のオーナーに話を聞いて感じたのは、自分自身の生活に根付いた問題意識に対して最適解がない場合、自分たちで作り上げている柔軟性だ。結果的にそれが消費者の需要と重なり、生活必需品店の一角を担いつつある。
今回の記事執筆に際し、筆者の周りの消費者にも意見を聞いた。筆者の友人(40代主婦)も開店当初からバルクショップに通っているコア顧客の一人だ。パンデミックの初期は「バルクショップの衛生面は大丈夫なのだろうか?」という疑問が確かに脳裏に浮かんだという。しかし、冷静に考えると、実際に買い物をする際は商品を自分の容器に直接移し入れるため、感染経路となる可能性は非常に低い。
また、野菜や果物等の生鮮食品にしても、結局調理前に洗う、火を通す等の処理を行うため、衛生的にも問題はない。そして彼女は、逆にコロナでバルクショップが閉まってしまう可能性に危惧を覚えたという。広告や、宣伝文句に惑わされることなく、自分が必要なものを必要な量だけ、パッケージフリーで購入できるその気楽さを選びたいという需要、そして納得感。そんな選択肢が、東京などごく限られた都市だけではなく、もっと身近な場所にあってもいいのではないだろうか。
次の記事では、そんなバルクショップムーブメントを全面的に後押しする社団法人、UnverpacktのWittさんにドイツ全体のバルクショップの状況について話を伺う。
▶️ 後編はこちら:コロナ禍でむしろ増えた“量り売り”【ドイツのバルクショップオーナーの声を聞く・後編】
※1 Demeter Quality : ドイツで1924年に発足したオーガニック認証。家畜の餌も100%有機農法であること、規定の種子を使うことなどさまざまな要件を満たす必要がある。
【参照サイト】Stückgut
【参照サイト】LOKO unverpackt
Edited by Kimika