ベトナムの大人気ピザ屋「Pizza 4P’s」のSustainability Managerである永田悠馬氏による、レストランのサステナブルなプロジェクトに焦点をあて、Pizza 4P’sがさらにサステナビリティを突き詰めていく「過程」を追っていくオリジナル記事シリーズ「Peace for Earth」。
前回は「ヴィーガンメニュー」をテーマに、Pizza 4P’sで新しくローンチした限定ヴィーガン商品開発の裏側、それぞれのメニューへのこだわりや食材の工夫、売れ行きやお客様のフィードバックなど、サステナブルアクションに取り組む企業のリアルな現場をシェアしてきた。
▶ 「肉なしじゃ物足りない」を覆す。レストラン商品開発の裏側【Pizza 4P’s「Peace for Earth」#08】
第九回目である今回の「Peace for Earth」のテーマは「ゼロウェイスト」に焦点を当てる。Pizza 4P’sは今年7月、海外初出店となるカンボジアの店舗を、首都プノンペンにオープンする。Pizza 4P’sカンボジア店では、同国にて深刻化する廃棄物問題に正面から取り組むことを決意し、店舗コンセプトを「ゼロウェイスト」とした。ロンドンのSiloや、ヘルシンキのNolla、バリ島のIjenなど、近年ゼロウェイストを掲げるレストランが世界各国で注目を集め始めているが、まだその数は多いとは言えない。
そんな中、Pizza 4P’sにとってもゼロウェイストは初の試みとなるため、1年半かけてこのコンセプト実現に向けて準備を進めてきた。カンボジアでのゼロウェイストレストランオープンの舞台裏をシェアする。
Pizza 4P’sでは、1日に180キロのごみを出している
カンボジア店におけるゼロウェイストを考える上で、まずは自分たちのレストランからどれだけのごみが出ているのかを知ることが重要であると考えた。そこで、Pizza 4P’sの1店舗に筆者が3日間張り付き、店舗から排出される「プラスチック」や「ガラス」、「生ごみ」など、すべてのごみを計測。下の図表がその結果をまとめたものだ。
その結果、この店舗では平日に約80kg、週末は約180kgものごみが1日あたり排出されていることがわかった。他の店舗と比べることはできないが、それでもこれだけの量のごみを自分たちが毎日排出していると知ることは、少なからずPizza 4P’sにとっては衝撃的な事実だった。
ありとあらゆるごみがレストランから排出されるが、最も多いのは「生ごみ」だ。野菜の切れ端や食べ残し、ココナッツの殻、貝殻、ピザ生地、といった様々な生ごみが含まれている。他にも、サプライヤーやセントラルキッチンから届く食材が包まれているプラ包装や、お客様が使用した紙ナプキンやウェットティッシュ、ワインやビールのガラス瓶、オリーブオイルやトマトソースの缶など、多種多様なごみがある。
きちんと分別されていないため汚く悪臭もあり、量が多い。暑いホーチミンの屋外で、3日間ゴミを観察し続けるというのは気持ちが折れそうになる体験だった。しかしそれ以上に、自分たちのレストランからどんなごみが出ているのかを詳細に知ることができたのは、カンボジアのゼロウェイストを考えていく上で非常に役立つこととなった。
Pizza 4P’sの「ごみリスト一覧」を作成
その後、3日間のごみ分析結果をまとめ、Pizza 4P’sの「ごみリスト一覧」を作成した。もちろん、これで全てのごみがカバーされているとは言えないが、おそらく9割程度は把握できているだろう。ゼロウェイストを検討していく最初のステップとしては十分だ。
上記のリストをベースに、カンボジアの店舗でそれぞれのごみをいかに減らすか、もしくは別のもので代替できないか、それでもダメならリサイクル可能かどうかを、検討していった。(こちらから当時作成したリストのコピーを閲覧可能)
ベトナムで基盤を築いたPizza 4P’sが、なぜ「カンボジア」でゼロウェイストなのか?
カンボジアでは以前からごみ問題が深刻化しており、首都プノンペンでは毎日およそ3,000トンもの廃棄物が排出されている。焼却設備やリサイクルインフラも整っていないため、プノンペン近郊の廃棄物埋立地はほぼ満杯状態だ。「そんなカンボジアで、レストランとして“ゼロウェイスト”を追求し、それを発信していくことは意味のあることではないだろうか」。そんな想いから、このプロジェクトはスタートした。
Pizza 4P’sはベトナムで創業し、すでに20店舗以上もベトナム国内で展開している。それにも関わらず、今回なぜ既に基盤を築いているベトナムではなく、カンボジアでの「ゼロウェイスト」にチャレンジするに至ったのか。それは、会社として規模拡大してきた結果、ベトナムでの意思決定のプロセスが複雑になってきたということが一つの要因だ。
例えば、ベトナムの店舗で「ウェットティッシュをなくしたい」と思った場合、「ウェットティッシュをなくすと簡単に手が拭けないからお客様の満足度が下がるのではないか?」「おしぼりなんて置くスペースがない」「忙しい時間にできるわけない」といった懸念が、様々な部署から上がってくる。これらの懸念を全て払拭するのは並大抵のことではない。今までやってきた方法から抜け出すことには、とても大きなエネルギーがいるのだ。
一方、カンボジアはゼロからのスタートだ。まだ1店舗目で、Pizza 4P’sの認知度も低く、現地の従業員もこれから採用する。もちろん「今までのオペレーション」は存在しない。全てが初めてであり、白紙に絵を描いていく作業になるのだ。だからこそ、Pizza 4P’sでは「ゼロウェイスト」をカンボジア店でスタートしようと考えた。つまり、会社全体として見れば、カンボジア店は実験店舗であり、そこでうまくいくことが確認された方法は、ベトナム側のPizza 4P’s全店舗へも容易に反映させることができるということだ。
いかに、ゼロウェイストを達成するか?
カンボジア店ではゼロウェイストをコンセプトとしたが、もう少し正確にいえば「Zero waste to landfill(埋め立てごみゼロ)」となる。3R(リデュース、リユース、リサイクル)のヒエラルキーに従い、ごみを可能な限り減らし、リユースできるものに切り替え、それでも出てしまうごみは現地のパートナー企業と協業してリサイクルする。
さらに、前述した「ごみリスト」をもとに、それぞれのごみに対するソリューションを考えた。下記にいくつかの例を挙げる。
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<リデュース>
- 揚げ物レシピを排除。これにより、キッチンオイルの廃油を無くすことができる
- 布のテーブルナプキンがあるので問題ないと判断し、紙ナプキンを廃止。大量の紙ナプキンのごみを削減することができる
- 店内を禁煙にすることで、タバコのごみを無くすことができる
- ピザの注文を書くホワイトボードを電子白板に切り替え。油性ペンのごみを無くすことができる
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<リユース>
- 水は店舗でリフィルし、自分たちでボトリングしたものを提供
- 使い捨てのウェットティッシュは使用せず、洗濯して何度も使用できるおしぼりを使用
- ラップの使用量を最小化するために、食品保存にはタッパーを多用
- 柑橘類の皮は乾燥させてハーブティーに(提携先:Demeter)
- 余った食材は可能な限り従業員のまかないに
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<リサイクル>
- どうしても廃棄せざるを得ない生ごみは、ブラックソルジャーフライの餌に(提携先:Ruy Reach)
- ガラス瓶はシェムリアップのリサイクル工場へ(提携先:GAEA)
- プラごみは建材としてリサイクル(提携先:Gomi Recycle)
- 紙ごみは電動コンポスターで処理
上記に挙げたものはほんの一例であり、現在進行形で準備している案もあれば、おそらく店舗オープン後に対応策を考えていくごみも出てくるだろう。一つの案に縛られることなく、臨機応変に、その時々でベストだと思える選択をしながら、ゼロウェイストを目指していきたい。
いよいよオープンまであと1ヶ月だ。本記事の後編(2021年後半を予定)は、カンボジア店がオープン後、実際に4P’sがどのようにゼロウェイストを実行できているか(もしくはできていないか)。また、店舗デザインにおいてゼロウェイストをどう表現したか。さらに、お店で使用する様々なアイテムへのゼロウェイスト的なこだわりも紹介していきたい。
筆者プロフィール:Pizza 4P’s Sustainability Manager 永田悠馬(ながた ゆうま)
1991年、神奈川生まれ。東京農業大学を卒業した後、カンボジアに渡航。2014年からカンボジアの有機農業や再エネ関連の仕事に携わったのち、2018年にベトナムへ移住。ケンブリッジ大学ビジネスサステナビリティ・マネジメントコース修了。現在はPizza 4P’sのサステナビリティ担当。著書に『カンボジア観光ガイドブック 知られざる魅力』。
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【参照サイト】 Pizza 4P’s
Edited by Erika Tomiyama