私たちの日常で身近な「ファッション」。近年、ファッション業界の中で「サステナビリティ」という言葉を目にする機会が増えてきた。従来の大量生産・大量廃棄のビジネスモデルからの移行が少しずつ進みはじめている中で、実際に企業がスタートを切ろうとしたときに、何から始めたらよいか迷うことも少なくないだろう。
そんな中、繊維産業全体をサステナブルに変えていくために企業や個人を巻き込もうと立ち上がった人々がいる。
「日本のファッション産業をサステナブルにするために、サーキュラーエコノミーが最善なのか──それは、まだわかりません。私たちは、これからその答えを見つけていくのです。」
そう話すのは、国際協調の中で日本国内のサーキュラーエコノミー推進に取り組む一般社団法人サーキュラーエコノミー・ジャパン代表理事であり、D2Cグリーンファッション・プラットフォームブランド「BIOLOGIC PHILOSOPHY(ビオロジックフィロソフィ)」のプロデューサーである中石和良氏だ。
2021年3月に販売をスタートしたビオロジックフィロソフィは中石氏を筆頭に、ファッションの流通・小売の専門であるファッションディレクション担当と、ファッションのサプライチェーン全体のマネジメント担当、そしてブランドフィロソフィーを伝える広報担当という、それぞれの分野のプロフェッショナルを集めた4名のプロデュースチームで進められている。今回は、ブランドに関わるプロデュースメンバーにブランドにかける想いを取材した。
日本のファッション産業・生産業を、“みんなで”持続可能なものにする
ビオロジックフィロソフィの構想の始まりは、今から2年ほど前。中石氏は、海外企業がサステナビリティに向かって進む中で、日本企業がなかなか変わらないことに危機感を抱いていた。今のままでは国内で「サステナビリティに移行したい」と思ったとしても、まずはステークホルダーの志合わせから始める必要があり、移行に時間がかかってしまう。
そうした中で、「いっそのこと自分たちでブランドを立ち上げ、それを起点に繊維産業全体をサステナブルに転換させていこう」と立ち上げたのが、ビオロジックフィロソフィだ。ファッション産業全体を巻き込むために、同ブランドが立ち上げ当初から大切にしているキーワードが「ナラティブ」だ。
ファッションを本当の意味でサステナブルにするためには、「作る人」と「買う人」が2つに分かれるのではなく、関係者一人ひとりが当事者となり、サプライチェーンに関わる企業やお客様と議論しながら、一緒に物語を紡いでいく必要がある。
ブランドの方向性として、「“サーキュラーエコノミーが正解である”という言い方はしたくありません。」と、中石氏は話す。
「具体的に最初の一歩をどうしたらいいのかと悩む企業さんも多い。そこで一つの考え方の例として『サーキュラーエコノミー』を提案しています。私たちは、最初からサステナブルなファッションとはこういうもの、という具体的な定義づけをあえてしていません。」
ビオロジックフィロソフィでは、まずはみんなであるべきファッション産業がどんなものか議論をしていくために、あえて普遍的なキーワードである「グリーンファッション」という言葉を使い、誰もが参加しやすくしているという。それが、同ブランドが自らを「お客様や仲間と考えるナラティブ・ブランド」と表現している理由だ。
これから日本の社会を創るZ世代を巻き込んでいく
ビオロジックフィロソフィが意識するのは、これから日本の社会経済を創っていくZ世代を巻き込んでいくことだという。彼女/彼らが経済活動の中心になったとき、サステナビリティを前提とした産業・経済の仕組みを作ってほしいというのが、ブランドの願いだ。
そうした中、Z世代が何を求めているのか、どう発信したら届くのかなどを一緒に考えるため、現在は跡見学園女子大学の生活環境マネジメント学科と連携を進め、サステナビリティへの関心が高い学生を巻き込んでいる。
具体的には、学生に向けて啓蒙や教育及びPRについての課題を出し、それをもとに各学生チームが提案を持ち寄る課題解決型の授業を実施。実際に今回は、学生による試着会の提案があり、それぞれの学生がZ世代の価値観でコーディネートし、各チームで動画の撮影も行った。
ビオロジックフィロソフィはモノづくりのプラットフォームでもあり、ECプラットフォームでもある。作る側にとって、まずは需要を見出さなければ最初の一歩を踏み出しにくい。そのために、こうしたビオロジックフィロソフィの経験で得た知識や情報を積極的に公開していくとしている。また、そうしたサステナブルファッションの需要を生み出す仕組みを作るためにも、ビオロジックフィロソフィの志に共感する人たちの商品をECサイトで紹介し、販売していく流れも作っている。
コレクションが増えていくごとに、できることが増えていく
ナラティブを大切にし、ステークホルダーと連携しながら本質的なサステナビリティを追求するビオロジックフィロソフィ。日々、パートナー企業やサプライチェーン上の関係者、お客様と何ができるかを対話し模索しながら、ブランドをどんどん進化させている。
第一弾のコレクションは、生地素材を世界最先端のサステナブルな素材を使用。スペイン・RECOVER社のリサイクルコットンとリサイクルポリエステルや、トルコ・ISKO社のリサイクルコットンデニム、オーストリア・レンチング社の再生可能な木材から作られた環境配慮型素材であるテンセル™ブランドのリヨセル繊維など、廃棄を防ぐことを考えた「サーキュラー素材」を使用した製品を発売した。
今回の第一弾のコレクションでは、「製品の長寿命化」にもポイントが当てられている。まず、愛媛県にあるクリーニング企業である株式会社清水屋の100%ナチュラル成分の洗濯用ランドリー洗剤を、オンラインショップにて販売。ビオロジックフィロソフィのオンラインストア内商品紹介では、取り扱い方法を紹介する「お手入れについて」も掲載している。
さらに、リフォームとリメイクを行っている株式会社フォルムアイと連携し、ビオロジックフィロソフィの商品を、長く着用してもらうためにサイズ修正や修理、カスタマイズなどの相談を全国のフォルムアイで受ける。
第一弾のコレクションを発表してからすでに、様々な企業との出会いや連携があったという。その出会いによって、第二弾の秋冬コレクションではさらに新しいパートナー企業との連携が始まり、ファーストコレクションから大きく進化している。コレクションが増えるごとに協業企業も増え、よりパワーアップしていくのだ。
また現在、天然繊維の循環の仕組みをプラットフォーム上で作ろうとしている。現状、ほとんどのリサイクル品はポリエステルやナイロンなどの化学繊維であり、天然繊維のリサイクルができていない。ビオロジックフィロソフィでは、それを日本企業と一緒に進めていくという。
さらに日本ではまだ、ファッション以外のカーテンやテーブルクロスなどの生活雑貨系の繊維にまで循環の仕組みが広がっていない。ビオロジックフィロソフィでは、衣服やファッションだけではなく、繊維製品全体にまで循環プラットフォームを広げることを目指す。
海外を真似るのではなく、日本独自の答えを見つけていく
サーキュラーエコノミーをベースにしたファッションブランドやプロダクトというと、海外のブランドが先行している。それを真似しても意味がない──ビオロジックフィロソフィが目指すのは、日本の文化や日本人に合ったウェルビーイングを実現するファッション産業を作ることだ。
海外のファッションブランドは、サステナビリティの啓蒙教育に時間とコストをかけている。「お客様が求めていないから作らない」のではなく、モノを作ってサステナビリティを発信していく中で、お客様がそれを納得して買い始め、消費者が増えていく。これを日本の文化に合うよう、まずは市場を作ることに取り組みたい──だからこそ、海外の先行事例をただ真似るのではなく、私たち自身で答えを見つけるために、関係者・パートナー企業・サプライチェーン上の製造に関する人たち、お客様と一緒に考えていく過程を大事にしているのだ。
「ビオロジックフィロソフィは、ただプロダクトを作って売るブランドではありません。繊維産業全体を持続可能にし、最終的に目指すのはウェルビーイングです。」
そう、中石氏は話す。「今、日本の企業はSDGs(持続可能な開発目標)やカーボンニュートラルをゴールにしていますが、それらはウェルビーイングを達成するための『手段』でしかありません。」と、続ける。
日本のウェルビーイングを達成するために最善な手段とは、なんなのか。その答えは、これから私たち自身で、見つけていく必要がある。
編集後記
目指すべきウェルビーイングの概念は、国によってもコミュニティによっても異なる。だからこそ私たちは、すでにある海外の事例を真似るのではなく、日本にあった経済のあり方や、生活の仕方を考えていく必要がある。
それを人々に問いかけるための方法として、ビオロジックフィロソフィが私たちに身近な「ファッション」をスタートに選んだのも頷ける。
また、日本企業がサステナビリティへ移行するにあたり「コスト」や「品質基準」などが障壁となり一歩を踏み出せていないという中で、ビオロジックフィロソフィは、まずは可能なところから取り組んでいた。現状でできることを具現化して「過程」を発信することによって新しいアプローチを生み、修正しながらも進んでいく。そんなふうに、やりながら学んでいくことで協業する仲間が増え、それが産業全体を牽引する大きな力となっていくのだろう。
【参照サイト】 BIOLOGIC PHILOSOPHY