オンラインで「地元の小さな書店」から本が買える。コロナ禍のアメリカで生まれた “Bookshop”

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新型コロナの蔓延により、オンラインショッピングを頻繁に利用する人も増えたのではないだろうか。総務省の発表によると、新型コロナの流行は各世帯へのオンラインショッピングの導入を後押しし、いまや高齢世帯主世帯でもそれが当たり前になりつつあるという。家電、衣類、食品、チケットなどあらゆるものを購入できる、人目を気にせずゆっくりと商品を選ぶことができる、欲しい商品をすぐに検索して探すことができる、人との接触が必要ないなど、メリットも多い。

一方、そうしたオンラインショッピングの台頭により、いままで実店舗での運営をしていた飲食店、雑貨屋、書店などは、現在苦境に立たされている。新型コロナ禍で閉鎖する決断をしたところも多い。そうしたお店で買い物をしたいという気持ちがあったとしても、人の多いエリアを訪問するのがためらわれ、結局オンラインで買い物を済ませてしまうという経験をした人も多いはずだ。

そうした個人経営のお店のなかでも、とりわけ書店を救おうと、アメリカで立ち上がったオンライン小売店がある。その名もBookshopだ。Bookshopは、全米の個人経営の書店を支援するためにネット上で本を買うことができるプラットフォームであり、現在アメリカで約1100店舗の書店が登録されている。Bookshopはどのような想いのもと運営されているのだろう。同社のパートナーシップ・マネージャーであるSarah Highさんにお話を伺った。

Sarah High

Sarahさん

「偶発的な出会い」を守るオンライン書店

Sarahさんはもともと本の販売者として働いていたが、2019年にBookshopのチームに参画した。

「Bookshop USは現在33名のメンバーで運営しています。大概のメンバーはニューヨークのブルックリン付近にいますが、シアトル、シカゴ、サウスカロライナなどからリモートで働いている人たちもいます。現在、私自身はニューヨークに住んでいます。チームメンバーは全米あらゆるところで仕事をしていますね。

現在Bookshopのお客さんは100万人ほど。25,000の提携先(アフィリエイト)がいて、1,100の書店にパートナーとして登録してもらっています。基本的にはBookshopに直接依頼をもらった書店とパートナーシップを結んでおり、こちらから声をかけるということはありません。依頼があったら、オンラインでの店舗を立ち上げるためのセットアップを手伝い、販売を開始するという形です。Bookshopで売れた本に関しては、定価の30パーセントが書店に入るような仕組みになっています。商品の梱包と発送の工程はすべて倉庫を担当する従業員が担当するため、書店に大きな負担がかかることはありません。登録している書店からBookshopに収入がもたらされることはないのですが、インフルエンサー、作家、出版社、書店販売アソシエーション、そして本好きの人々からの支払いによって、Bookshopの経営が支えられています。」

Shakespeare and co

Bookshopのサイト内には書店専用のページが用意されており、そこから本を購入することができる

2020年のコロナ禍にオープンしたBookshop。瞬く間にパートナーの数は1000以上に達したことからも、書店側からの大きな需要があることがうかがえる。すでに大規模なオンライン書店が存在するなかで、Bookshopのような「小さな書店が集まるプラットフォーム」が展開される意義はどのようなところにあるのだろう。

「本を販売していたからこそわかるのは、小さな本屋には面白い本がたくさんあるということ。他では見つけられない本、そこでしか手にとれない本と偶発的に出会うことができます。この人間らしい探し方がとても魅力だと思いますし、書店に入るまでは想定できなかったような本と出会うことで自分の世界が広がるのは素敵ですよね。Bookshopではそうした『偶発的な出会い』をオンライン上でも生み出せるように、サイトデザインにも工夫を施しています。」

bookshop map

「FIND A BOOKSTORE」からは近所の書店を地図で検索できるようになっている

「アメリカには素晴らしい書店がたくさんあります。ニューヨークにも、『Cafe con Libros』、『Strand Book Store』、『Book Culture』『Three Lives & Company』、『192 books』、『Shakespeare & Co』などたくさんの素敵な個人経営書店があります。大手ネットショッピングサイトであるAmazonや、その他の大手の書店が台頭したことで売り上げが下がっている書店は多く、それはいまや大都市だけの問題ではありません。田舎もしかりです。書店は本来『本を探すための場所』であるだけではなく『人が集う場所』として地域のコミュニティにとっても大きな役割を果たしてきました。Bookshopはそうした場所を今後も守っていきたいと思うのです。」

「より良いショッピング」を試みるお客さんのために

Bookshopという極めてシンプルなショップ名にした理由について、Sarahさんは「どんな書店でも登録しやすいように、シンプルで親しみやすい名称にしようと、私の上司であるAndy Hunterが考えたものです。」と語る。

「オンライン書店では、実際に本を手に取って、紙の匂いを嗅いで……ということには到底替えられないけど、もしオンラインで本を買おうとしていて、しかもそれが本屋から直接買う経路でなかったとしたら、ぜひBookshopで買うことを検討してほしい。そんなシンプルな想いが込められています。また、できるだけ使いやすく楽しく買い物ができる仕組みを整えています。実際に書店まで足を運ぶことができない事情のある人なども含め、いろいろな方に気軽に覗いてもらえたら嬉しいですね。

「お客さんからの反響は基本的にポジティブなものばかりです。レスポンスがはやくできるようにカスタマーサービスも充実させ、現在は16人体制で対応をしています。お客さんの中にはもちろん『個人経営店を応援したい』という人もいますし、ただ『Bookshopが使いやすい』といって気に入ってくれている人もいます。どんなケースにしろ、『より良い形』でショッピングしたいと思っている人にとって、Bookshopはとても良いサービスだと思っています。」

Bookshopにとっての挑戦

オンラインサービスを展開するBookshopにとっても新型コロナは想像以上の大きな変化であり、Sarahさん自身にとっても試練だったという。

「新型コロナによってBookshopへの需要は高まり、チーム内の体制などビジネスの形態も大きく変わりました。その対応は大変でしたね。そして私自身2020年4月に新型コロナに感染し、ウイルスと闘いながら増えゆく登録書店に対応することになりました。それがとても辛かったのを覚えています。

現在はワクチンが普及したこともあり、ニューヨークは通常の状態に回復しつつあります。街に活気が戻って、書店にお客さんが足を運べるようになったとき、大手のショッピングサイトではなく、『地元の書店で買うか、Bookshopで買うか』いずれかの選択をしてもらえるようになりたいですね。」

そしてアメリカ発のBookshopは、はやくも国外に進出していた。

「現在、イギリスとスペインでもBookshopのサービスが始まっています。基本的に国際便は手配していないため、イギリスにいたらイギリスの書店から、スペインにいる人はスペインの書店からだけ本だけが買える仕組みになっています。イギリスを選んだのは、アメリカと同じく英語を話す国であること、またしっかりとした書籍販売アソシエーションがあることが主な理由です。スペインは、言語が異なるため少し挑戦的でしたが、こちらも強力な書籍販売アソシエーションがあり、もともとBookshopメンバーのコネクションもある場所でした。アメリカ、イギリス、スペインが軌道に乗ったら、いずれはアジアでも展開したいなと思っています。」

増えゆく登録書店、そして国外進出と、さまざまな挑戦がある中、Sarahさん自身はBookshopのメンバーとして仕事をする喜びを以下のように語ってくれた。

「私が満たされていると思う瞬間は、本を愛する人に会えること。本について話すこと、本を買ってもらえて、本のビジネスが続くこと。そして、素晴らしい書籍の販売者に会えることです。これらがすべて網羅されているのでとても幸せな仕事だなと思っています。

顧客やパートナーにとっても、Bookshopが与える影響は大きいと思いますね。黒人や女性によって運営されている本屋も多く、そうした書店を重点的に支援するお客さんもいます。書店にとってはBookshop経由の収入は、新型コロナ禍では特に大きかったのではないでしょうか。Bookshopは今後も大手オンラインサイトに台頭する選択肢になるべく、オンラインでの販売を通じて、地域の書店だけではなく、店主の想い、そこに根付くコミュニティを励まし続けていきたいと思います。」

編集後記

今回のインタビューで感じたのは、Bookshopが「個人経営の書店を応援する」という大義名分以前に、「本を愛する人々」による「本のための場所を守りたい」という純粋な気持ちにサポートされているということだ。Sarahさんがニューヨークでお気に入りの書店を列挙してくれたときの輝いた目が印象的だった。

書店はときに「集積された本を購入できる場所」以上の意味を持つ。仕事帰りに少し本屋に寄って帰る、休日に色んな本を流し読みしながら紙の香りに囲まれてゆっくり過ごす、待ち合わせの場所として使う…… 日常に溶け込んだ場所でありながらも、特定の書店に対して特別な想いを抱えている人も多いのではないだろうか。なかでも、店主の顔が見える書店は、その土地の文化や色を存分に反映しているため特別だ。

「オンラインのツールによってそうした書店が打撃を受けているからオンラインを否定しよう」ではなく、「オンラインのツールを使ってそうした書店の可能性を広げる」。Bookshopはその柔軟なやり方で今後もアメリカ各地の文化が染み付いた小さな書店を盛り上げていくに違いない。

【参照サイト】Bookshop
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