ほぼ100%地産地消。広島の『restaurant be』に学ぶ、小規模農家とレストランの関係性【FOOD MADE GOOD #9】

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食のあり方や、飲食業界のあり方を変えていくため、より多くの飲食店・レストランがサステナビリティに配慮した運営ができるよう支援している団体がある。英国に本部があるSRA(SUSTAINABLE RESTAURANT ASSOCIATION)の日本支部、日本サステイナブル・レストラン協会だ。そんな日本サステイナブル・レストラン協会の加盟レストランを巡り、サステナビリティ先駆者たちの取り組みを紹介していく連載シリーズ「FOOD MADE GOOD」の第9回目。

今回ご紹介するのは、地産地消率ほぼ100%のサステナブルな広島のレストラン、『restaurant be』。

広島県は、北は山、南は瀬戸内海に囲まれた、自然豊かな土地だ。多様な気候条件の元で多種多様な食材を生産することができるのは、山と海に囲まれたこの土地ならではの魅力だろう。restaurant beは、広島県安芸高田市にある農家『まごやさい』(現在は農家プラットフォーム)から始まったレストランで、提供する野菜の9割はこの農家から仕入れている。野菜以外の食材、お肉や魚も、全て広島県産という徹底ぶりだ。

今回は料理長を務める石田詠司シェフと、まごやさい代表であり本レストランの創業メンバーの一人でもある有政雄一さんにお話を伺いながら、お皿の上の料理から、地方のレストランと小規模農家だからこそできる地産地消の新たな可能性について掘り下げていきたい。

話者プロフィール:石田詠司シェフ

石田シェフ1977年6月広島県生まれ。共働きの両親に代わり食事を作っているうちに料理が好きになる。両親が嬉しそうに食べてくれる姿を見て、他の人にも自分の作った料理を食べてほしいと思うようになる。大阪あべの辻調理技術研究所西洋料理で学び、『リーガロイヤルホテル広島』でキャリアをスタート。フレンチを中心に修業研鑽を積む。各レストランでキャプテン、チーフを務め、2015年10月から『restaurant be』のシェフとして活躍中。

話者プロフィール:株式会社まごやさい代表取締役 有政雄一

有政雄一さん1968年8月広島県生まれ。大学卒業後、大阪・福岡・東京で人材系企業に所属、営業や事業開発・経営に携わる。2009年広島にUターンし農業体験と野菜宅配事業「しょうりき山里公園」を立ち上げる。2010年「dining&bar be」(現restaurant be)開店。2014年「株式会社まごやさい」設立。小規模農家と飲食店を直接結ぶ販売システム「MAGO-NET」を開発し、地元野菜の流通を推進している。

地元の小規模農家から始まった、地産地消のレストラン

広島県広島市にあるrestaurant beは、広島市内の産婦人科医が、まごやさいの有政雄一さんの作る野菜のおいしさに感動し、「この野菜を使ったレストランを開きたい」と感じたことをきっかけに、2010年に開業したレストランだ。

レストランの代表と農家とを兼任するようになった有政さんは、地元の小規模農家とレストランを直接つなぐことで生まれる可能性に気づいたのだという。

有政さん:当時は農家が直接レストランに野菜を持っていくという農家レストランは珍しく、注目されました。すると、自分たちの農場で作るものでは供給が足りなくなってしまったので、近くの小規模農家からお野菜を少し出荷していただいて、ある程度の量を確保して提供するようになりました。今では100軒ほどの地元の農家さんから野菜を出荷していただき、それを県内のいくつかのレストランに提供しています。

現在は、県内のレストランと農家の関係を広げて新たな事業展開をしており、この事業の第一号の農場が有政さんの実家の農場、まごやさいであり、第一号のレストランがrestaurant beであった。

Restaurant Be 内観

restaurant be 内観

石田シェフは、フレンチレストランでの料理人経験を経て、2015年からrestaurant beのエグゼクティブシェフに就任。現在は広島県の旬の食材をふんだんに使用したコース料理を提供している。

コース料理の一品目に出てくるのは、『広島の恵 本日の前菜盛合せ』。広島の牡蠣の殻を飼料に混ぜ込んだ瀬戸もみじ豚や、広島で有名な地あなご、広島レモンの果汁を配合した餌で育てた広島レモンサーモンなどといった地元の食材を、テリーヌや、ムース、リエットなどのフランス料理にアレンジした前菜の盛合せだ。肥育飼料から広島県産にこだわった魚や豚、さらにフレンチの基本である「頭からつま先まで」の料理法をふんだんに使ったサステナブルな一品だ。

『広島の恵 本日の前菜盛合せ』

『広島の恵 本日の前菜盛合せ』

また、二品目の『7種の広島野菜と瀬戸内鯛のポワレ』は、まごやさいの畑をそのまま持ってきたようなお皿だ。広島県狩留家町のブランド野菜『狩留家(かるが)なす』の上に、カリフラワーのソース、その上に鯛のポワレとハーブをのせる。野菜は生や湯がいたもので、農家で採れた野菜の素材の味をそのまま味わえるようになっている。畑で大きくなる前に間引いた小さなチンゲンサイや、生で食べられるカボチャとして知られるコリンキー、UFOのような形をしたズッキーニ、じゃがいもの一種である紅あかりなど、スーパーでは見かけることがないような珍しい野菜を味わえるのも楽しい。

『7種の広島野菜と瀬戸内鯛のポワレ』

『7種の広島野菜と瀬戸内鯛のポワレ』

地産地消に取り組む理由は、野菜のおいしさ

rerstaurant beが地産地消の食材にこだわるようになったのは、2年前。サステナビリティという言葉を深く考えて行った先に行き着いた。

石田シェフ:2年ほど前に、レストランの方向性としてサステナビリティに舵を切ることになりました。食材ロスをなくすことはもともと料理人としては当たり前のことだったので、自分たちが他にできることは何かをみんなで話し合ったときに出てきた答えが、まずは地産地消を徹底することだったんです。それまでは野菜だけはまごやさいから仕入れていたのですが、お肉や魚などは海外など好きなところから好きなものを使っていたんですよね。

石田シェフ

地産地消のメリットは、流通時のCO2排出コストの削減や、パッケージングを過剰にする必要がないこと、ポストハーベスト(流通時にかける農薬)の不使用など、環境負荷低減の観点からもいくつかあげられる。しかし、何よりも「おいしさ」を担保できることが、地産地消の一番大きな意義だと有政さんはいう。

有政さん:野菜の味は鮮度によって大きく変わります。時間が経てば野菜の水分量や甘みが減っていく。自分は畑で採れたての新鮮な野菜を食べていたので、鮮度の大切さをよく知っており、この味のままみなさんにもおいしく野菜を食べてもらいたいという思いが大きかったのです。そして、野菜の鮮度を担保するためには、地元の食べ手に短い距離で届けることが一番重要だということに行き着きました。

農家が野菜を収穫したときにままごやさいの集荷センターに持ってきてもらい、我々スタッフが選別・梱包・ラベリングをし、翌日には自社トラックでお客様にお届けしています。また、鮮度の劣化には時間に加え温度変化も関わっているので、流通の間の温度管理もしながら、直接レストランに届けることを大事にしています。

じゃがいもの一種。珍しい品種もシェフに人気

じゃがいもの一種。珍しい品種もシェフに人気

また、地元の人とのつながりが広がることも、地産地消の大きなメリットだ。

石田シェフ:ここ2年で、広島県内の人脈が増えましたね。実際に生産者の元へ足を運び、挨拶をしにいくと、他の生産者も紹介していただけて、1箇所とのつながりが、2〜3箇所とだんだん広がっていきました。

持続可能な農業を作っていくために

日本の農業をとりまく一番の課題は、その担い手が減少してきていることだ。これを解決するためには、農家が適切な収益を得られる仕組み作りが重要だと有政さんは語る。

有政さん:現在は、農業で生計を立てるためには、一つの品種を大量に作り一気に売るという大量生産型の仕組みしかありません。小さな農家が少量の野菜を作っても、ビジネスにはならないのです。その上、日本の野菜流通システムには、、出荷団体、卸売市場、仲卸業者、小売業者など間に入る事業者が多く、農家に入るお金はかなり少なくなります。

まごやさい

まごやさいの農家

担い手の減少に加え、農業は気候変動や気温の上昇を直接的に受ける産業のため、今後野菜の収量そのものが減っていくことも懸念されている。

日本全国の農作物の平均自給率は38%だが、大きな平野部がない広島県は、23%と日本の平均を下回る。広い土地で専業的に行う農家でないと、野菜を流通させることが難しいのだ。こうした中、レストランの存在がこの問題の解決の一助になっていく可能性が見えてきた。

有政さん:市場に野菜を流通させるためには、野菜の規格を守る必要があります。そして、その規格から外れている小規模農家はたくさんいるんですよね。自分の近くの農家を見ると、自分の家で食べるために作っている人たちも多く、小規模で多品種という特徴があります。そうすると出荷までの手間もかかるので、市場に出さないことが多い。さらに、こうした小規模多品種の農家では、自分たちの家庭で食べることを目的としているので、農薬をまかないことがほとんどなんですよ。

一方、レストランでは月に100種類もの野菜を、少量ずつ扱う特徴があります。農薬をほとんど使わずに多品種を作っている小規模農家と、質の良い多品種の野菜を少量ずつ仕入れたいというニーズを持っている飲食店。この2者をうまくマッチングできる可能性を感じました。

また、小規模農家は品種の縛りがないため、新しい野菜や珍しい野菜を比較的作りやすいのです。ですから、農家とレストラン、双方がコミュニケーションをとりながら飲食店のニーズに合う野菜を作っていくこともできるのです。

編集後記

こうして農業の課題を聞いていると、レストランの存在意義はより強くなってくると感じる。

レストランは生産者とコミュニケーションをとりながら、野菜の価値を理解して購入し、そこに付加価値をつけてお客様に提供することができる。レストランは主役ではなく、生産者や食材、そしてお客様を引き立たせる存在である。「restaurant be」という店名には、そんな意味が込められている。

有政さん:Be動詞は助詞であって、主人公ではないですよね。皆さんを彩る舞台装置みたいな感じのBe動詞。『I am』だったり、『We are』だったりと、主人公によって変わっていく。そんな風に、シチュエーションに合わせてスタイルを柔軟に変えていけるような、心地のいいレストランを作っていきたいという思いを込めてこの名前をつけました。

日本の地方には、まだまだ全国に流通していないおいしい野菜が溢れている。それらに価値をつけてあげられるのは、日本の食文化を陰で支え続けてきたレストランなのかもしれない。

【参照サイト】restaurant be(公式)
【参照サイト】まごやさい
【参照サイト】日本サステイナブル・レストラン協会

Edited by Motomi Souma

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