障害者や難民の人のための施設や手頃な価格の住宅ユニット、生活困窮者への食糧提供……私たちの周りには、社会的に弱い立場にある人のための支援施設やサービスが存在する。
これらの支援はすべての人たちの生活、そして命を守るために大切なもの。しかし、同時にジレンマも存在している。それは、多くの場合、サービスの提供者と受け手の間に、権力関係が生まれてしまうこと。また、支援を受ける側がサービスに対して「正直なフィードバックをしづらい」ことだ。
「支援をする側ーされる側」という関係性はもちろん、高齢者や障害者、難民などサービスの受け手の状況によっては、ヒアリングをすることが必ずしも簡単ではない。紙のアンケートや対面でのインタビュー、オンライン調査などの様々な手段が考えられるが、個別の状況に合わせてフィードバックを求めることは難しい。それによって、より良いサービスの提供につなげられていない現状があるという。
この「フィードバックのしにくさ」という問題を解決するため、アメリカに拠点を置く企業「Pulse for Good」は、新たな仕組みを考えた。同社は、様々な施設の中にキオスク(電子ハードウェア)を設置することで、誰でも簡単に利用するサービスについて発言できるようにしたのだ。
こだわりは、その匿名性。企業やサービスプロバイダーが回答者の身元を特定できないように、フィードバックは匿名になっているため、回答者は報復を恐れることなく、安心してサービスに関する感想を共有することが可能となっている。
これまでに、すでに5万件以上のフィードバックがキオスクを通して寄せられており、Pulse for Goodは、フィードバック1件につき、個人の声を届けるために努力している団体や、ホームレス支援団体などに寄付している。
このキオスクのハードウェアは、幅広いマーケットにも柔軟に対応できるものだが、Pulse for Goodが社会的弱者に焦点を当てることにしたのは、この層の声が無視されがちであると感じているからだという。公式サイトには、Pulse for Goodの使命について次のように記載されている。
私たちは、20世紀の哲学者ポール・ティリッヒの言葉、“愛の第一の義務は、耳を傾けることである”を大切にしています。そして、“愛の第二の義務は、行動することである”と付け加えます。私たちは、組織が耳を傾け、行動し、そして愛することができるよう支援することに努めています。
果たして私たちは、そして私たちの社会は、自分の周囲にいるすべての人たちの声に耳を傾け、行動することが出来ているだろうか。改めて立ち止まって問い直したいテーマの一つである。
【参照サイト】Pulse for good
Edited by Tomoko Ito