黒人系の未来思考「アフロ・フューチャリズム」を解釈する

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「(黒人に対する)人種差別と奴隷制度では、どちらが先にあったでしょう?」

アメリカのとある歴史の授業で、教師から生徒たちに投げかけられた質問である。今もなお根深い同国内での黒人差別問題の、はじまりの出来事。あなたなら、どう答えるだろうか。

その場にいた生徒たちは、口々に「人種差別」だと答えた。「奴隷貿易を主導した人たちの中には『肌の色が黒い人々=劣っている』という信念があったから、黒人たちを奴隷にしたのでは」と。

しかし教師の答えは違った。彼女が言うには、奴隷制度が先にあり、人種差別はその制度を正当化するために「作られた」ものだと。人種による区別は、何も自然発生したものではなく、ただの社会通念であり、政治的なフィクション(創造物)だと考えのである。


上記の教師と生徒のやりとりは、黒人文化(ブラック・カルチャー)が描く未来について体系的にまとまった書籍『アフロフューチャリズム ブラック・カルチャーと未来の想像力(以下、アフロフューチャリズム)』の中に登場したものだ。作家で、本書の著者であるイターシャ・L・ウォマック氏の大学時代の印象的なエピソードである。

2020年5月のロンドンにて BLMデモを行う人々 Image via Matteo Roma / Shutterstock.com

2020年5月のロンドンにて BLMデモを行う人々 Image via Matteo Roma / Shutterstock.com

本記事では、ここで登場した「アフロ・フューチャリズム」という概念について考えてみたい。なんだか聞き慣れないこの言葉は、普段の生活であまり人種について意識することがない私たちに、新たな視点を与えてくれるはずだから。前述の書籍の引用をしながら、解説していく。

アフロ・フューチャリズムとは?

では、アフロ・フューチャリズムとは何だろう。この言葉は元々、文化評論家のマークデリーが1994年に発表したエッセイ“Black to the Future”で初めて登場したものだ(※1)

定義は人それぞれだが、ここでは「これまで西洋の視点(つまり白人系の人々の視点)で解釈され、都合よく構築されてきたアフリカ文化を、改めて当事者である黒人系の人々のレンズを通して捉え直し、まったく新しい未来を創造する考え方」とする。

アメリカでは、18世紀の奴隷制度から現代まで、時代のさまざまな場面で「差別」があった。同国のSF&ファンタジー雑誌「Fireside Fiction」が2015年に発表したデータによると、英語圏の文芸誌63誌に掲載された作品のうち、黒人作家による著作は2%以下だったという(※2)。調査結果の中では、「アフリカ系の登場人物や文化はニッチすぎる」と言われた経験を語る作家もいたと報告されている。

書籍『アフロフューチャリズム』の著者イターシャ氏は、この言葉を「想像力」「テクノロジー」「未来」「解放」の交差点だと表現。悲惨な歴史を強いられてきた黒人系の人々が、いま自らの想像力を使い、音楽や小説、漫画、絵本、SF映画などのフィクションを通して「ありたい未来」を描くことが、アフロ・フューチャリズムなのだ。

具体的には、アフリカ系アメリカ人コミュニティで生まれた音楽であるジャズやブルースは、アフロ・フューチャリズムを体現化したものと言える。映画でいうと、『スタートレック』や『マトリックス』、『ブラックパンサー』、『サン・ラーのスペース・イズ・ザ・プレイス』。音楽では、ジャネール・モネイの『ダーティ・コンピュータ』が挙げられる。

アフロ・フューチャリズムの体現だと言える作品に共通していることは、どこかに「SF(サイエンスフィクション、未来的な空想の物語)」の要素が入っていることだ。

SF作品が「希望」になる理由

ではなぜ、SFなのか。書籍『アフロフューチャリズム』に、こんな発言が出てくる。

「あなたが白人ではなく、この国(=アメリカ)に住んでいるなら、自分を投影できるイメージに飢えているはずです」

この発言の背景にあるのは、これまでアメリカで作られてきた作品の主人公、ヒロインなどがいつも白人系であるという事象だ。自分と同じ浅黒い肌の色を持ったキャラクターは、昔の作品であればあるほど出てこないか、出てきてもせいぜい白人系の男性主人公の「助っ人」に徹しているのだという。

以下は、本書で紹介されていたアフリカ系アメリカ人の女性のエピソードだ。

彼女はひどく苛立っていた。というのも、彼女は黒人のキャラクターで歴史小説を書きたいのに、過去の人種差別という現実に邪魔されてしまうと感じていたのだ。カウボーイのヒーロー、ヴィクトリア朝のロマンス、南北戦争前の南部の物語。

どんな話であれ、奴隷制や植民地政策という暗雲がたれこめ、主人公の運命を決めてしまう。少なくとも、1960年頃から過去500年を舞台とした物語で、彼女は幸せな結末へといたるプロットをひとつも考え出すことができなかった。

過去の話を書こうとすると、どうしても迫害の歴史という事実に、そのキャラクターの運命を決められてしまう。だからこそアフロ・フューチャリズムという考えは、まだ誰も描いていない未来に希望を見出したのである。「想像力は抵抗のツール」というのも、本書で登場した言葉だ。

創造力を力にする女性

私たちが想像する以上に、ロールモデルというのは大切なものである。SF映画『スタートレック』の登場人物であるかっこいい女性「ウフーラ」に憧れて、黒人女性初の宇宙飛行士になった女性がいる。アメリカの医師、メイ・ジェミソン氏だ。彼女の行動力には、『スタートレック』製作陣も驚いていたという。「フィクションはある程度意図を持って作るもので、多様な人種を登場させたいとは思ったが、まさかそれが黒人女性初の宇宙飛行士を誕生させるまでの影響力を持つとは……」

また、黒人系のためのSF作品の共有コミュニティサイトも存在している。それぞれの人が、自分のロールモデルとなり得るキャラクターを見つけられる「Blacksciencefictionsociety」である。

ここでは、「批判するなら建設的に」という信条のもと、小説や雑誌などのレビューが見られるほか、自分が作った作品の投稿などを行うことができる。まさに、想像力を使って未来を描くコミュニティだ。

「人種の意識」は、私たちの見方を変えるか

ザンビア出身の作家マシ・ムベウェは、自身が登壇したTED Talksで「未来において、Blackness(黒人であること)は何を意味するのか?」と問うていた(※3)

日本で生きる私たちの多くは、周りの人々も同じような文化や同じ肌に囲まれて育ってきており、「アジア人ということを日頃から意識している」とか「同じ肌の色だから共感できる」といった感覚にはなりにくい。アメリカで暮らし、日常から不条理に直面する黒人系の人々と、意識の乖離があるのは当然かもしれない。筆者も、海外に出るまでは自分の人種を強く意識したことはなかった。

だが自分が人種による差別を経験していなかったとしても、心を寄せることはできる。近くのあの人が、もし普段から「他の人とは違って嫌な扱われ方」をされていたら。自分が生まれ育った国なのに、何歳になっても部外者のような気分にさせられていたら。どのメディアを見ても、自分とはあまりに違う人たちばかりで、目指したくなるようなロールモデルがいなかったら。

私たちの今の生活は、歴史のうえに成り立っている。過去に学び、過去を繰り返さないことを誓いながら、「今後」の変われる可能性に希望を見出すことが、今の私たちにできることではないだろうか。

Image via KenSoftTH / Shutterstock.com

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アフロ・フューチャリズムの概念は、文化だけでなく、未来を作る子供たちの教育にも広がっている。以下は、書籍『アフロフューチャリズム』で見られた一つの例だ。

「ある学校の教師は、女子生徒が男性を一切入れずに歴史を語ったらどう思うか、男子生徒に尋ねました。それを考えるだけで、男子生徒たちは憤慨していました」。

しかし、この議論をきっかけに、子どもたちの多くが、未来のことや、自分たちと未来の繋がり、さらには過去の影響について、真剣に考えるようになった。

「私はアフロフューチャリズムを使って、生徒たちに未来を語ってもらいます」

本書では、SF作品の部分だけでなく、黒人文化におけるギーク(オタク)たちの存在や、フェミニズム、宇宙、そして自然との繋がりにも触れている。過去を乗り越えて自由になるためのキーワードは、やはり「今ここにないものを見つめられる」想像力だ。

あなたなら、自分の持つ想像力をどのように使うだろうか。アフロ・フューチャリズムという一見遠く感じられる言葉を通して、いま私たち自身のあり方も問われている。

※1 Black to the Future
※2 #BlackSpecFic: A Fireside Fiction Company Special Report
※3 Afrofuturism: Re-writing the African Narrative | Masi Mbewe | TEDxUniversityofNamibia

【参照サイト】Black Science Fiction Society
【参照サイト】アフロフューチャリズム ブラック・カルチャーと未来の想像力
【関連記事】アフロ・フューチャリズムとは・意味

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