「電力の民主化」という言葉がある。これは、大手の電力会社に頼るだけでなく、市民が生活に必要な電力を自分で発電できるくらいのシステムを作ることだ。火力を使って発電したり、広大な土地に太陽光パネルや風力タービンを並べて発電したり…… といった従来の発電のイメージは、もはや過去のものになるかもしれない。
そんな時代に先駆けて登場したのが、イギリスのノッティンガム・トレント大学の研究者が2022年10月に発表した「太陽電池を織り込んだ布」だ。
布には、縦5ミリメートル、横1.5ミリメートルの太陽電池がたくさん織り込まれており、これを使って服や鞄を作ることができる。技術的には、服を着て外を歩くだけで、自分で電気を作ることができるのだ。
ノッティンガム・トレント大学は、1,200個の太陽電池が織り込まれていれば、携帯電話やスマートウォッチを充電するのに十分な量の発電ができると発表している。
太陽電池はシリコン製で、ポリマー樹脂に埋め込まれている。服を着ていても、太陽電池が付いている感触はしないという。通常の服と同じように折りたたんだり、洗濯機で洗ったりできるのも便利だ。
研究者のセオドア・ヒューズ・ライリー氏は、ニュースリリースで次のように語っている。
電気をつくる布は、人間と技術の関わり方を変える可能性を持っています。このプロトタイプは、多くのデバイスを壁際で充電する現状を変える方法を示しています。
より多様な人々が電気づくりに参加する「電力の民主化」に注目する人は、他にもいる。
たとえば、アメリカ・イェール大学のオンラインジャーナルでは、電気の消費者が電気の生産者にもなる、パラダイムシフトが起きていると指摘。電気のプロシューマー(生産活動を行う消費者)がエネルギー企業への依存を減らすという変化は、21世紀のメガトレンドになる可能性があるという。
発電所でつくられた電気は、送電線や配電線を通り、長い道のりを経て家に届く。この道のりが長いと、送電される間に失われる電力も多くなるため、それを短くすることはエネルギーの損失を防ぐことにもつながるのだ。
世界中でエネルギー危機が叫ばれる今、そのひとつの解決策となり得る「電力の民主化」を推進するアイデアに引き続き注目していきたい。
【参照サイト】Clothing embedded with 1,200 tiny solar panels illuminates future of wearable tech | Nottingham Trent University
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