フランス・パリの街を縦横無尽に行き交う、フードデリバリーサービスの配達員。自転車で、バイクで、車で。あたたかな食事を乗せて、注文者のもとへ向かっていく。
もし配達員のバッグが広告となり、街中を走るだけでさらなる収入が得られたら。そんな発想から生まれたのが、フランス・ドゥーイット社の「DigiBag(ディジバッグ)」だ。
これは、配達バッグに取り付けられたスクリーンで、地域の特色や歩く人々などの情報を収集しながら、その場にぴったりな広告を届けることで、新たに広告収入を生むモデルである。
DigiBag transforme le sac des livreurs en média pour augmenter leurs revenus
Plus d’infos : https://t.co/UVVQCxnWtf pic.twitter.com/MgRk6Xa4Hg
— Creapills 💊 (@creapills) January 23, 2023
このDigiBag開発の背景にあるのは、近年ますます身近になったフードデリバリーであり、その配達員の低賃金問題だった。ドゥーイット社によると、現在フランスの主要都市には5万人程度の自転車配達員がいると推定されており、その6割が貧困ライン以下の生活を送っているという。デリバリー配達員のような短時間かつ単発で仕事をするギグワーカーは、基本的にはフリーランスや個人事業主という位置づけとなり、社会保障がないこともある。
そんなギグワーカーたちに対し、ドゥーイット社は配達で走った分に応じた広告収入を与え、さらにフランス語の語学研修なども提供することで、より公正な賃金を目指しているのだ。
配達場所は、イベントの開催場所からビジネス街の中心、住宅街、観光客が多く訪れる街のシンボルなど。走れば走るほど、スポンサー企業にとっては広告を見る人が増え、働く人にとっては貧困ラインの生活から抜け出すための収入を得る手立てになるという、Win-Winの収益モデルである。
日本でも、歩いて稼ぐ広告バイト「Stchar !(ストチャー!)」が2022年6月に正式リリースされた。今回のDigiBagのように、配達という目的のついでに広告を見せる、というよりは、「広告を背負って歩く」イメージに近いが、ギグワーカーにとっての新たな働き方という点では共通している。
また2022年11月には、東京都労働委員会がフードデリバリーサービスUber Eatsの運営会社などに対し、配達員の労働組合と団体交渉に応じるよう命じたことが記憶に新しい。このようにギグワーカーを労働組合法上の労働者とする法的判断は、国内初だ。
時代が変わり、新たな働き方が続々登場するなかで、労働者の権利はどう守られていくのか。フランスのDigiBagは、そんなことを考えさせてくれる好事例である。
【参照サイト】DigiBag
【参照サイト】歩いて稼ぐ、広告バイト「Stchar !(ストチャー!)」6月4日より、正式版の提供を開始!