化粧品業界をサステナブルに。日本ロレアルの戦略と実践とは?【Be Climate Creative!】

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自然環境の危機から生物多様性の危機、食料の危機、安全保障の危機、人権の危機まで……さまざまな危機をもたらしている気候変動。この問題に立ち向かうためには、人々をワクワクさせる創造的なアイデアや、人々に新しい視点を提供する創造的な表現とコミュニケーション、デジタル技術を活用した創造的なビジネスモデルの創出といった一人ひとりのクリエイティビティ(創造性)が必要なのではないだろうか。

そうした想いから、IDEAS FOR GOODは株式会社メンバーズとのシリーズ「Climate Creative」をお届けしている。今回は、「サステナブルな化粧品メーカーを追求する」日本ロレアルの楠田倫子(くすだ・ともこ)氏に話を伺った。

※以下は、株式会社メンバーズ萩谷氏・中村氏による楠田倫子氏へのインタビュー。

話し手プロフィール:楠田倫子(くすだ・ともこ)氏

楠田倫子(くすだ・ともこ)氏日本ロレアル株式会社ヴァイスプレジデントコーポレートレスポンスビリティ本部長。上智大学法学部国際関係法学科卒。米国コロンビア大学経営大学院にて MBA 取得。国内金融機関、米系消費財メーカーを経て1999年日本ロレアル入社。プロフェッショナルプロダクツ事業本部にてサロン流通ブランドのマーケティング統括やアジア市場における製品開発を担当したのち、2009年からロレアルリュクス事業本部、2015 年からはアクティブコスメティックス事業部においてシュウウエムラやラロッシュポゼなど様々なブランド統括および事業部長職を歴任。2020年にヴァイスプレジテントに就任し、コーポレート・アフェアズ&エンゲージメント本部長を経て、2022 年 9 月よりコーポレート・レスポンシビリティ本部長、現在に至る。日本におけるサステナビリティプログラムやCSR 活動を統括するとともに、企業倫理、人権、DE&Iの推進・遂行を担う。日本ロレアルエクゼクティブコミッティーメンバー。

サステナビリティの取り組みなくして、ビジネスはできない

Q. ロレアルはこれまでにもサステナビリティにコミットした取り組みをしていますね。2030年に向けた「ロレアル・フォー・ザ・フューチャー」について教えてください。

当社のサステナビリティの取り組みは、1970年代にまで遡ります。動物実験の廃止やヒトの皮膚を再構築するエピスキン技術の開発がきっかけとなっています。

以前から、2020年を目標として、「ロレアル・フォー・ザ・フューチャー」(地球温暖化や環境変化に対応するための取り組みのためのコミットメント)と同様のプログラムを進めていました。目標年の2020年が到来したため2030年までの目標を定めることとなり、サステナビリティや環境に配慮しながらも人間らしい生活を送るために、当社が貢献できることは何かを再定義しました。

ここで、パーパスの中にサステナビリティやダイバーシティ&インクルージョンが据えられるように。また、「世界をつき動かす美の創造」のために、「Beauty for All ―美をすべての人生に」 届けることがミッションとして掲げられたのもこのタイミングです。

そして、こうしたミッションを達成するために、2025年のカーボンニュートラルの実現など、50程度のKPIを設定しています。当社の経営陣は、「ライセンス・トゥ・オペレート」というキーワードを使います。これは、ビジネスを進めるうえで、サステナビリティは運転免許のようなもの、つまり、サステナビリティの取り組みなくして、ビジネスはできないということです。こうした新しい基準を作ることは、コストではなく投資です。サステナビリティはビジネスとのトレードオフの関係ではなく、ビジネスを進めるうえでは必須であるということ。20年以上前からこうした考えに基づきビジネスを進めていますが、年々成長していますし、最近は株価も過去最高を更新しました。

日本ロレアルWebサイトより:持続的な発展のための2030年に向けた戦略「ロレアル・フォー・ザ・フューチャー」

日本ロレアルWebサイトより:持続的な発展のための2030年に向けた戦略「ロレアル・フォー・ザ・フューチャー」

サステナビリティ達成への貢献をボーナス査定に組み込む

Q. サステナビリティを積極的に進める一番の原動力はなんですか?

CEOの明確なコミットメントに加え、各国にサステナビリティを進めるチーフ・コーポレートレスポンシブル・オフィサーを置いていることが大きいと感じています。日本では、私がその役割を担っています。また、昨年からは世界中の全社員のボーナスの査定に、サステナビリティ達成への貢献を数値目標として組み込んでおり、社員の関心が高まるきっかけとなっています。

Q. 日本のコーポレートレスポンスビリティ本部は、サステナビリティの取り組みに関して、どのような役割を担っていますか?

「ロレアル・フォー・ザ・フューチャー」や、それに紐づくKPIはフランス本社で策定しています。それぞれのKPIに対して2030年まで何をするのかは、本社と各国でそれぞれの役割を決め、目標に対する日本国内の推進は、コーポレートレスポンスビリティ本部が主導しています。日本国内では、18のブランドが具体的なアクションを進めており、それぞれのブランドマネージャーが工場や物流部門などと連携し進めています。

Q. 日本独自で進めているアクションはありますか?

国内で柱となる取り組みは、CO2排出量と廃棄物の削減、循環経済への貢献、そして、女性の活躍支援です。グローバルでは、カーボンニュートラルの達成を2025年までとしていますが、日本では本社ならびに事業所で、カーボンオフセットやヒートポンプの導入を進め、すでに2022年にスコープ2のカーボンニュートラルを達成しました。廃棄物に関しては、テラサイクル社と連携し店頭での容器回収をしています。販売を担う美容部員はブランドごとに制服がありますが、モデルチェンジや退職の際はすべて回収し、自動車部品の一部として再利用されています。

Q. こうした取り組みは、消費者になかなか伝わっていないのではないでしょうか。

日本ロレアルは、多くのブランドを保有していますが、対消費者への発信はそれぞれのブランドが担当してきました。つまり、これまではロレアル全体、一企業として直接メッセージを発することはしていませんでした。

しかし、パーパス経営を進めるなかで「ロレアル・フォー・ザ・フューチャー」の立ち上げ以降は、ロレアル・グループとして、何を考え、何をコミットメントし、何をアクションしているのかをコーポレートとして発信しています。ブランドメッセージよりも、コーポレートメッセージのほうが消費者にも浸透するという調査結果もあり、そうしたことから当社もコーポレートメッセージの発信にも注力し、プラネタリー・バウンダリー(地球の限界)の考えや科学的根拠に基づく情報発信をしています。

サステナビリティを意識した消費行動の負の連鎖を断ち切る

Q.日本の一般消費者のサステナビリティ意識を、どう見ていますか?

社会課題解決に取り組むブランドへの期待感は感じ取ることができます。世界の主要国を対象としたサステナビリティに関する意識調査によると、他国と比べて日本は、サステナビリティを意識した消費行動の形成が大きく遅れています。「サステナビリティに配慮した商品が売っていないから」というのがその理由のようです。商品がないから消費者は行動に移せないのか、消費者の行動が起きていないから企業商品を提供しないのかは分かりません。しかし、サステナビリティへの関心が高まるなか、需要にあう商品を提供することで、こうした負の循環を断ち切る時期であると感じています。

サステナビリティを考慮した商品提供を行うには、これまでのビジネスモデルを変えて、一部の部署が部分最適で進めるものではなく、経営トップが全社を巻き込み進める必要があります。多くの企業のトップは、本腰を入れて取り組まなければならない時期がきています。現場の社員のマインドシフトも必要になるでしょう。

日本ロレアル

新商品開発に、独自のライフサイクルアセスメント(LCA)スコアを導入

Q. サステナビリティに配慮するため、LCAの考えを組み込んだ商品開発を進めていますね。

原材料の調達から処方・製造・物流・販売・廃棄に至る、ライフサイクル全体での環境負荷をすべての商品で算出しています。当社の研究開発チームは、基準となるLCAのスコアを満たす必要があります。あるカテゴリーの新商品・新製品開発の際は、従来の同カテゴリー商品の平均スコアを上回る必要があります。また、改良商品であれば、既存品のスコアを上回ることが求められます。つまり、スコアはおのずとアップします。

こうした仕組みは、SPOT(Sustainable Product Optimization Tool、「持続可能な製品最適化ツール」)と呼んでいます。商品としての機能性を損なわず、環境負荷を下げていくことが求められますが、自社のみでの開発には限界がありますので、社外とのパートナーシップも増えています。

Q. 同業他社をパートナーシップとして、業界全体を巻き込んだコンソーシアムも立ち上げていますね。

化粧品による環境や社会への負荷を数値化し、消費者に開示するプロジェクトを進めています。当社が環境負荷の状況を独自で数値化し取り組みを進めても他社が異なる基準で同様の取り組みを進めたら、消費者は混乱してしまいます。そうした状況はメーカーとして避けたいと考えています。そこで、共通の環境影響評価とスコアリングシステムの開発を目指し、当社が発起人の一社として化粧品業界に呼びかけ、「エコビューティースコア・コンソーシアム」を設立しました。今では約60社が参加しています。

また、海外ではヨーロッパから順次、 製品の環境影響に関する情報を消費者自らがスマートフォンで確認できる「製品インパクトラベル」の取り組みをヨーロッパから順次進めています。「製品インパクトラベル」の導入率が最も高いのが、ドラッグストアやスーパーマッケートを主な販売チャネルとする「ガルニエ」(日本未展開)というブランドです。お客さまにも好評で、ビジネスも好調です。消費者意識の醸成の面からも、こういった製品インパクトラベルの表示は有効であると考えています。

Scope3削減のために自らがシャワーヘッド開発を行う

Q. サステナビリティに配慮したブランドがお客さまを巻き込み成功している好事例です。その他、お客さまとの共創による取り組みはありますか?

化粧品メーカーが排出するCO2の多くはScope3が占めていますので、CO2排出削減にはお客さまを巻き込むことが求められます。当社の商品では、温水で洗い流す特性を持つシャンプーなどの「洗い流すヘアケア製品」 の環境負荷が最も高くなっています。そこで、使用する温水の量が減れば、環境負荷も小さくなるため、洗い流しやすさを追求した商品改良を行っています。また、海外では美容サロン向けに、当社が開発した特殊なシャワーヘッドの販売も行っています。このシャワーヘッドでは、水の粒子の極小化により、使用する水量を最大80%減らすことが可能です。家庭用向け商品も含め、近々日本でも展開します。

こうしたビジネス展開を進めるためには、従来のビジネスの考え方にサステナビリティの思考を組み込むことが求められていると言えるでしょう。オンラインカンファレンスやeラーニングコンテンツなどにより、社内での教育研修も積極的に進めています。

ロレアルWebサイトより:「L’ORÉAL WATER SAVER」 水の使用量を減らすため独自のデバイスを開発

Q. 最後に、将来の脱炭素社会に向けてメッセージをお願いします。

日本政府による2050年のカーボンニュートラル宣言により、サステナブルな取り組みに対して追い風が吹き、消費者の意識も変化しています。今後は化粧品メーカーとして、社会や消費者に対して、サステナビリティに関する情報を発信する必要性と必然性が高まっていると実感しています。他社の方々と消費者の皆さまも巻き込みながら、サステナブルな化粧品メーカーのあり方を追求したいと考えています。

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