青く澄んだ美しい海は、地球と人間の健康にとって重要な役割を担っている。そのため、海洋の汚染は不健康な生態系に直結し、海洋生物、気候変動、食の安全性などに悪影響を及ぼす。
ユネスコの報告によると、海洋汚染のうち80%は、プラスチックが占めている。年間約800万~1000万トンのプラスチックが海に流れ込んでおり、現在、海には約50兆~75兆個のプラスチック及びマイクロプラスチックが蓄積されていると言われている(※1)。
この問題の解決に向けては、生分解性プラスチックの開発やプラスチック使用の削減を目指す政策など、プラスチックの海洋流入を抑制する取り組みが行われている。しかし、同じくらい重要なのは、すでに海に流出してしまったプラスチックを回収することだ。
そこで、ドイツの研究機関であるマックスプランク知能システム研究所(MPI-IS)は、「クラゲロボット(Jellyfish-Bot)」と呼ばれる水中掃除ロボットの開発を進めている。このクラゲロボットは、その名の通り、クラゲの生態、特に泳ぎ方や捕食方法からインスピレーションを得たものだ。従来の水中ロボットとは異なり、コンパクトでエネルギー効率が高く、騒音がほとんどないことが特長であり、水中生物に影響を与えることなく掃除を行うことができる。
電気油圧アクチュエーターと剛体・軟体のハイブリット構造を採用し、クラゲロボットのプラットフォームを開発。静音電源の電気供給によってロボットの収縮と膨張を可能にし、クラゲのような優雅な泳ぎを実現する。
クラゲロボットが上向きに泳ぐ際、水の流れによって進路上のプラスチックゴミを巻き込み回収する。また、海底に蓄積された海洋プラスチックも回収できる。
クラゲロボット開発チームによると、地球表面の70%以上を占める海洋、特に底生生物の生息域に関する科学的調査は全く不十分であり、今後、人間活動による水域への影響がますます深刻化することから、海底調査の効率化は環境保全のために急務である。また、海洋ゴミの70%は海底に沈むことを考慮すると、海底の適切な調査や堆積したゴミの回収が必要だ。
そこで彼らは、生物やゴミをサンプリングし、上方へ運搬する能力を持ち、水中生物に迷惑をかけることなくスピーディーにこれらの作業を行うことのできるロボットの開発を目指したのである。
クラゲロボットは、科学的調査の推進・プラスチック回収の効率化によって、海洋汚染問題の改善に大きく貢献できるポテンシャルがある。しかし、この巨大な問題はテクノロジーやロボットが単独で解決できるものではない。政府、研究機関、教育機関、環境団体、地域社会、企業を巻き込んだ多面的なアプローチと包括的な戦略が必要である。
個人レベルでは、政策の支持、環境イニシアティブへの支援、環境認証マークのついた商品の購入、表面的なデータに惑わされない情報リテラシーの向上、環境意識の普及などにより、この問題改善に貢献することができる。
一人ひとりが海の健康問題の参加者であることを自覚し、それに伴った日々の選択をすることで、クラゲロボットの可能性を最大限に引き出すことができるのではないか。
※1 UNESCO ‘Ocean plastic pollution an overview: data and statistics’
【参照サイト】 Science Advances ‘A versatile jellyfish-like robotic platform for effective underwater propulsion and manipulation’
【参照サイト】 Forbes ‘Jellyfish Robots Could One Day Clean Up The World’s Oceans’
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