待っているバスがなかなか来ないとき、乗車時間が長くてうんざりしているとき。イヤホンを忘れて音楽は聴けないし、SNSのタイムラインをスクロールするのにも飽きた──そんなふうに暇を持て余してしまったら、あなたは何をするだろう。
退屈なバスの待ち時間や乗車時間を楽しくするため、「バス停を図書館にする」プログラムを行っているのが、アメリカのボストン市だ。
“Browse, Borrow, Board. (見て、借りて、乗って)”と題されたこちらのプログラム。ボストン市のいくつかのバス停にデジタルポップアップ図書館につながるQRコードが設置されており、これをスマートフォンで読み取るだけで、デジタル書籍を借りることができるようになっている。図書カードの登録やアプリのインストールも不要で、気軽に利用できるのが特徴だ。
このプログラムが始まったきっかけは、バスの利用者へのアンケート結果だったという。このアンケートで、バス利用者が乗車中にデジタル書籍を利用することに高い関心があるということが分かったのだ。その結果を踏まえ、ボストン市長・ミシェル・ウー氏と、ボストン市図書館長のデイビッド・レオナルド氏が中心となり、2023年5月~8月まで、バス停でのデジタル書籍貸出サービスを試験的に実施することになった。
書籍のラインナップは幅広い。ベストセラー本や乗車中に読みやすい短編集、詩集、125を超える世界中の国々、7,000に及ぶ資料から自由に選べる新聞や雑誌、さらにはオーディオブックまで、年齢に関係なく多くの人が楽しめる様々なコンテンツが取り揃えられている。
また、ボストン市は、この他にも低所得者層の人々が多く利用する複数のバス路線で運賃を無料化する試験プログラムを実施中だ。
「私たちは、知識と交通手段の両方を『すべての人に無料で提供できる』という価値観を共有しています」
レオナルド館長がプレスリリースのなかでそう語るように、ボストン市の一連のプログラムは、知識や交通手段を一部の人のものとして留めておくのではなく「誰にでも開かれたものにする」インクルーシブな取り組みと言えるだろう。
日常的に利用するバス停を図書館に変える──複雑な手続きも待ち時間も不要のプログラムは、誰もが平等に書籍に親しむ機会を提供してくれる。ちょっとした待ち時間や移動時間が便利で楽しいものになれば、きっとささやかな幸せが私たちの日常を彩ってくれるだろう。
【参照サイト】Mayor Wu Announces Debut of Digital Pop-Up Library at Bus Stops Citywide
【参照サイト】FREE ROUTE 23, 28, AND 29 BUS PROGRAM
Edited by Yuka Kihara