払える人が、払える分だけ。フランスの「値札のない」パン屋

Browse By

「いくら払いますか?」

フランス北部の都市アミアンにあるパン屋さんの店員は言う。初めて行く人は少し戸惑うかもしれないが、その従業員は決して、間違ったことを聞いたわけではない。

「Mamatte Bakery(ママット・ベーカリー)」というパン屋チェーンでは、お客さんがパンの値段を決められるユニークな取り組みを行っている。対象になるのは、フランス人にとっては毎日の食卓に欠かせないバゲット。お店側はバゲットの金額を定めていないため、値札もない。お客さんに質問する形になっているのだ。

このキャンペーンの背景には、インフレーションがある。フランスでは、過去12か月間で食料品のインフレ率は8%を記録しており、物価高で生活が苦しくなっている人が増えている。実際に、バゲットをつくるために必要な原材料の価格は上昇するばかりで、当然店頭での販売価格も上がっている。そんな中、より多くの人々がパンという生活の必需品を購入し続けることができるよう、パン屋が一か月間は原価の回収にとどめた価格設定にしているのだ。

通常250グラムあたり1.2ユーロ(約194円)で販売されているバゲットだが、2023年11月2日から同月末までのキャンペーン期間中は、最低価格を60セント(約97円)とし、お客さんが自由に値段をつけることができる。もちろん、原材料や作り方は通常通りなので、美味しさは変わらない。

このキャンペーンでは、通常の金額の半分からバゲットを購入することができるため、生活が苦しくなっている人を救う取り組みになっている。ところが、蓋を開けてみると最低価格で購入している人は、全体の20〜25%程度で、そのほかのほとんどの購入者は1ユーロ(約161円)以上を支払っているという。

毎日バゲットを購入している常連客ならば、感謝の気持ちを込めて通常の価格を支払うことができるかもしれないし、ちょっと節約したい人は、いつもより少し値引きされた金額で買うことができる。このユニークなキャンペーンに惹かれて初めて来店する人も少なくないだろう。

「インフレに打ち勝つ」というMamette Bakeryの想いから企画されたキャンペーンは多くの人にとって、ポジティブな影響を与えているのだ。

一つひとつの食品をつくるのは簡単なことではない。バゲットを食べるだけでも、原材料の小麦を育て、収穫し、輸送し、パン職人がパンを焼き、パン屋で販売し、購入者が調理をする。そんな複雑な過程があることを頭の片隅にいれて、自然の恵みやその工程にかかわる人に感謝をしつつ、美味しい食事を楽しみたい。

【関連記事】開店は夜の7時半。ホームレス支援のビッグイシューが始めた「夜のパン屋さん」
【参照サイト】Cette chaîne de boulangeries laisse ses clients décider du prix de la baguette
【参照サイト】 Hauts-de-France: in Mamatte bakeries, the customer sets the price of their baguette

Edited by Erika Tomiyama

FacebookTwitter