ネットゼロ目標達成まであと何年?英国の「自治体ごとの進捗」可視化ツール

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気候変動の問題に関心のある人ならば一度は聞いたことがあるであろう言葉「ネットゼロ」。地球温暖化の原因とされる温室効果ガスの排出量から吸収量と除去量を差し引いて正味(=ネット)ゼロにするという意味だ。

2020年には、日本も「2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする」と宣言し、地方自治体や企業が気候変動対策に向けた取り組みを進めている。しかし温室効果ガスは実際には目に見えないため、現在大気中でどのくらいの量が放出、吸収されているのか、そして私たちの取り組みがどれほどの効果があるのか実感することは難しい。一方で、削減目標を立てたからには具体的な数字で排出量を追跡し、対応策を取らねばならない。

海外のその他主要排出国でも同様だ。イギリスでは2050年までに温室効果ガスのネットゼロを目指す「ネットゼロ戦略」を打ち出しているが、2023年9月にリシ・スナク首相がより現実的に計画を見直し、当初掲げていたさまざまな制限の予定を後ろ倒したばかりだ。

具体的な説明がない状態で政策の変更を共有されるだけでは、目標達成のために具体的に何をする必要があるのか分からないという市民も多い。そして、都市部と地方では人口や主要産業、生活環境には大きな違いがある。市民の理解とエンゲージメントを深めるためには、その場所や人々の暮らしに合わせた対策が必要だろう。

そんな中、「自治体ごとのネットゼロの進捗状況を可視化しよう」と立ち上がったのが、イギリスのメディアコンサルタント会社であるinfogr8(インフォグレート)だ。

彼らのウェブサイトdedlynetrackerでは、イギリス政府安全保障省のデータと最新のネットゼロ実績傾向をもとに、イギリス国内374の地方自治体ごとのネットゼロ達成予定年を算出してくれる。

達成予定レベルに合わせて、赤・黄・緑の3色で表示させることで、より視覚的に現状を把握することができ、工業や農業、運輸などといった政府が報告している排出量の6つの分野ごとの進捗も明示されているので、誰が見てもわかりやすい。

Image via dedlynetracker

現在、イギリス全体10%の地方自治体では予定通りの達成が見込まれているが、15%の自治体は今世紀中にネットゼロに達しないと予測されている。なぜこれほどまでに自治体によって大きな差があるのか。

イギリスの首都ロンドンと地方都市を例に見てみよう。

ロンドンは、シティ・オブ・ロンドンと、それを囲むように配された32の地方自治区で構成されている。dedlynetrackerでは自治区ごとの情報を見ることができる。

ロンドン中心部、シティ・オブ・ロンドンは金融業をはじめとする産業の中心、運輸の核となる都市でもあるため、温室効果ガスの排出もさぞや多いことだろうと予想される。しかしながら、ネットゼロ達成予定は2034年。イギリス全体の目標の2050年より16年も早く達成する予定だ。

運輸部門の目標達成予定が早いというデータから、ロンドン中心部において、排気ガスを多く排出する車に課税したり、充電スタンドを充実させたりしたことにより、電気自動車や電動バスが増え、それがネットゼロ達成予定を早めた要因の一つと推測できる。

Image via dedlynetracker

一方、ロンドン中心から少し離れたアウターロンドンには、2050年の目標達成予定が難しいと判断される自治区が点在している。中心地に比べて居住人口が多いことや、公的機関やごみの部門で達成進捗の遅れをとっているというデータから、市民の生活に沿った対策が喫緊の課題だろう。

では、地方都市はどうだろうか。

イギリス西部のブリストルは、人口約47万人の比較的コンパクトな地方都市である。ロンドンから電車で1時間半とアクセスしやすい環境もあり、学生や若い世代を中心に人気が高い。ブリストルでは、独自の施策として「One City Climate Strategy(ワン・シティ気候戦略)」を 2020年2月に発表しており、2030年までのカーボンニュートラルの実現と、気候変動に強い都市となるための計画を立案している。

しかしながら、dedlynetrackerによると目標達成予定は2064年。イギリス全体の目標の14年後に達成できる見込みだ。これから自治体独自の施策がどのような効果を発揮していくのか、その結果が求められていくだろう。

Image via dedlynetracker

誰でも簡単にアクセス可能で、最新のネットゼロの進捗状況を確認できるということは、個人の環境問題への意識がより高まるという点でも重要な意味を持つ。

政府や企業だけに頼らず、普段の生活行動を見直したり、行政や企業に問い合わせるなど日常の小さな取り組みにつながるきっかけになることを期待したい。

【参照サイト】infogr8
【参照サイト】dedlyne
【参照サイト】dedlynetracker
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Edited by Megumi

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