2023年11月11日、東京都内にて「record 1.5」による、COP27ドキュメンタリー『気候危機が叫ぶ』の上映会が行われた。「気候危機を記憶する発信型ムーブメント」であるrecord 1.5は、環境アクティビストであり、特権性と抑圧の双方に向き合う若者2人、中村涼夏さんと山本大貴さんによって立ち上げられた団体である。
このドキュメンタリーでは、2022年11月6日から2週間にわたってエジプトで開催されたCOP27(国連気候変動枠組条約締約国会議)の様子が、中村さんと山本さんの視点から、溢れる臨場感と共に映し出される。COP27のテーマは「損失と損害」。気候変動によって損害を被るグローバルサウスの国々に対する先進諸国側からの賠償が主な争点となり、基金の設置が議論された。
中村さんと山本さんは映像を通し、今まで主流メディアにあまり取り上げられてこなかった、会場内外における各国から集まった市民セクターの人々の声に焦点を当てた。
“日常”から気候危機と向き合う若者の視点
「様々な市民によるムーブメントにおいて、SDGs(持続可能な開発目標)という言葉は聞かなかった」
COP27について、中村さんからあがったのは、意外な言葉だった。中村さんによると、日本ではトレンドのように使われているSDGsという言葉に代わり、映像で頻繁にアクティビストたちによって提起されていた言葉の一つが、「植民地主義を許すな」である。
気候危機の影響を最も受けやすいグローバルサウスに住むアクティビストたちは、「今自分の目の前で起きている気候危機は、グローバルサウスだけの問題だけではない。これは貴方(グローバルノース)の問題でもあるのだ」と主張し、グローバルサウスの人々との連帯を呼びかける。彼女たちにとって、気候危機は、いつか訪れる災害ではない。それは、今、現在進行形で起きている彼女たちの日常そのものなのだ。
COP27の「People’s Plenary(市民の本会議)」において、環境NGOの代表は、奴隷制、帝国主義、新植民地主義などの構造は、新自由主義という名のもと隠蔽され、温存されていると主張したという。これらは決して過去に終わったことではないのだという衝撃が、改めて筆者の胸を打った。SDGsという目標によって喚起されるように、2030年までに問題を解決すれば良い、という楽観的な姿勢ではすまされない状況に現時点で身を置かざるを得ない若者が、そこには確かにいる。グローバルサウスの若者と、日本や他の先進国などのグローバルノースに住む若者の、圧倒的な「現実」の差を突きつけられる。
山本さんは、「日本のトレンドの言葉との〈ずれ〉」を「温度差」と表現した。この圧倒的な温度差を埋めていくには、最も周縁化され、弱い立場に置かれた、彼女たち・彼らの言葉を聞き続けるしかない。
はぐらかされる、対話
ドキュメンタリーの中で、最も印象的だったシーンの一つは、三菱UFJファイナンシャル・グループ(MUFG)の、東アフリカ原油パイプライン(EACOP)への関与に対してアクティビストが質問するシーンであった。
EACOPは、気候危機と人権侵害を加速させる懸念があり、アクティビストたちは、MUFGにこの事業と関与しているのかを問うた。そこで、COP27に登壇したMUFG担当者に対して、ウガンダのアクティビストの若者が関与を止めるよう迫るという出来事があった。
ウガンダの若者は、EACOPの取り組みがどれほど自分たちのコミュニティを破壊するのか、なぜ太陽光というアフリカにある潤沢なエネルギー源を使おうとしないのか、担当者に問いかけた。しかし、担当者は「自分はこの件について関与していない」と質問をはぐらかし続ける。彼女はまっすぐな眼差しで、涙を浮かべながら融資撤退の説得を試みる。自分たちの危機的な状況を必死に訴えても、目の前の相手と対話ができない、という絶望が画面越しに伝わってきた。この、断絶された距離に圧倒されながら、それでも彼女は対話を諦めない。
この映像を見て、筆者自身も涙が込み上げてきた。誰しもが加害側になり得る危険性を突きつけられた瞬間であった。
構造的暴力に立ち向かうための、連帯。加害者性・被害者性を超えて
各国から集まった市民団体の若者は、皆異なるバックグラウンドを持ち、気候危機という現象に対して、異なる当事者性を持っている。グローバルサウスに住み、今まさに気候危機の被害を現実問題として受けている若者、エジプト当局の規制により、声をあげることすらできない若者──自身も「将来、気候危機による被害を一番に受けるであろう若者」である中村さんと山本さんは、社会的な属性においては「マイノリティ」であるものの、先進国である日本に住む者としての自身の加害性にも直面することになる。
加害者である自分。被害者である自分──様々なアイデンティティが交差する中で、中村さんと山本さん自身の葛藤も映し出された。日本にルーツを持っていることからつきまとう加害性に対して、アクティビストの中村さん自身が傷ついている様子もカメラには収められている。しかし、本来は、彼女たちが自分自身の苦しみとして引き受けるべき問題ではないだろう。若いアクティビストに罪悪感を抱かせる、日本社会の構造的な問題の責任は重いといわざるを得ないだろう。
しかし、それでも印象的だったことは、気候危機がどれほど深刻な状態にあったとしても、各国の若者たちが希望を持っていたことだ。彼ら彼女らはその希望を、各国の若者たちが起こすムーブメントに見出していた。若者たちは、協調している。若者にしかできない、連帯の仕方がある。若者にしかできない影響の与え方が確実にある。加害者性、被害者性の意識に葛藤しながらも、若者は、そして市民は、声をあげる力がある。構造的暴力に抗う最善の方法は、「連帯」することなのだ。
「連帯」の成果を示す、一つの例がある。
前述したMUFGのEACOPに対する融資の件には、実は、後日談がある。
2023年6月、MUFGはEACOPの融資に関与しないということを宣言した。その理由として、MUFGは、「EACOP案件に対する関心が異例の高さとなっている」ことを挙げている。環境NGOは、この動きを、市民社会の気候ムーブメントの成果として評価している。これは、若者や、市民の連帯の力を示す好例であり、人々の声は、企業の行動を変えることができるのだということを力強く示してくれる。
連帯の輪を広げる
上映会の後の、質疑応答の時間では、高校生の参加者からの質問が投げかけられた。「自分も何か行動を起こしたいけれど、どうすれば良いか」。
それに対して、山本さんからは、身近な人と問題意識を「共有」することから始めるということ、中村さんからは、「何かのコミュニティに入ってみる」という案が出た。
アクティビズムに参加するということは、一見敷居が高いというように見えるかもしれない。しかし、例えば中村さんは、何かを犠牲にしなければ成り立たないようなアクティビズムを批判している。日常の延長線上で、問題だと思ったことを誰かと共有していく、仲間を見つける、このようなステップから社会問題に対して働きかけていくことは可能だ。
COP27だけで終わらせるのではなく、上映会だけで終わるのではなく、そこで得た気づきや発見を持ち帰り、それぞれの場所で誰かと共有し、話題にし続ける。これらの行為を地道に積み重ねることが、本質的な意味での連帯の輪を広げていくことに繋がると信じている。
※上記はYouTube版、イベントの上映内容はディレクターズカット版となります。
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【参照サイト】COP27ドキュメンタリー 気候危機が叫ぶ record 1.5特設サイト
【参照サイト】record 1.5
【参照サイト】【プレリリース】三菱UFJフィナンシャル・グループ、「東アフリカ原油パイプライン(EACOP)への支援なし」と初めて表明:市民の気候ムーブメントの成果」/国際環境NGO 350.org Japan
【参考文献】[COP27ドキュメンタリー]気候危機が叫ぶ 特別マガジン/record 1.5/2023年3月21日
Edited by Erika Tomiyama