社会や公益のための事業を行っている企業に発行される国際的な民間認証制度であるB Corporation(Bコーポレーション、以下B Corp)の認証団体であるB Labが、B Corpの収益力に関する興味深い調査レポート「Financial Performance and Resilience of B Corps(Bコーポレーションの財務パフォーマンスとレジリエンス)」を発行した。
同レポートによれば、コロナ禍における企業の売上高の増減と事業継続率を調査したところ、いずれの指標においてもB Corp認証を取得した企業グループがそうではない企業グループよりも良好な結果を示したそうだ。調査対象はアジア、オセアニア、欧州、北米の企業で、両グループの規模や設立後の年数などB Corp認証の有無以外の要素は可能な限り揃えられている。
まず、前年比で売上高が増加した企業の割合について調べた結果、B Corpグループが2020年は79%、2021年が85%であったのに対して、一般企業グループはそれぞれ54%、61%にとどまった。一方、2019年に存在していた企業の2023年9月時点の事業継続率に関する調査では、B Corpグループは95.6%、一般企業グループは87.8%であった。
こうした結果に、B Corp認証の有無がどう影響しているのだろうか?
あたりまえであるが、B Corp認証を取得すれば売上高が自然と増え、倒産リスクが下がるわけではない。筆者は、この問いに答えるカギは、B Labの調査レポートのなかで紹介されている“internal alignment”というキーワードだと考えている。この言葉を日本語にどう訳すか難しいところであるが、要するにその企業で働く人々の間で目的や優先順位が共有されている状態だ。
認定Bコープ取得により社内連携がおこり、ミッションの喪失を回避、さらには資金調達がしやすくなる。(p.13 Results, Part 3: Literature Synthesis)
B Corp認証を取得したある旅行会社の事例では、新型コロナウイルスの流行による経済的な困難の中、給与削減を行う必要が生じた。この決定は、従業員によって100%支持され、会社は利益が回復すると従業員に給与を完全に返済。この成功は、強固なコミュニティありきのものだろう。
このレポートはB Corp認証を持つ企業では、企業のミッションと従業員の目標が一致するため、企業が方向性を見失うリスクが減少することを示している。B Corp認証を取得するためには、ビジネスのアカウンタビリティや透明性、社会的パフォーマンス、環境へのインパクトなどの条件をクリアすることが必要だ。企業の存在目的であるパーパス、すなわちどのような商品・サービスによりどういったインパクトを社会に及ぼすかを明確にしているB Corpはいわば究極のパーパス経営の形といえよう。
世界中では、いま仕事への燃え尽き症候群が問題になっている。米国ギャラップ社の調査によると、米国企業で働く人々の約50%をいわゆる「静かな退職者(quiet quitter)」が占めるそうだ。「静かな退職者」とは、求められる最低限の仕事をすれば良しとし、仕事を通して企業や社会に貢献しようという意欲はほとんどない人々のことをいう。今、彼らのエンゲージメントをいかに高めるかが重要な経営課題となっている。
話をB Corpに戻すと、“internal alignment”が確保されているということは、すなわち働く社員のエンゲージメントが高い状態である。そして、はっきりとした統計はないが、B Corp取得企業は、おそらく一般企業よりもそれが高い水準にあるのであろう。企業の戦略を考えるのも実行するのも、そこで働く人々である。特にコロナ禍のような過酷な環境の下では、こうしたエンゲージメントの差が平時以上に企業業績に影響を及ぼしたと考えられる。
日本でもB Corp取得企業は36社(2024年1月時点)と、日に日にその数は増えている。この記事が公開された2024年1月、街には人が溢れコロナ前の日常が戻ったように見えるが、改めて自社のパーパスについていまいちど考えてみてはどうだろうか。
【参照サイト】B Lab “Financial Performance and Resilience of B Corps”
【参照サイト】Gallup “Is quiet quitting real?”
Edited by Erika Tomiyama