稲作が隠れたCO2排出源。米作りで気候変動の解決に挑む「Nice Rice」

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世界各地で食べられている、お米。中国を筆頭に、インドやバングラデシュ、インドネシアなどでも多く消費され、世界で最も広く消費される穀物の一つだ(※1)

日本においても、給食やお弁当、コンビニのおにぎりまで、日々の暮らしになくてはならない食糧だ。2021年度には日本で一年にひとり当たり83.7キロのお米を消費した(※2)

そんなお米が、気候変動と密接なかかわりを持つことをご存知だろうか。一般的な稲作では、主に雑草が生えるのを防ぐため田んぼに水を張る。しかし、これにより土中から酸素がなくなってしまい、メタンガスを発生させるバクテリアが育つのに適した環境が整ってしまうという。結果として、食品の中で、牛などの反芻動物に続いて二番目に温室効果ガス排出量の多いグループとなっているのだ(※3)

この事実に着目して立ち上げられたのが、イギリス発のスタートアップ「Nice Rice(ナイス・ライス)」だ。同社はインド農家と提携し、持続可能な米プラットフォーム「SRP(Sustainable Rice Platform)」が指定する41の基準に沿ったバスマティ米を栽培・販売している。

Image via Nice Rice

特筆すべきは、節水灌漑稲作技術(AWD:Alternate Wetting and Drying)という灌漑手法だ。田んぼにパイプを差し込むことで土中の水分量を確認し、稲の根っこの先まで水分量が減ってきたタイミングで再び水を張るという仕組みだ。これにより、農家の手間は増えてしまうものの、水の使用量を大幅に削減し、メタンガスの発生も抑えることができるという。

2022年の収穫では、従来の方法と比べて排出された二酸化炭素相当量が49%減少した。従来の方法では、米1キロあたり2.5キロ相当のCO2を排出する一方、NICE RICEは1.27キロ相当まで削減することができたそうだ。

さらに、お米の輸送にかかる温室効果ガスの排出を削減するため、ゼロカーボンでの船便を運行しているGoodShippingと協働。国を越えた輸送ではあるものの、環境負荷を限りなく最小限に近づけようとする工夫がうかがえる。

農家への賃金には、最も高いレベルのサステナビリティを達成できた人により高い給料を渡す仕組みを導入。すると、2022年には全体で5%賃金が増えたという。同時に地域コミュニティへの投資もおこない、地域資源を搾取しない事業のあり方を模索している。

Nice Riceの取り組みで印象的だったのは、完璧でないことに対して正直な姿勢だ。同社は「It’s rice, done better. But we’re not perfect. (これはより良くなっているお米です。でも、私たちは完璧じゃない)」とウェブサイトに記載し、いくつかの質問に答えている。たとえば、「なぜ完全なカーボンニュートラルではないのですか」という質問に対して、同社はこのように回答している。

私たちが焦点を当てているのは、私たちが責任を負っている二酸化炭素排出量を「減らすこと」でありオフセットではありません。つまり、サステナブルに栽培された米を推奨し、バイオ燃料や船便など、より環境負荷の低い選択肢を可能な限り選ぶことを意味します。

お米のように身近なものが、気候変動に大きな影響をもたらしていることがある。その一方で解決策もまた、最先端のテクノロジーを必要とせず実践しやすいものがすでに存在していることも多い。大切なことは私たちが身の回りに目を向け、課題と解決策を適切に、丁寧に、つなげようとする姿勢ではないだろうか。


※1 Rice consumption worldwide in 2022/2023, by country (in 1,000 metric tons)*|Statista
※2 農林水産省ホームページ「食料需給表:令和3年度国民1人/1年当たり供給純食料」
※3 Ivanovich, C.C., Sun, T., Gordon, D.R. et al. Future warming from global food consumption. Nat. Clim. Chang. 13, 297–302 (2023).

【参照サイト】Nice Rice
【参照サイト】Sustainable Rice Platform
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