2050年までに完全サーキュラーシティを目指すアムステルダム、2026年までの新たな中期計画を発表

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※本記事は、ハーチ株式会社が運営する「Circular Economy Hub」からの転載記事となります。

アムステルダム市は2023年5月、「Implementation Agenda for a Circular Amsterdam 2023-2026(サーキュラーアムステルダム2023-2026実現に向けた実施アジェンダ)」を公開した。アムステルダム市が市内すべての住民、起業家、社会的活動団体と協力して、今後4年間に実施する70以上の活動が公表されている。さらに、このアジェンダ遂行のために予算1,400万ユーロ以上が充てられる。うち350万ユーロは、民間企業の循環型オペレーションを開始するためのシステム変革を牽引するために充てる計画だ。

本記事では、市が2020年に公表したサーキュラーエコノミー移行の5年計画「Amsterdam Circular 2020-2025 Strategy(アムステルダム市サーキュラー 2020-2025 戦略)」、2023年3月に公表された活動報告「Lessons and Recommendations 2020 – 2021(教訓と提言2020-2021年)」に続く、今後4年の中期計画書となるこのアジェンダについて解説する。

前提と目的:目指すのはプラネタリーバウンダリー内で、気候変動に左右されない公平な経済を生み出すこと

アムステルダム市はサーキュラーエコノミーの実現を目指しているが、それ自体が目的ではなく、目指すのは、人々が地球で安全に活動できる範囲プラネタリーバウンダリー内で、気候変動に左右されない公平な経済を生み出す働き方であり生き方だ。アムステルダム市がサーキュラーエコノミーを達成することでねらう成果は次の通りだ。

  • 温室効果ガスの排出量削減
  • 生物多様性に対する人間の(悪)影響削減
  • 生活環境の質の向上
  • 原材料の安定供給

また、アムステルダム市はサーキュラーエコノミー実現を目指す上で、前例のない気候危機を食い止めるためには迅速な行動が求められ、「やったことがないから」「やり方がわからないから」といった理由は行動を起こさない言い訳にならないとしている。オランダ中央政府やEUからの新しい法整備や規制導入を待たずして今できることを行い、同時により強力な対策を政府に求める。

Implementation Agenda for a Circular Amsterdam 2023-2026

Implementation Agenda for a Circular Amsterdam 2023-2026

指標は?

アムステルダムは市として、カーボンバジェットや環境コスト指標(ECI)といった指標を用いた目標設定や行動計画を策定している。

土壌汚染、水質汚染、気候変動、生物多様性の損失などといった影響やそれを防ぐためのコストを算出し、それに基づき、社会や未来の世代にこのコストを転嫁することがないよう進める。

例えば、資源についての環境コストをユーロに換算・可視化した上で適切な優先順位をつけ選択。防ぐためよりも、損害が出てから修復する方が当然コストがかかることを認識した上で判断をしている点にも同文書中で言及されている。特にECIは、アムステルダム市のみならず、公共事業・水管理総局を始めとするオランダの複数公的機関が入札における品質基準として使用している。

移行中想定される混乱下における政府の役割

リニアエコノミーからサーキュラーエコノミーへの移行は、すんなりと進むわけではない。移行中における段階を示す漂流Xカーブ図が示す通り、移行するためには必ずカオス段階を乗り越えなければならない。

市の役割は、実験と研究を通じて斬新な解決策を示し、予測不可能なプロセスにおいて方向性を示し、スピードを保ち、新しい常識となるまでに拡大することだ。2030年・2040年・2050年の目標を達成できるよう、移行の最初から最後まですべての段階を積極的に牽引する。

サーキュラーエコノミーのフレームワーク

アムステルダム市は、サーキュラーエコノミー実現に向け、包摂性・繁栄、ドーナツエコノミー、コミュニティ・ウェルビーイング、SDGsといったサーキュラーエコノミーに関する数々のフレームワークを採用。

市の役員会は、2023年末までにこうした複数の概念の相違点や類似点をまとめ、「Inclusive Prosperity(インクルーシブ・プロスパリティ)」の概念をより詳細に構築する予定だ。

規制と洞察

市は、異なる政府組織、大学、研究機関らとともに、システミックチェンジ実現のための前提条件を確立する役割を担う。明確な国家基準や定義に貢献するとともに、市内ではマテリアル・パスポートを適用。マテリアル・フローを監視し、投資決定や調達における真の価格(トゥループライシング)の適用、特定のライセンス基準など、循環型イニシアティブの妨げとなっていた規制の調整に取り組んでいる。現時点ではこうした施策は不完全であり、2026年までにサーキュラーエコノミー実現に必要となる規制や政策を見極めるための洞察期間に充てる。

2026年に行われる市議選で、4年間の新しい行政任期が始まる。この時までに、この実施課題から得られた成果と教訓、国家循環経済プログラム(NPCE)の進捗状況、準備中の欧州の新政策に基づいて、2030年と2050年の目標を達成する方法について、市議会に提言を提出することが可能になるだろう。

Together with City(市とともに)

アムステルダム市はサーキュラーエコノミー移行のための住民や起業家主導の取り組みを支援するために、ステークホルダーをまとめ、機会を生み出し、障壁を取り除く役割を担う。また、市自らがロールモデルとなるため、調達、市の施設や公共スペースの維持管理、入札においてサーキュラーエコノミーの原則を指針とする。

市内およびアムステルダム港の企業がサーキュラーエコノミーの原則に従って事業を展開できるよう、市は以下の取り組みを行う。

  • 一般個人向け支援:子ども〜大人への教育やCEジョブマッチング「Job with a Future」といったプログラムの実施。
  • マテリアルフローの可視化と洞察の共有:起業家らに機会を示す。
  • 企業向けサーキュラーエコノミーアドバイザリー:2024年から、アムステルダム市は外部の人材を雇用し、年間約100の企業に対し、より循環型のビジネス慣行を採用するための個別アドバイスを提供する。これは、これまで製造業の企業を対象としていた助言プログラムを継続・拡大したもの。法律・社内組織・ビジネスモデルなど様々なトピックについて相談することが可能に。
  • バリューチェーン上や産業横断型コラボレーション促進:グリーンホテルクラブやテキスタイルバリューチェーン、家電などを取り巻く様々なプログラムを実施。
  • エコ・イノベーション加速のための支援:ネットワーキング機会の創造、物理的空間の提供、ビジネスケース確立のためのリソースやナレッジ提供。
  • 循環型社会への障壁を取り除くために規制や政策の適用・調整。
  • 住民会議の開催:住民や事業主が、専門家や関係者とともに市の廃棄物問題について話し合い、住民会議自体が市執行部から市議会に提出される提案を策定。2024年のテーマは廃棄物。
  • 2025年に750周年を迎えるアムステルダム市が企画する関連イベントすべてをサーキュラー型イベントのショーケースとなるよう実施する。

バリューチェーンごとのアクションプラン

市が影響を与えることができる最も重要なバリューチェーンは以下の通り。

  • 生態系に与える影響の約半分を占める食品と有機廃棄物の流れ
  • 食物連鎖の次に大きな影響を与える消費財
  • 市が大きな影響力を行使できる建築環境

これらのバリューチェーンは、市にとって経済的に重要であり、環境と気候に大きな影響を与えている。市が毎年公表する「サーキュラー・エコノミー・モニター」の最新版でも、同3分野のバリューチェーンが環境に与える影響が最も大きいことが示されている。さらに、これらのバリューチェーンは、市が影響力を行使する機会がある分野でもある。

食品および有機廃棄物の流れ

  • 市は、2023年内に「Food Strategy 2023-2026(食料戦略実施計画2023-2026)」更新版を発表する。また、このプログラムの一部として、食料廃棄削減とフードバンクなどのソーシャルイニシアチブによる食料活用拡大のため、2024年に「Food Waste Action Plan 2024-2026(食品廃棄行動計画2024-2026)」の策定を予定。
  • 2026年までには市内の有機廃棄物(野菜・果実・生ゴミ・庭ごみなど)の回収率を30%まで向上する(2022年時点では5%に留まった)。予算が得られ次第75%までの向上を見込む。
  • 有機廃棄物による堆肥やグリーンガス生産の実施。
  • 家庭のトイレなどからくる汚水から養分を取り出し再活用するための実証実験を市内北区Buiksloterhamにある集合住宅などで実施。今後汚水を3割減らし、バイオガス生成などに用いることを目指す。同じく北区Buiksloterhamで高層ビルにおける生ゴミ粉砕機の最適な活用可能性を模索。2026年までにどのプログラムを継続するか決定する。

消費財

  • シェアリングエコノミー・修理・中古販売・レンタルを行うサーキュラー型事業者にスペースと機会を確保。
  • 企業に対し、製品寿命延長のための方法に関する情報開示を推奨。
  • 公共の場における「有害な」製品に関する広告の制限を検討(現在隣町ハーレム市で同様のプロジェクトが進められている)。
  • 消費財を取り巻くバリューチェーンについての情報の透明性の確保。例えば、原材料がどこからくるのか、捨てられた洋服類はどこにいき、どのような環境へのインパクトを引き起こしているのかといった情報の開示を進める。
  • 特に環境負荷や廃棄の深刻なファッション産業についての取り組み強化:
      • ・ファッションアイテムを販売する店舗らと協力し、「サーキュラー・ショッピング・ルート」最新版発行を通じて消費者の意識を喚起
      ・アムステルダム首都圏における「サーキュラー・テキスタイル・グリーンディール」の一環として、デザインから製造・販売・利用・リユースに至るまでのバリューチェーンを通した循環型パートナーシップを促進・支援
  • 現在実施している、ファッションアイテムを市内の事業者に持ち込んでリペアに際する金額の4割を市が負担するシティ・パス(Stadspas)の成功を受け、これを家電にも拡大。合わせて、リユース可能なオムツの購入やレンタルについてもシティ・パス適用可能性を探る。
  • イベントにおける使い捨てプラスチック食器禁止施策の実施以降、紙や竹などの代替素材の使い捨て食器が多用されるようになった。使い捨てではなく再利用を前提とした仕組み構築のため、市はイベントやホスピタリティ産業のパイオニアと連携を強化し、実証実験の実施や法規制の導入や調整を検討。
  • 市は、包装業界とマットレス製造業者それぞれと連携し、リバースロジスティクスや返品製品受入れに関する新たな協定を締結。これらのプロセスをどのように加速できるか研究を行う。この結果は他産業にも展開を想定している。
  • 「Ja/ja(イエス・イエス)ステッカー」の継続:宛名の記載がなく届けられる無料地元紙や広告に関して、市は2018年に「受け取りたい」と意思表示するこの「Ja/jaステッカー」を張り出す住民のみに送ることを法的に許可する、とする法の変更を行った。それまで「受け取りたくない」人のみが「No」と書かれたステッカー」を張り出さなければならなかった。2023年の調査によると、この取り組みにより、市は紙ごみとして回収される廃棄量の10%を削減、回収・運搬・リサイクルに費やしていた13万5,000ユーロ〜28万5,000ユーロのコスト削減に成功している。
  • 市内に定めた「事業向上地区」における、廃棄になるものを使わないようにするための実証実験の実施。例えば2023年には飲食店などから食事をテイクアウトする際に不要な包装を断ることを推奨する実験を行った。
  • 家電のリペアやリユースを推進するためのガイドブック作成。同様の取り組みを電子機器についても進める。
  • アムステルダム市自体も、消費財の使用量を減らし、買い替えではなく修理を選ぶ頻度を増やすなどし、循環型購買を行う。これにあたり、トゥルーコストカウンティングを行う。
  • ソーラーパネルや風力タービンの羽生産・利用の循環化を、オランダ国家循環経済プログラム(NPCE)とともに進める。

建築環境

アムステルダム市において、市内のマテリアル使用量(重要)の実に6割が建設産業によって占められている。市内の土地の80%以上は市に所有権があるため、その影響力を大きく発揮できる分野だといえる。

  • バイオベースの断熱材の導入推奨・支援。
  • アムステルダム首都圏木材建築グリーンディールに基づき、市の開発の際にバイオベースの建材を高く評価するため、循環性性能の評価を入札基準に導入。
  • 市のすべての都市計画や地域開発プロジェクトはサーキュラーエコノミーの原則に則って実施。
  • 現在市が進める、学校校舎を含む30施設の建設にあたり、事業者らとサーキュラーエコノミーのフレームワークを用いた契約を締結。
  • 建設事業者や農家と連携し、バイオベースの建築資材の生産体制を構築。
  • アムステルダムでは、公共スペースのデザインに、代替手段がない場合を除き、二次資源を再利用する。例えば、人工芝のグラウンドは、循環型の二次資源を用いなければならない。

横断プロジェクトの促進

アムステルダム市におけるサーキュラーエコノミーへの移行を進めるにあたり自治体は新しい組織形態と協力体制の構築を求められている。市が調達・入札・設計・財務・管理を行うプロセスもまたサーキュラーエコノミーの原則に従ったものへと変革を迫られている。循環型の製品やプロセスには新たな基準が必要であり、調達基準を再定義し、デジタル基準を設定し、循環性の指標を監視し、法的障壁を取り除かなければならない。これらすべてを達成するために市は、企業、欧州、国、地方自治体、経済政策分析局(CPB)、環境アセスメント庁(PBL)、オランダ統計局(CBS)、オランダ応用科学研究機構(TNO)、大学などの研究機関と緊密に連携を取り、産業やバリューチェーン、組織を横断するプロジェクトを進める必要がある。

モニタリングシステムの開発

オランダ中央統計局(CBS)やオランダ環境評価丁(PBL)といった国の機関と連携し、国内や国際的に統一された枠組みの中で、マテリアルやさまざまなバリューチェーン、製品グループについて、地域レベルで詳細な概要を把握できるようモニタリングを強化。このような情報を得ることで、サーキュラーエコノミー実現への取り組み効率化を図る。

循環型施策・規範とデジタル標準の開発

基準は市場に明確性をもたらす。市は、大学、研究機関、地方自治体、その他の関係者と協力し、サーキュラー・エコノミー・モニター、建築物のマテリアル・パスポート、公共入札の各種基準など、これらの基準の策定に貢献する。これらの基準が現在影響力を握る企業のみによって設定されないことも重要な点である。建築業界や中央政府と協力して、循環型建築の明確な定義を確立し、建築部門が最終的に満たすべき基準を明確にする。

デジタル・プロダクトパスポート

欧州委員会は、2026年以降、デジタル・プロダクトパスポートの義務化を計画している。このパスポートには、原材料から使用済みまで、製品のライフサイクル全体に関するすべての情報が含まれ、消費者や企業は、製品がどこから来て、どのような材料を含んでいるかといった情報を確認できるようになる。オランダでは現在、「Platform CB’23」が公共空間にある建物や資産のマテリアルを記録するための規格整備に取り組んでいる。建物や電化製品にどのような資源が使われているかが明らかになれば、後の段階での延命や、使用後の資源の再生が容易になる。

知識の共有

アムステルダム市は、地域レベル・国レベル・国際レベルで、様々な機関・組織とともにナレッジ・プラットフォームを構築し貢献している。情報交換をしたり、新しい法律のためのロビー活動に関する知識を得たりすることも含まれる。

資金調達のための支援

サーキュラーエコノミーへの移行を実現するためには、必要な資金を調達することが必要不可欠だ。様々なイニシアチブが中央政府やEUから資金調達をできるよう、市はそのための情報の提供や後押しをする。

法的枠組みの整備

「CircuLaw」プラットフォームは、サーキュラーエコノミーへの移行を促進するためにはどの現行法を適用できるかを政策立案者たちに教えてくれるツールだ。この利用により、大きく既存法を変更しなくとも必要な政策を敷くことが可能になるため、より迅速に移行を進めることができる。今後、下記の通りの法的枠組みを整備することで移行を加速させたい狙いだ。

  • イベントに対する要件の厳格化。
  • 製造業者や小売業者による家電製品のリバース・ロジスティクス、修理、加工の義務の強化。
  • 環境コストの高い製品の公共スペースでの広告規制の強化。(ハーレムで現在準備中の対策に匹敵)
  • スペースを複数の目的のために共同利用することを奨励、もしくは強制。(例えば、夜間のオフィススペースを他のイニシアチブのために利用できるようにするなど)

新しい法律のアイデアについては、他国政府と協力して見識や経験を交換し、EUや各国政府からの提案に積極的に意見を提供する。

公共空間の問題への取り組み

サーキュラーエコノミー移行のためには、サプライチェーンやその他のビジネスモデルの再編成を必要とする。これにより、公共空間の利用方法や交通機関の動きにも変更が必要となる。市は、国内外のパートナーとともに、公共空間の利用における必要な変化をマッピングし、それに応じて空間計画を適用させることを可能にする。

継続的な学習

市として、常に学習し、新たな洞察や経験を記録し、共有する組織づくりに取り組む。実際にアムステルダムで活発に活動する数々のサーキュラーエコノミーに関するコミュニティ内でも、知識、専門性、ビジネス用語、文化、働き方、関心の違いを埋めるためのつながりが生まれている。

サーキュラーエコノミーに関わる予算計画

このアジェンダに記載された活動を実施するため、2022年6月1日から発効した「Amsterdam Coaliation agreement(アムステルダム連立協定2022-2026)」は、2026年までに資金1,750万ユーロを確保している。内訳は下記の通りこのアジェンダに透明性をもって明記されている。

編集後記

アムステルダム市は予測不可能であることを認識しながらも、住民・民間企業・国やEUなどの政府機関、研究機関などを巻き込み、次々と生まれる新しい概念や基準、技術を取り入れる。一方で長期的目標や計画をブレることなく進める同市の取り組みから学ぶことは多い。

多岐にわたる概念や情報を精査しつつも、わかりやすくポップにまとめ、ステークホルダーと対話の場を設けて巻き込む進め方は目を見張る。また、カーボンバジェットや環境コスト指標(ECI)を都市として取り入れ、実際の意思決定に用いている点も驚かされる。また、小さく実証実験を行い、わかったことを他方に広げる手法やスピード感は、サーキュラーエコノミーに関わらず私たちが学べることではないだろうか。アムステルダム市のこの先の飛躍に目が離せない。

【本文中の図表の出典はすべてこちら】Implementation Agenda for a Circular Amsterdam 2023-2026(サーキュラーアムステルダム2023-2026 実現に向けた実施アジェンダ)
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