家庭ごみの約30%の割合を「生ごみ」が占めているフランスで、2024年1月1日から、すべての国民にその分別を義務づける規制が発効した。生ごみは、他のごみと一緒に埋立や焼却処理することで、メタンや二酸化炭素といった温室効果ガスの発生につながる。欧州各国では、2050年までに温室効果ガスの排出を実質ゼロにするという目標の実現を目指し、さまざまな施策の導入が進む。ここでは、生ごみの分別規制が発効したフランスの現状をレポートする。
規制が発効された、フランス現地の様子は?
フランスの家庭ごみの分別は、リサイクル、ガラス、その他の3種類だ。リサイクルごみには、紙も、缶も、プラスチックもすべて一緒に入れてよく、食品容器は水が貴重なため洗わずに捨てることが推奨されている。生ごみに関しては、これまでは年間5トン以上の有機廃棄物を出す事業者のみ分別が義務付けられていたが、2024年からはそれがすべての国民に広がる。自治体は管轄地のすべての人に分別方法を提供しなければならない。
自治体が提供する方法としては、生ごみ専用ごみ箱の配布、公共の生ごみ収集設備の設置、堆肥化施設の設置、都市部の住民に向けたミミズ入りコンポストの配布などがある。自治体は、収集した有機廃棄物を堆肥化して植物や農作物に使用したり、メタン化して都市交通の燃料や、暖房、ガスなどのネットワークに使用することができる。
規制が発効された現地の様子はどうだろうか。筆者が住むパリ中心地のアパートでは、共用のスペースにリサイクル、ガラス、それ以外の3種類のごみ箱が設置されており、住民はいつでもごみを捨てることができる。しかし、規制開始から半月を過ぎてもなお、生ごみ用のごみ箱は導入されていない。近所を探してみても、生ごみ収集設備や公共のコンポストは見当たらない。仕方がないので、生ごみは別のビニール袋に入れ普通ごみと一緒に捨てている。
パリの別の地区に住む知人に聞いてみたところ、近所に公共のコンポストが設置され「家庭ごみが減って助かっている」という人もいれば、この規定が開始されたことすら知らない人もいた。政府や関係機関が新しい規制の情報発信に力を入れたが、「家庭での生ごみ堆肥化が義務付け」「違反者には罰金」などといった誤った情報が拡散され混乱していることを、非営利団体のゼロ・ウェイスト・フランスが指摘している。
ネットを見ると、パリで導入された公共の生ごみ収集設備について、さまざまな声が上がっている。「ごみ箱のデザインがシンプルでよい」「駅前に設置された収集所が便利」との好意的な意見もあるが、「駅の出口を出てすぐに生ごみ収集所があるのは美観を損ねる」「夏になると匂いやネズミの問題が心配」「近所で見かけたごみ箱は、すでに生ごみがあふれて蓋が閉まらず、周囲に生ごみが散らばっていて不衛生」など、否定的な意見も多かった。数年前からネズミが増殖し対応に悩まされているパリでは、食べものが公共の場所に散らばることは絶対に避けなければならない。需要に足るだけのごみ箱の早急な設置と、利用者に向けた正しい使い方の教育が必要だ。
ミミズ入りコンポストを使用している人たちからは、「ごみを捨てる回数が2日に1回から1週間に1回に減った」「匂いが出なくてよい」という好意的な声が上がっている。その反面「コバエが発生して困っている」「旅行に行くときはどうしたらいいか」「最適な設置場所がどこか分からない」など疑問も出てきており、専門業者がオンライン掲示板でアドバイスを公開している。
筆者のように、どこに生ごみを分別すればよいか分からない人には、市民の生ごみ堆肥化を推進する団体Réseau Compost Citoyenが公開している、全国の生ごみ分別施設を検索できる機能が参考になるだろう。公共のコンポストや、生ごみ収集所などを種類別に検索でき、利用時間や利用者の限定の有無などの情報も得ることができる。パリ市内を検索してみると、中心から外れた東側にある下町地域に多くの公共のコンポストが設置されているのが分かる。
自治体への罰則がないことが導入の遅れにつながっている
フランス政府は、2011年から有機廃棄物を分別するためのプロジェクトを支援しており、2023年にはグリーン基金を通して350件以上のプロジェクトに4,000万ユーロを拠出してきた。その結果、2024年1月1日時点で自治体が提供する有機廃棄物の分別方法にアクセスできる国民は約2,000万人、分別される有機廃棄物の量は60万トン以上と推定している。政府が掲げる目標は、2024年内にフランス人口の40%に当たる2,700万人をカバーすることだ。(※)
この目標に対しゼロ・ウェイスト・フランスは、「有機廃棄物の分別義務化は2015年に決定したことで、すでに準備期間に8年を費やしている。政府の規制は、分別基準を単に示すだけであり、未対応の自治体への罰則がないことが導入の遅れにつながっている」と、さらなる規制の強化と具体的な目標値の設定を求めている。また、関係省庁に対し、堆肥の使用者と生産者に安全を確保できる堆肥規格の最新化を求めているが、その反応は鈍いと指摘する。
国民一人ひとりの意識を高めることも重要
国民一人ひとりの意識を高めることも重要だ。市民堆肥ネットワークは、毎年フランス全土で地域堆肥化を促進するための2週間のキャンペーン「Tous au compost」を開催している。2024年3月23日から4月7日にフランス国内の数か所で開催されるイベントは、実践ワークショップ、展示会、会議、ミミズコンポストの配布などを通して、国民に堆肥化の理解を深めてもらう取り組みだ。このように、フランスでは市民ネットワークや非営利団体が積極的に活動し、ごみ問題の解決に向けた政策を後押ししていることがうかがえる。
最初は、「ミミズ入りコンポストなんて無理」と感じていた筆者も、情報を知るうちに「匂いもなく、手入れも簡単なら、やってみようかな」と思い始めた。まずは、知ってみる、そしてやってみるという一歩を踏み出し、そしてその動きが全国に広まれば、問題解決が進展するだろう。フランス人の食にかけるプライドと情熱が、食の廃棄物問題にも及ぶことを期待したい。
(※)TRI À LA SOURCE DES BIODÉCHETS : TOUS MOBILISÉS POUR VALORISER CES RESSOURCES ENCORE TROP GASPILLEES(ADEME)
【関連記事】小さな食の循環を。日本発の「LFCコンポスト」がパリのごみを削減へ
【関連記事】2030年までに日本の「生ごみ焼却」をゼロにするプラットフォーム
【参照サイト】TRI À LA SOURCE DES BIODÉCHETS : STOP AUX CONFUSIONS !(ゼロ・ウェイスト・フランス )
【参照サイト】Tri à la source des biodéchets : des associations réclament des objectifs contraignants pour les collectivités (Banque des Territoires)
【参照サイト】Biodéchets : réussir votre projet de tri à la source(ADEME)
【参照サイト】Composter à Paris(パリ市)