【パリ現地レポ】日々の「移動」を脱炭素化。展示会で見た、欧州の最新モビリティ事情

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2024年3月20日~21日、フランス・パリのポルト・ドゥ・ヴェルサイユ国際催事場で、持続可能な交通に関する国際カンファレンス「Autonomy Mobility World Expo(AMWE)」が開催された。「移動の脱炭素化」がテーマのAMWEは、今年で8回目を迎える。2日間にわたり、毎年250以上の出展者、300名の講演者、7,000名以上の参加者が集い、最先端の物流・人流ソリューションについて議論を交わす場となっている。

イベントを主催するAutonomy(オートノミー)社は、一人一台の車所有から、自転車や徒歩、公共交通機関の利用へシフトする「The shift from motorist to mobilist(運転手から移動者へのシフト)」に焦点をあてた活動を行う。

シェアモビリティや、自動運転など、技術の発展により新しい交通手段が登場してきたが、その導入には、規制だけでなく、インフラ整備や、安全性の確保のほか、利用者への教育が必要となる。AMWEでは、交通政策者、国際機関、大企業からスタートアップ企業まで、移動に関係する人々が一堂に会し、そのシフトを後押しする場だ。実際にイベントに参加した筆者が、会場の様子を交えながら、持続可能な交通に欠かせない技術を持つ企業や組織を紹介する。

多くの参加者でにぎわう、ポルト・ドゥ・ヴェルサイユ国際催事場

主催のAutonomyは、「パリ協定」が締結された翌年の2016年に第一回目の国際カンファレンスを開催して以来、ベルリン、ロンドンと開催地を拡大し、持続可能な移動を目指す世界規模のネットワークを築いている。

今回の会場となったポルト・ドゥ・ヴェルサイユ国際催事場は、パリ南西部に位置する。35ヘクタールの敷地内に8つの催事会場を持ち、フランスで最も入場者数が多い催事場と言われている。

Autonomy mobility world expo(AMWE)の催事会場のパビリオン6に向かうエスカレーター

会場内には、企業や団体の出展ブース、スタートアップビレッジ、メインステージ、3つのカンファレンスエリアの他、試運転レーン、ミーティングエリアなどが配置されており、モビリティイベントらしい活気に満ちていた。

会場案内図。中央の大きなブース(D9)はオランダパビリオン。オレンジの机のエリアがスタートアップビレッジ

会場を横断するように設けられたレッドカーペットの試運転ゾーンでは、電動自転車やキックボードの試運転をする人々でにぎわっていた。

緑のフロアのネットワーキングエリアと、赤いラインの試運転ゾーン

出展ブースで出会った5団体

広い会場の展示ブースの中で、筆者が特に注目したいと感じた製品や企業を紹介していく。

Gama(ガマ)

Gamaの広報責任者のAmanda Muller氏と、アジアオペレーションマネージャーの大竹 勉氏

現在、自動運転は、技術の進化と国によっては法整備が一定のレベルに達し、私有地や都市または都市近郊地域での社会実装が可能となる段階になっているという。物流業界の人手不足や、交通が不便な地域に住む人々の新しい移動手段、そして病院、キャンパス、空港などでの導入の加速が期待されている。

自動運転ソリューションを提供するGama(ガマ)のブースには、ピンクと青と白を基調としたコーポレートカラーと丸みを帯びた形状が目を引く自動運転EVバスが展示され、多くの人々の関心を集めていた。車両には運転席がなく、コンパクトな車体ながら、車内は広々としていた。バスには最大で15人乗れるという。車体前面の屋根に搭載されてたセンサーの他にも、複数センサーで常に周囲の状況を把握しながら、あらかじめプログラムされたルートを自動で走行するという。展示ブースには、Gamaが提供する運行管理システムの画面が映し出され、自動運転の安全を保つ最新技術が披露されていた。

Gamaは、フランスのGaussin(ガウサン)と日本のマクニカが、フランス自動運転EVバスメーカーNAVYA(ナビヤ)の事業を継承する形で、2023年に共同で設立した会社だ。NAVYAの車両は、すでに世界28か国で220台以上の販売実績があり、日本ではマクニカが総代理店として、茨城県境町や三重県四日市市、羽田イノベーションシティなどで、実証実験や導入を進めている。

  • 国名:フランス
  • 団体(企業)名:Gama(ガマ)
  • 創業:2023年

CARVER(カーバ)

CARVERの営業 Sytske de vries氏と、マーケティング担当の Esther van der wal 氏

会場の一角に大きな展示エリアを構えていた、オランダパビリオン。電動自転車や、電動キックボード、電動カーゴなど、合計19社によるさまざまなマイクロモビリティ製品が展示されていた中で、スタイリッシュなデザインが目を引いたのがCARVER(カーバ)の電動3輪スクーターだ。

スクーターの利点 (省スペース、運転免許証不要、ヘルメット不要) と、車の利点 (防水、安全性、荷物用のスペース) を組み合わせたCARVERの画期的な製品は、乗り物の分類としてEnclosed Narrow Vehicle(ENV)と呼ばれるという。CARVERの電動3輪スクーターは、幅はわずか98センチメートルで小回りが利き、駐車もしやすい。シートベルトやウィンドウワイパーも装備し、独自技術により安全性と乗り心地も追及しているという。

CARVERは、一台の車に一人しか乗車していないことがよくある現状に「一人の移動のために2トンの鉄骨を道路に走らせる必要はない」というメッセージを強く打ち出している。新しい種類の移動手段が増えることで、私たちの生活もより快適になり、限りある資源や環境問題への対処となるだろう。

DENSO(デンソー)

DENSO Europeのマーケティングを担当するAleksandra Pavlova氏と、事業開発のJulia Kaspar氏

欧州では、都市部の自動車走行距離の約10~15%を貨物輸送が占めているという(※1)。インターネットでの買い物が日常的になった現在、物流や配送の脱炭素化も重要な課題となっている。

細い路地が多い欧州の都市で、効果的なラストマイルの配送手段として急増しているのが、カーゴバイクと呼ばれる運搬用の自転車だ。しかし、食品や医薬品などデリケートなものを配送できる手段は限られている。そんな中、DENSO(デンソー)が開発したのが、温度設定が可能で、追跡機能が付いたカーゴバイクに搭載できる冷蔵装置だ。

フランス国内でも、特にパリは自転車レーンが増加し、車道を歩行者専用道路に変える動きが加速している。道路規制と渋滞を回避でき、輸送の信頼性が高い冷蔵装置付きカーゴバイクは、さまざまなものの配送において重宝されるだろう。

TECHNOMAP(テクノマップ)

TECHNOMAPのテクニカル セールス エンジニアのWilliam Leloup氏

自動車の電源供給や信号通信に欠かせない電線の束(ワイヤーハーネス)は、人は、人間の神経や血管に例えられるほど重要なパーツだ。多くの電気部品を使う電気自動車が普及する中、電力やデータを効率的かつ安全に伝達するワイヤーハーネスの重要性が増している。

フランスで、陸・空・海の移動手段におけるワイヤーハーネスの技術に定評があるのがTECHNOMAPだ。展示されていたクラシックカーは、TECHNOMAPの技術で電動に改良した車だという。これは、世界に多数存在するクラシックカー愛好家にとって朗報かと思いきや、一台一台に対応するのは採算が合わないため、残念ながら受注していないという。

大手自動車メーカーへのワイヤーハーネス提供が主力事業だというTECHNOMAPだが、個人的には、同社の技術で電動化したクラシックカーが道路に増える光景を見てみたいと願ってやまない。

Agence de l’Innovation pour les Transports:AIT(フランス政府、運輸イノベーション庁)

AITのコミュニティーマネージャーのFabien Cvillier氏

2021年、フランスの運輸省が運輸部門の課題に対処するために新しく設立したのが、Agence de l’Innovation pour les Transports:AIT(運輸イノベーション庁)だ。AITが重視する4つの課題は、エネルギー転換、デジタル革命、災害時の交通・物流、新しい交通システムによる地域の一体化だという。これらの課題を解決するプロジェクトやスタートアップ企業を支援することで、あらゆる人・物の移動を容易にすることを目指している。

主な活動としては、交通のエコシステム(事業者、地域、行政)におけるオープンイノベーションを促進し、スタートアップ企業と金融機関をつなげて資金調達のサポートをすることだ。毎年アクセラレーションプログラムを実施し、スタートアップ企業の成長をサポートする。2024年のプログラムには、持続可能な交通、マルチモダリティ、データ共有の分野で先端技術やサービスを提供するスタートアップ企業合計18社が選ばれた。

政府がイノベーションに積極的に介入しエコシステムの活性化を図る、フランスならではの取り組みから生まれる革新的なサービスに注目したい。

スタートアップビレッジで出会った2社

スタートアップビレッジには、約30社の企業が出展していた。スペースの関係か、製品のデモンストレーションは少なく、全体的にデジタルサービスを提供する企業が多かったように感じた。最新技術で移動を安全で快適なものにするサービスを提供するスタートアップ企業2社を紹介する。

SomewaRe(サムウェア)

SomewaReのCEO、Bertrand Gervais氏

近年世界の都市では、ウォーカブルシティなど徒歩圏内の生活の質を向上させる政策の動きが活発になっている。日本でも、国交省の「まちなかウォーカブル推進事業」にて居心地が良く歩きたくなる街づくりが進められている。

SomewaRe(サムウェア)は、フランス国内の公共空間のアクセシビリティデータを専門とするスタートアップ企業だ。提供するサービスの一つには、ベビーカーやスーツケースでの移動、歩行が困難な人や子供たちが、安心して移動できるルートをリアルタイムで表示するHandimap(ハンディマップ)がある。目的地までのルートにおける、坂道、階段、歩道の幅、表面などの情報に加え、一時的な工事や障害物の情報を拾い上げ、公共交通機関の情報を含めた最良の道筋を提示する。現在87の自治体で導入され、地域住民のほか旅行者の安全な移動をサポートしているという。

SomewaReは、前述の運輸イノベーション庁の2024年アクセラレーションプログラムにも選出された。あらゆる人の移動を可能にするSomewaReのサービスが、大きく飛躍することに期待したい。

fluctuo(フラクチュオ)

fluctuoでインターン中のイギリス人大学生Ben Corbett氏と、開発主任のRomain Lienard氏

シェアモビリティが世界の都市交通に占める割合は、現在の3%から2030年までに7%に拡大すると予測されている(※2)。欧州では、移動の脱炭素化の重要政策として、マイクロモビリティや公共交通の利用が促進され、それに伴いさまざまなシェアリングサービスが発展している。

フランスのパリに拠点を置くfluctuo(フラクチュオ)は、公共交通データの収集、分析、提供を行う企業だ。自転車、電動スクーター、自動車シェアリングの、リアルタイムなデータを収集し、可視化および分析ツールを提供している。運営者や都市当局が、マイクロモビリティの利用状況を把握しトレンドを理解することは、より効果的で持続可能な交通システムを構築するために重要となってくる。

現在、fluctuoは180以上の都市の主要なシェアリングサービスをモニターしており、その旅程数は260万を超えるという。独自データを分析したレポートにも定評があり、欧州から世界にサービス拡大を進めているところだ。日本に進出する日も近いかもしれない。

まとめ

今回は主にフランスの企業を紹介したが、会場にはオランダをはじめ、イスラエルやドイツ、また、日本や中国企業など、国際色豊かな企業や団体の展示ブースが並んでいた。

まだ都市で見かけることが珍しい自動運転車のデモンストレーションには大きな人だかりができていたのが印象に残っている。また、機能ヘルメットや監視機能付き駐輪システムなど間接的に移動を支える製品も展示されており、交通に付随するビジネスのすそ野の広さをあらためて感じた。

SNSでは、AMWEのトークセッションに参加したフランスのChristophe Grudler欧州議会委員が「(イベントに参加し)バッテリーやソーラパネルを欧州で製造する事の重要性を思い出した。私は毎日欧州レベルでそれに取り組んでいる」と、コメントしている。新しいビジネスを開発していく上では、社会のニーズを満たすサービスと共に、世界情勢や国家間の政策競争にも意識を向けていくことが重要だろう。

※1 Urban freight research and innovation roadmap(Alice)
※2 HOW SHARED MOBILITY IMPACTS THE GLOBAL URBAN LANDSCAPE(OliverWyman)
【参照サイト】AUTONOMY MOBILITY WORLD EXPO (AMWE)公式ホームページ
【参照サイト】「居心地が良く歩きたくなる」まちなかづくり~ウォーカブルなまちなかの形成~(国土交通省)
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