スイスのシニア女性グループが、歴史的勝訴。気候危機への対策不足は「人権侵害」

Browse By

テーマカラーである水色と紫色のスカーフを肩にかけ、ピンと背中を伸ばして歩くスイスの70代の女性たちが、フランスにある欧州人権裁判所へと向かう。その様子は注目を集め、多くのメディアで報じられたようだ。一体、彼女たちは何者だろうか。

スーツケースを手に歩く女性メンバーたち

© Shervine Nafissi / Greenpeace

人々の注目の的となったのは、KlimaSeniorinnen(Senior Women for Climate Protection:気候保護のためのシニア女性)というグループを結成するシニアの女性たち。同グループの70代を中心とした女性たちがスイス政府を相手取り、「熱波によって健康被害が生じていて、家から出ることもできない」として、気候変動に伴う女性の健康被害の対策を改善するよう訴えていた。

そして2024年4月9日、この訴えに対し欧州人権裁判所は、排出削減目標を達成するためのスイス政府による努力が不十分であり、市民の人権を侵害していると判決を下した。つまり、女性たちの訴えが認められたのだ。KlimaSeniorinnenは、2016年に150人の組織として活動を開始。約7年半の年月を経て、2,000人の組織へと成長して勝訴の日を迎えた。

今回のように国際的に影響力を持つ裁判所が、気候変動に関して判決を下すのは初めてとのこと。欧州人権裁判所は1959年に設立された国際裁判所であり、欧州評議会の加盟国が欧州人権条約で規定されている権利や保障事項を尊重するよう保証する機関。その判決は法的な拘束力があり、他の加盟国にも影響をもたらす可能性は大いにある。

同グループで活動してきた76歳のElisabeth Sternさんは「私たちは、農場で子ども時代を過ごして以来、スイスの気候が変化する様子を目の当たりにしてきました。(中略)私たちはロッキングチェアに座って編み物をするために生まれたわけではありません」と、BBCに語った。

多くのメディアに囲まれる女性メンバーら。

© Shervine Nafissi / Greenpeace

また、この訴訟は、ポルトガルの12〜24歳の6人による欧州32カ国への訴えと、フランスの元市長によるフランス政府への訴えと併せて提出されていた。しかし、前者は原告の居住国以外を訴訟相手としていること、後者は原告がすでに居住していないことから申請が棄却された。そのため同裁判所で受理されたのはスイスの女性グループによる訴訟のみであったが、この勝訴は一筋の希望となった。

同グループ共同代表のRosmarie Wydler-Wältiさんは「この判決は、私たちKlimaSeniorinnenだけの勝利ではありません。私たちの勝利は、全ての世代にとっての勝利です。特に、長期的な気候の改善から恩恵を受けるであろう、ポルトガルの若者たちの世代にとって。法廷における若い世代の存在は、裁判官に未来の人権の“顔”を見せたと思います」と、Greenpeaceに語った。

プラネタリーヘルスが注目を集めているように、地球と人間の健康は密接に関わり合っている。特に高齢者と幼い子どもたちは、他世代よりも高い健康リスクに晒されているのが現状だ。

その現状に、当事者である彼女たちは自らの健康を心配するだけでなく、将来世代が生きる未来にまでも心を砕き、欧州、さらには世界をも動かしうる行動を起こした。なんと心強い人生の先輩たちなのだろう。この勝訴は、世代を超えてともに変革を進めるための歴史的な一歩となったはずだ。

【参照サイト】KlimaSeniorinnen Schweiz
【参照サイト】ヨーロッパ人権裁判所 よくある質問とその答え|ECHR
【参照サイト】European court rules human rights violated by climate inaction|BBC
【参照サイト】Swiss women win landmark climate case at Europe top human rights court|Reuters
【参照サイト】Victory for Swiss Senior Women for Climate Protection: Climate protection is a human right|Greenpeace
【参照サイト】International court rules Switzerland violated human rights in landmark climate case brought by 2,000 women|CNN
【関連記事】「これ以上、未来を汚さないで」米国の気候変動裁判で若者が州に勝訴
【関連記事】法廷に立つ「自然」は気候危機を止めることができるか

Climate Creative バナー
FacebookTwitter