ロンドンの大英博物館やパリのルーブル美術館には、貴重なアートや歴史的な文化財を一目見ようと、世界中の人が足を運ぶ。しかし、その華やかな展示の一部が、植民地時代に不当に持ち去られた背景を未だ残していることを、私たちはどれだけ意識しているだろうか。展示される際に「収奪品」と強調されることはなく、その背景を知るきっかけは日常から遠い。
この遺産返還問題に、エンターテインメントの力で光を当てようとするユニークな試みが登場した。南アフリカのゲームスタジオ・Nyamakopが開発するアクションゲーム「Relooted」だ。2025年9月16日に体験版が公開され、年内に公式のリリースが予定されている。
舞台は、アフリカンフューチャリズム(※)が反映された21世紀の世界。西洋の博物館からアフリカの遺産を返還する約束をした条約が破綻し、アフリカ大陸全土から集まったクルーが盗まれた70点の遺産を取り戻していく。プレイヤーは主人公のNomaliとして、西欧の博物館に忍び込むルートと脱出ルートを計画し、狙いの遺産を手に取った後、パルクールのように障害物をすばやく乗り越えていく。

Image via Nyamakop

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かつて欧米列強は、19世紀から20世紀にかけて、アフリカをはじめとする地域を植民地として支配した。その過程でいくつもの遺産・文化財が略奪され、宗主国の博物館や個人コレクターの手に渡った。例えば、現在のナイジェリアに存在したベニン王国の青銅や真鍮の美術品群「ベニン・ブロンズ」は、1897年にイギリス軍によって略奪され、その多くが2025年11月現在、大英博物館など欧州各地に所蔵されている。
これは、単にモノが奪われたことが問題になるわけではない。奪われた遺産は、その土地の歴史やアイデンティティを伝える存在でもある。それらが遠い異国の地で展示され続けることは、植民地主義という負の歴史が今なお形を変えて続いていることを意味してはいないだろうか……Relootedは、こうした議論により多くの人を巻き込む仕掛けとなりうるのだ。
近年、アフリカ諸国から遺産の返還を求める声があがり、脱植民地化に向けた変化の兆しは見え始めている。これが一過性の動きにとどまらないためには、未来を担う子どもたちにこうしたテーマをどう伝えていくかを考えていくことも重要であるはず。
なぜ、ある遺産が海を越えることになったのか、それを取り戻すことがなぜ阻まれるのか──このゲームは、歴史的な不正義に対する対話のきっかけを生み出すだろう。ゲームというメディアは特に、難しいテーマを身近に引き寄せ「擬似体験」を可能にする。日々の経験に潜む“当たり前”の構造から少しずつ変化していくことが、次の価値観を築く土台になるのではないだろうか。
※ 「アフロフューチャリズム」は、架空の舞台設定にさまざまなアフリカの要素を融合させることが多いのに対し、本記事で使用した「アフリカンフューチャリズム」は明確な文化的背景を持つ特定の場所に根ざすとのこと|『Relooted』は、知らず識らずのうちに欲していたことを実感させる、アフリカの遺物を奪還する強盗ゲーム – Epic Games Store
【参照サイト】Relooted|Nyamakop
【参照サイト】『Relooted』は、知らず識らずのうちに欲していたことを実感させる、アフリカの遺物を奪還する強盗ゲーム|Epic Games Store
【参照サイト】Relooted|Steam
【参照サイト】In new heist video game, players return museum artifacts stolen from African countries|GoodGoodGood
【参照サイト】I Can’t Wait To Reloot African Artifacts From Western Museums|GameSpot
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