世界中で極端な気象現象が報道された2025年。様々なニュースの裏で、進行し続ける環境課題や不平等、格差などが浮き彫りになり、より身近なところから未来への不安を感じた方も多いだろう。だが、そんななかでも、社会や環境、未来を良くするための動きは確かに生まれていた。
IDEAS FOR GOODでは、今年も450本以上のグッドアイデアを紹介してきた。本記事では2025年に公開された様々なアイデアの中でも、特によく読まれていた記事をご紹介したい。
読まれた記事TOP3【ニュース記事編】
01. 「人の目」に支えられた防災アプリが、山火事情報を見える化
2025年1月に米ロサンゼルスで発生した大規模な山火事。これをきっかけに、火災情報を一元的に確認できるアプリ「Watch Duty」が注目を集めた。火災の発生地点や延焼状況、風向き、避難情報などを地図上で把握でき、複数の情報源を行き来せずとも、このアプリ一つで情報収集が完了できるのが魅力だ。
同アプリは2021年にローンチされ、米国西部・中部の22州の情報をカバー。元消防士や元救急隊員らが人の目で情報を精査・更新しているのが特徴だ。
2025年1月8日には、App Storeで一時ChatGPTを上回るダウンロード数を記録した。一方、山火事の被災者は保険の更新拒否など経済的困難にも直面しており、正確な情報提供だけで生活再建が完結するわけではない。それでもWatch Dutyは、混乱のなかで市民が判断し行動するための「よりどころ」となり、災害時における人々の確かな支えとなっている。
02. 海の生態系を救う「カラフルなコンクリート」
従来の灰色一色の人工海壁は、海洋生物が住処を見つけられない原因となっており、沿岸の海洋生物多様性を低下させてきた。そんななか、オーストラリア・マッコーリー大学の研究チームは、沿岸のコンクリートをカラフルにすることで生態系の回復に寄与できる可能性を示した。
研究チームは、シドニー港内の3か所に赤・緑・黄・灰色のタイルを設置し、12カ月間観察。その結果、色付きタイルには従来の灰色より多様な海洋生物が定着したのだ。特に赤色のコンクリートはカキや藻類など水質浄化に寄与する生物を引き寄せる効果が高かったという。
これは、色という視覚的要素が生物の行動や生息環境の形成に影響を与えることを示している。一方で、自然そのものを再生する手法ではなく、都市沿岸部における次善策である点には注意が必要だ。しかし、既存のインフラに小さな工夫を加えるだけで自然との関係を改善できる可能性は、未来への確かな希望を示している。
03. AI時代に「人間が書く」価値を問う
英国で、人間が書いた本であることを証明する新たな認証制度「オーガニック文学認証」がスタートした。AI技術の発展により、創作物の多くが瞬時に生成される時代となるなかで、人間の創造性や思考の価値を可視化し、尊重する仕組みとして注目されている。
制度を運営するのはスタートアップ「Books By People」で、特定の基準を満たした作品には「オーガニック文学」のスタンプが付与される。これは、農産物のオーガニック認証のように、人の手による創作であることを購入者や読者に示す手法である。
ただし、認証はAI活用を全面否定するものではなく、プロット作成や編集補助など創作支援的な利用は排除されない。こうした認証制度の導入は、AIと共存しながらも人間らしさを大切にする創作文化を育む一歩となるだろう。
読まれた記事TOP3【コラム・取材記事編】
01. 消費しなくても、こんなに幸せ。素朴で豊かな価値観
都市の中心では、「お金を使わなければ居場所がない」と感じてしまうことも少なくない。しかしフィンランドでは、消費を前提としない豊かさが、自然と都市の両面から支えられている。
同国では、誰もが森でベリーを摘んだり、湖で釣りをしたりできる「自然享受権」が保障されており、歩く、佇む、深呼吸するといった行為そのものが価値ある時間とされてきた。
こうした感覚は都市にも息づいている。首都ヘルシンキの中央図書館Oodi(オーディ)は、本を読むだけでなく、創作や学び、交流の場を無料で提供する「みんなのリビングルーム」として機能している。
さらに空港には古着を扱うセカンドハンドショップとカフェが設けられ、「pre-loved」という価値観のもと消費のあり方そのものを問い直す。自然の中でも都市の中でも、何かを買わなくても満たされる──フィンランドの実践は、豊かさの基準を静かに更新しているのだ。
02. 「みんな一緒」じゃなくていい。福岡のインクルーシブ公園
障害の有無や年齢、発達特性にかかわらず、誰もが一緒に遊べる「インクルーシブ公園」が、福岡市で広がりを見せている。特別な支援や利用料を必要とせず、誰もがお金を使わずに安心して過ごせる公共空間を、市民と対話しながら作り上げているのが特徴だ。
公園には、段差を減らした動線や、車いすのまま利用できる遊具、感覚過敏に配慮した設計などが取り入れられ、これまで外で遊びにくさを感じてきた子どもや家族にも開かれた場となっている。
遊びという日常的な行為を通じて「違いがあるまま共にいられる」風景をつくるこれらの取り組みは、都市における包摂の可能性を示している。
03. 幸せになるための「お金の使い方」8つのヒント
「お金をたくさん使うこと」が必ずしも幸福につながらないことは、多くの研究で指摘されてきた。この記事では、幸福感や社会的なつながりを高めるための「よりよいお金の使い方」として、8つの視点が紹介されている。
例えば、モノを増やす消費よりも、経験に投資すること、困っている人や地域に分かち合うこと、将来の不安を減らすために余白を残すことなど。また、自分一人の満足に閉じない使い方は、他者との関係性や社会への信頼感を育む点でも重要であるという。
これらは決して「お金を使わなければならない」という新たなプレッシャーを生むものではない。むしろ、必要以上に消費しなくても、使い道の選び方次第でお金は人や社会を支える力になりうるという視点を与えてくれる。
まとめ
社会課題という言葉には、ときに身構えてしまう重さがある。だが、今回紹介した事例が示しているのは、「何かを我慢する」ことでも、「大きな犠牲を払う」ことでもない。小さな工夫をすること、意味を問いなおすこと……そうした少しの視点の転換なのだ。
それらは、世界を劇的に変える魔法ではない。けれど、誰かの不安をそっと和らげ、閉じていた場所を開き、豊かさの基準を更新していく力を持っている。
もし暗いニュースに触れて少し疲れたなら、こうしたアイデアを思い出してほしい。世界はいつもどこかで、静かでやさしい変化を起こしているのだ。






