ものが壊れたら、修理してまた使いたい。使わなくなったものは、必要とする誰かに届けたい。次に買う家具は、新品ではなく、中古品を選びたい。
こうしてリユースを実践したいと思っても、対応してくれるお店が存在しなかったり、存在してもかなり遠い地域にあったりと、悩ましく感じる方も多いのではないだろうか。
もし、ワンストップでリペアやリユースが実践できるお店があったら……そんな願いをかたちにした新しいチャレンジが、2025年3月にオープンした奈良県橿原(かしはら)市の無印良品ではじまった。名付けて「循環基地」。生活雑貨の回収とリユースの取り組みを大々的に始めた初の店舗だ。

循環基地は町の人やものをつなぐ拠点を意味する

コーナーの入口で出迎えてくれたのが、このReMUJIのコンセプトを伝えるボード
ReMUJIは無印良品が2010年からスタートした、回収した服を染め直して再販売する取り組みで、すでに全国34店舗で実施されている。しかし無印良品 イオンモール橿原ではこの取り組みをさらに発展させ、「服のリユース、リサイクルに加え、家具の修理なども含めた5R(リデュース、リユース、リサイクル、リペア、リフューズ)をReMUJIのコンセプトとして再定義し、実践の場にしていこうとしています」と、下田さん。服だけに止まらない、無印良品の新しい挑戦がここから始まろうとしているというわけだ。
「循環基地」で展開されている主な取り組みは、回収、リユース、古家具、わけあり品、古本の5点。ではさっそく、広さ約3,000坪を誇る、世界最大の無印良品 イオンモール橿原を店長の下田裕さんの案内で一緒にめぐってみよう。
下田 裕(株式会社良品計画 無印良品 イオンモール橿原 店長兼コミュニティマネージャー)
奈良県出身。2008年株式会社良品計画入社。2020年京都・奈良・滋賀エリアマネージャー。2022年奈良に世界最大の無印良品出店計画を社内に提案。2024年8月より現職。
回収:「買う」と「返す」の距離を近づける
ずらりとならんだ回収ボックス。ここでは衣類やアクセサリー、スキンケアボトル、布団、家具などを回収している。現在は、無印の商品のみが対象だ。回収品のうち、まだ使えそうなものは、クリーニングやメンテナンスを行い、再び店頭に並ぶ。

体にフィットするソファ(左)やプラスチック収納ボックス(右)などの回収もある
リユース:服のケアが他にない価値になる
次は服のリユースコーナー。ここでは、「染めなおした服」、「洗いなおした服」、「つくろう服」、「つながる服」の4つの実践をしている。
「染めなおした服」は、回収した服のうち、綿の割合が高い商品を藍色や黒などに染めなおしたもの。生薬として、役目を終えた木皮や農家で加工時に廃棄されてしまう柿の皮、出荷前に丈を揃えるために切り落とされた菊の茎などの残さを染料に取り入れた、春らしい地域限定色もあった。
次は「洗いなおした服」。これは、穴やほつれ、傷などがなく、加工をしなくても十分に着用できるものを洗浄し直したもの。洗ってきれいに畳んだだけで気持ちよさが伝わってくる。これだけで新しい持ち主が見つかるきっかけになりそうだ。
こちらは「つくろう服」。生産の過程でキズや汚れがついてしまい、廃棄される予定だったものを地球のワッペンでお直ししている。ワッペンの数や位置は服によって違うので全て1点もの。お好みの1枚を見つけるのも楽しそうだ。
最後は「つながる服」。よく見ると、シャツの真ん中部分と袖は別の素材が組み合わせてある。これは袖や身ごろの部分に穴やキズなどがあるため、染め直しに回せなかったものの、穴などが開いていない服の一部分を活用すればまだ着用できる服をアップサイクルした商品だ。
「つながる服シリーズは、この店舗にある7,000点以上の商品のうち3位にランクインするほど人気商品なんです」
その理由は、全て1点もので、多様な選択肢の中からお気に入りの1点を選ぶ楽しさがあるからだとか。確かに、組み合わせの多さに、選ぶ楽しさも倍増。筆者もつい見入ってしまった。

回収後、使えそうなものはクリーニングをして再販。生活雑貨のリユース品が選べる機会はなかなかないので重宝しそうだ
古家具:傷が物語になり愛着になる
次は3つ目の取り組み、古家具のコーナーへ。飴色の木肌が美しい水屋、味わいある古家具がずらりと並ぶ。日本だけではなく、中国など海外の古家具も扱われており異国情緒に溢れている。

定規でガリガリやったのか、分度器で穴をあけたのか、傷跡から子どもたちの様子を想像するだけで楽しい
こちらは大分県日田市の小学校で使われていた椅子と机。約100セットあったものの、わずか1ヶ月で9割が売れてしまったという大人気商品。机のあちこちに「学び」と「遊び」の記憶が残る机や椅子たち。手荒な小学生に使い倒された感いっぱいだが、そこが人気の秘密だ。
「お客様からは傷やシールの貼り後などがある方がいいという声もあり、きれいにしすぎないことがポイントなんです」
そんな「ほどほどに」きれいにするメンテナンスが重要なのかもしれない。新商品の場合は、傷などの「粗探し」になりがちだが、リユース商品の場合は、傷や色などの経年変化はむしろチャームポイント。リユース商品販売の面白さが分かるエピソードだ。

定規でガリガリやったのか、コンパスで穴をあけたのか、傷跡から子どもたちの様子を想像するだけで楽しい

剥げかかったシール、ナンバリングの跡も味のうち
これまでも無印良品の一部店舗では古家具を扱っていたが、橿原店のアイテム数や売り場面積は国内最大規模だ。2025年4月時点では、全国の無印良品における古家具売り上げの9割を、この店舗が占めているとのこと。かつてない取り扱いアイテム数の多さ、売り場面積の広さによって、これまで古家具に関心を持っていなかった層にアプローチできている証でもあるのではないだろうか。
実際、売り場を歩いていると、特に古家具が目当てではなく、ふらりと訪れたと思しきお客さんが「これは椅子?あ、インドネシアの廃材を使ったものだって。庭先に置くのにいいかもね」と気軽な雰囲気で買い物を楽しんでいた。普通の売り場の延長線上にあるからこそ、新たな需要をつくれているのかもしれない。

無印良品 イオンモール橿原限定、インドネシアの家屋廃材を使ったベンチ。ほどよい使われた感が魅力
わけあり品:“不良品”を問い直して
続いては、わけあり品コーナーへ。こちらは、生産の段階でついた小さな傷などにより通常店舗では販売できなかった商品が並ぶコーナー。食器の傷は、指摘されてないとわからないものがほとんど。家具も、機能的には十分使えるきれいなものばかりだった。

タンスや椅子などの家具や食器、照明や靴、スーツケースと取り扱い幅が広い
古本:無印良品だから届けられるもの
最後のコーナーは古本。古紙になる予定だったものを再販している。
「ずっと人がいる人気のコーナーなんです。2万冊仕入れたんですが、開店して約1ヶ月で全て売り切れそうな勢いです」
筆者が訪れた際も、老若男女が入れ替わり立ち替わりじっと背表紙を眺めていた。古本販売自体は目新しくはないが、無印良品の店舗に置かれると、これまでとは違った新たな価値が生まれているようで不思議だ。
取材後記
さて、循環拠点、無印良品 イオンモール橿原のツアーはいかがだっただろうか。売れ行き好調なリユースやアップサイクル商品。その要因としては3つあるのではないだろうか。
一つは規模感。無印良品に限らず、これまでも小規模な店舗でのリユース・アップサイクル製品の販売はあったが、これほどまとまった規模で、多様な商品が一同に見られる場はなかったように思う。ある程度の量が確保されると、買う側も選択肢が広がり、購買意欲が高まるのではないだろうか。
二つ目は、質の確保。例えば中古服などの場合、ボタンがほつれていたり、襟ぐりが汚れていたり、といったこともあるが、ここでは一定の質の確保がされているので、買い手にとっては安心感があるのも成功要因ではないだろうか。
三つ目は無印良品の世界観、ブランド力。中古品は「古い」「誰かが使ったもの」というイメージがありがちだが、MUJIならではの世界観の中で再利用が完結することで、これまではなかなかなしえなかった、「中古品でも無印良品が体現するブランドを纏うことができる」選択肢として表現されていたように思う。
それにしてもなぜ、循環をキーワードに店舗をつくったのだろうか。どうやって今後、実践を継続していくのだろうか。後編では、立ち上げの経緯から将来展望に迫る。
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Edited by Natsuki