AI音楽ユニットがSpotifyを“ハック”する?気候正義のため、収益をすべて寄付

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2025年6月7日、音楽配信サイトに、ひとつの異質な音楽アルバムが登場した。

タイトルは「Hypernormalisation(ハイパー・ノーマライゼーション)」。制作したのは、AIによって自動生成された音楽ユニット・Non Obedient、通称N.O.だ。直訳すると「服従しない」を意味する。

AIによる作曲は、もはや珍しいことではないだろう。しかしN.O.の本質はその作曲手法ではなく、「存在の仕方」にある。収益のすべてを気候正義ムーブメントに寄付し、所有権を求めず、グッズ販売やツアーを行わず、インタビューも受けない。私たちが再生ボタンを押すという小さな行為が、いつの間にか寄付につながる仕組みだ。

N.O.を生み出したのは、デンマークを拠点とする非営利のリサーチ&デザイン機関・No Objectives。

Non ObedientのLinkedInに掲載されたN.O.の紹介文は、音楽ユニットの紹介とは思えない言葉が並ぶ。

N.O.はバンドではない。これはバンドのふりをしたシステムハイジャックだ。

生成ツールを用いて作られ、パラドックスに突き動かされたN.O.は、アルゴリズムの関心を気候正義ムーブメントへの財政支援へと向け直すために存在する。あらゆるストリーミング、視聴、そしてシェアは、システムから富を奪い、システムを解体しようとする人々に資金を提供するという再分配行為となる。

(中略)バンドではない。アルゴリズムの落とし穴だ。これは、あなたが偶然寄付してしまった音楽だ──すべてが壊れ、ひっくり返った象徴なのだ。

N.O. = 非営利。所有されていない。服従しない。

(中略)ただ生命に奉仕する、通信妨害。

これはポストノーマル時代のポストポップ。
これはパラドックス・ポップ。

これがN.O.。

N.O.は、AI生成であることを強みに「A Good Day to Remember」「Treaties & Plans」「Gaza Tapes」など次々に楽曲をリリース。条約を主眼にした曲や、ガザでの暴力に抵抗を示す曲など、そのテーマは決して軽くない。それでも、Lo-fi風で日常の中でも聞き流せるような曲調に仕上がっている。

AIを使用するN.O.の楽曲作りは、その過程で一定の環境負荷を生む。それでも、N.O.は多くの人が何気なく聞き流し、意図せず収益を与えているストリーミングの仕組みに介入し「せっかく聴くなら、地球にとって意味のある音楽を」という新たな選択肢を世界中の人に与える。

No Objectivesは、マーケティング手法と社会環境課題を融合させたアプローチ「Branded Activism(ブランド化されたアクティビズム)」を用い、課題解決への企業や市民の参加を促す活動を続けてきた。N.O.はその試みの一つであり、ポスト成長至上型の新しいアートやエンターテイメントの在り方を体現するものでもあるのだ。

N.O.の楽曲を再生することは、無意識の消費を、意識的な貢献へと変える。誰もができる「抵抗」の意思表示の形なのかもしれない。テクノロジーの良い使い方とは、こういうものではなかろうか。

【参照サイト】No Objectives|LinkedIn
【参照サイト】No Objectives|Instagram
【参照サイト】Non Obedient|LinkedIn
【参照サイト】N.O.|Spotify
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