また一つ、気候変動への「適応策」を前進させる政策が動き始めた。
適応策とは、これまで主流だった温室効果ガスの排出削減(緩和策)に加え、すでに避けられなくなっている気候変動の影響に対して社会を対応させること。4度の気温上昇に備えるフランスの適応策や、2026年3月に国家適応計画の2027年初公表を明示したシンガポールなど、気候変動対策を国家インフラとして捉え直し、テコ入れを始める国や地域が増えている。
今回そこに加わったのが、台湾だ。2026年4月30日、台湾の頼清徳総統は第7回国家気候変動対策委員会を主宰し、気候変動への適応を国家の優先事項とする新たな戦略を発表した。
その主軸として、記録的な高温が続く中、政府は「アーバン・フォレスト」に着目。公園や街路樹、学校、公共施設、民有地の緑などをそれぞれ個別の植栽ではなく、都市全体の冷却・防災・生態系を支える緑のネットワークとして捉える考え方だ。これを電力や水道に匹敵する重要なインフラに位置づけ、1,000万本以上の植樹を目指す「緑蔭倍増戦略」を掲げた。これにより、市民が徒歩6分以内に日陰のある緑地にアクセスできるまちを目指すという。
緑蔭倍増戦略では、モニタリング技術を用いたヒートアイランド現象の分析や、適切な植樹場所の特定を行い、日陰による冷却効果を最大化する予定。さらに頼清徳総統は、「バラバラな管理による限界を打破し、地域の枠を超えて緑の資源を結びつける包括的な『国土に根ざした、しなやかで強い緑のネットワーク』を構築すべきだ。それを通じて、国を守る力を総合的に高めていく必要がある」
と述べ、省庁や自治体の垣根を超えた連携への期待感を示した。
アーバン・フォレストに並んで重要視されたのが、干ばつや豪雨による水害リスクに対処するための水資源・流域管理の強化だ。2031年までに5,531億台湾ドル(約2兆7,600億円)を投じる「水および流域の持続可能な発展行動計画」が公表され、急峻な地形により降水の20%しか利用できない構造的脆弱性を克服しようと試みている。
頼清徳総統は、木々や川を守ることが経済的かつ直接的な「国防行動」になると強調し、「持続可能性と希望を守る生命の遺産を、共に築いていきましょう」
と呼びかけ、演説を締め括った。
世界各地で立ち上がる適応計画に共通するのは、長期視点に立ち「生命」を守ろうとする方針だ。
気候危機などの予測困難な事態を前に、経済というフィルターを通した間接的な安全保障では、もはや対応が追いつかない可能性すらある。今求められているのは、経済成長の効果としての対策ではなく、生存に直結する資源や生態系を直接的に守るアプローチなのだろう。
【参照サイト】President Lai presides over seventh meeting of National Climate Change Committee|中華民國總統府
【参照サイト】Taiwan rolls out urban forestry, water plans to tackle climate risks|Eco-Business
【参照サイト】Lai raises importance of urban forests|Taipei Times
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