写真を途上国の貧困解消につなげる、新しい国際支援のカタチ

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今、世界中で普及率が100%を超える工業製品が何かわかるだろうか。そう、携帯電話およびスマートフォンなのだ。途上国でも普及率は90%を超え、インターネット閲覧、モバイル送金、写真撮影など、私たちが日本で日常使っているスマホと変わらない機能が付いている。そんなスマホで撮る写真を媒体に、途上国の人たちを応援しながら国際支援ができるアプリが今年7月に日本からローンチされた。

カウ株式会社が始めたカウというスマホアプリは、途上国と先進国のユーザーが写真の売買をとおして、貧困削減に貢献できるプラットフォームである。ユーザーはスマホで撮った写真を2米ドルから販売することができ、お金のやり取りは、銀行振込だけではなく、モバイル送金も可能だ。途上国側では収入を得る手段となり、先進国側では途上国の人たちの生活を気軽に楽しく応援できる仕組みになっている。現在は、主にカンボジアと日本でサービスを展開している。

アプリの仕様

これまでのカンボジアでの国際支援との違いや、サービス開始のきっかけ、そして写真をとおした新しい国際支援とはどういったものなのかについて、カウ株式会社の代表取締役社長である大木氏にお話を伺った。

インタビュー「スマホ写真をとおして、途上国の人たちの生活を支える存在でありたい」

Q.事業を始めようと思ったきっかけは?
もともとIT系の会社で主に営業として働いていて、国際協力の分野に特化していたわけではありませんでした。しかし、たまたま目にとまったのが、世界の所得格差の問題でした。「途上国」と聞いて、衣食住に困っている人たちを想像する人も多いかと思います。しかし実際は、貧困世帯ではなく、極貧と裕福の真ん中にいる中間層の人口が多いです。そういった国のひとつがカンボジアでした。カンボジアと聞くと、内戦や地雷といったネガティブなイメージが先行しますが、実際は年間約7%の経済成長率で発展し、都市部ではスマホや車を持っているのが珍しくない状況です。
インタビュー中の大木氏

従来の日本の支援は、主に政府開発援助(ODA)と非政府団体(NGO)によるものだったのですが、中間層をターゲットにした新しい支援ができるのではないかと考えました。彼らが共通して持っているスマホを活用して収入機会を作ろうと思ったのがきっかけです。

Q.カウ(COW)という社名の由来は?

牛は、昔から人間の生活を支えてきたパートナーみたいな存在でした。国によっては、富の象徴であったり、神聖なる動物として考えられています。私たちカウも、牛のように人々の生活を支える存在になりたい、という思いから名付けました。

Q.どういったユーザーが多いのか?
スマホで写真を撮るカンボジア女性
当初予定していたカンボジアのターゲットは学生でありますし、実際のユーザーも学生が多いですね。理由としては、スマホを持っていて、フェイスブックなどSNSに写真をアップロードするのに抵抗がないからでしょう。性別だと女性が多い印象ですね。

また、首都プノンペンで勉強する学生は優秀な人が多く地元の期待の星である一方、都市の物価が高いために生活費の工面が厳しいのが現状です。当社としても、そういう人たちにカウのアプリを使ってもらい、生活費の足しにしてもらえればと思っています。

Q.先進国側の買い手は購入した写真をどのように利用しているのか?

カウは、他のフォトストックサービスよりも安く写真を買えるのが売りなので、素材として売れるのではないかと当初は考えていました。しかし実際は、個人的にダウンロードして閲覧して楽しんでいる方が多いようです。

Q.どういった写真が人気なのか?

ダウンロード数やPV数をカウントしていて、どの写真がよく見られているのかわかるようになっています。見ていると、綺麗な風景や景勝地の写真よりも、市場や踊りなど、文化や風習など日常の生活がわかる雑多な雰囲気の写真が好まれている傾向です。今後は、笑顔など人物の写真も人気になるのではないかと思っています。

Q.現地ではどのようなプロモーションをおこなっているのか?

実は、これまではアプリ開発に力を注いでいたので、今後プロモーションも積極的に行っていきたいと考えています。途上国側では、お金を得る手段としてプロモーションしていきたいと考えています。実は、今年の12月から定期的に、現地の学生向けに初めてのイベントを予定しています。そこでは、アプリのダウンロードや登録、写真のアップロードの仕方、販売に至るまでやどういう写真が売れやすいのかといった点をレクチャーする予定です。その他としては、チラシ配布やフェイスブックを使ったマーケティングを行おうと考えています。

一方、先進国側でのアピールポイントは、途上国での支援の一つである点です。日本でも、年明け以降に、12月に行う現地でのイベントも踏まえた報告会を定期的に行うつもりです。そこでは、メディアをとおしてだけでは実感がわかない、カウの活動実態について直接お伝えしたいと考えています。

Q.現在どのようなアプリの開発を行っているのか?
カウオフィスに貼ってあるアプリのポスター
最終的には、写真を売りに出している途上国の人を応援したくなるようなサービスにバージョンアップしたいと思っています。そのために、売る人のプロフィールを載せたり、売り手と買い手のコミュニケーションができる機能や買い手が望む写真を撮って来てもらえる機能も追加したいと考えています。言語の壁を越えて直接コミュニケーションを取れるよう、各種機能の改善や企画も考えています。
Q.カウをとおして、カンボジアをどのように変えていきたいか?

ひとつは、このアプリを使って収入を得てもらいたいですね。同時に、先進国側の途上国に対する意識も変わってほしいと思います。命からがらの人たち、衣食住がない人たちというような、途上国に対して悲劇的なイメージが先行されますが、実際は中間層の人口が一番多いわけです。そういう現実を先進国の人も意識していく必要があると思います。

カウをとおして、メディアからの情報ではなく、先進国の人と途上国の人との一対一のコミュニケーションが増え、途上国の本当の姿や一人ひとりのパーソナリティを知って、新しい世界への見え方や支援に繋がってくれればうれしいです。

Q.カンボジア以外の今後の展開予定は?
インタビュー中の大木氏
現在、ラオスやミャンマーは展開前提で調査中で、パートナー企業を探しているところです。アフリカについても前向きに検討しています。展開する条件としては、まず現地でのパートナーに恵まれるかが大事です。

次に、送金手段の問題があります。途上国で一般の人が銀行口座を持っていることは少なく、カンボジアでも20数%しかいない状況です。途上国では、通常の金融機関を介さないモバイル送金などの普及率が高いので、それを利用できる国を選んでいます。

インタビュー後記

カウのアプリのコンセプトは、「写真をとおした国際支援」というユニークなものだ。そんなカウが目指すところは、途上国の現金収入の機会を増やすだけではなく、その写真を撮っている人の生活や、なぜお金を必要としているのかという背景について、先進国に住む私たちが関心を持つようになることだ。「写真の裏にある物語が見えないと、お金を出して買う方は躊躇する」と大木氏が言っていたとおり、ここが通常の募金や寄付とは異なる点であろう。

遠い国の撮影者の生活に思いをはせ、これまでとは違った視点を持つことで、先進国に住む私たちにとっても新しい世界が開けてくるはずだ。支援する側にもメリットがあるカウには、貧困削減以上の効果があるのだ。

【参照サイト】カウ株式会社
【参照サイト】ITU Statistics
(画像一部提供:COW)

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