クラクションの喧騒、どこかの車体から流れるBGM、そして、ライトのあたり具合で様々に色を変える車の煙。いつもと何の変わりもない、ペルーの街並み。その道路沿いに掲げられた看板が、のろのろと走る車の列を見下ろしている。Me cuesta mucho respirar(呼吸が苦しいです)。排ガスが覆い隠す空気の中、この言葉を刻み込むために看板はあった。
世界保健機関(WHO)の世界的な都市大気汚染に関するデータベースによると、ペルーは南米の中で最も汚染が酷い国の一つになりつつあるという。街の人々はそのことを自覚しているだろうか。きれいな空気の大切さを知ってもらうため、ペルーの天然ガス会社Caliddaが広告代理店のMcCannと共に「Lima Talks」と呼ばれる公共キャンペーンを実施した。
これは、道を走る車から出る二酸化炭素を看板の宣伝に変え、市民へのメッセージを送るキャンペーンだ。看板はペルー中部の都市アバンカイの混雑した交差点に設置され、始めは何も書かれていない真っ白な状態でスタートする。そして時が流れ、車が往来を繰り返すにつれて、メッセージがゆっくりと姿を見せ始める。
白いはずの看板になぜメッセージが浮かび上がるのか。それは看板に付いた装置が空気中の汚染物質を集め、その物質をガスからパウダーに変えているからだ。この変換により、パウダーで「Me cuesta mucho respirar」というメッセージが書かれる仕組みになっている。汚れた空気に悲鳴を上げる看板を演出しているのだ。
都市がより一層発展するためには、単に近代テクノロジーが導入されるだけでなく、それに合わせた民度の向上が大切だ。車を頻繁に使うのなら、その行動が引き起こす影響にも目を向ける。排気ガスがくっきりと文字になって表れたとき、人々は便利な生活の功罪に気が付くのかもしれない。
【参照サイト】CO2 from cars used as ink on public health billboard