現在世界では8,000万人以上もの人々が飢えにより危機的な状況にあるとされている。自然災害や紛争、貧困など飢餓に直面する理由は様々だが、そのような人々を皆で支えるべく設立されたのが国際連合世界食糧計画(以下WFP)だ。活動資金は寄付金や各国政府の任意の拠出金によりまかなわれている、いわば善意のお金だ。
その大事なお金をより効率に活かすべく、WFPがブロックチェーンを用いた新たな取り組みを始めている。2016年にInnovation Acceleratorの支援を受け、イーサリアムのブロックチェーンを活用して構築された「Building Blocks」だ。
Building Blocksは、ブロックチェーンの技術を活用してWFPの食糧支援における現金ベースの送金オペレーションをより早く低コストに、かつ安全なものにすることを目的としてスタートしたプロジェクトだ。2017年1月に実地テストが行われ、肯定的な結果が得られたことから、その後も進展を見せている。
WFPの食糧支援においては現金や電子クーポンなどを支援対象者に配布し、対象者が小売店などで自由に好きな食べ物を購入できるようにする取り組みが進んでいるが、従来のやり方では決済のたびに金融機関への手数料がかさむほか、取引にかかるプライバシーも守られないリスクもあった。
Building Blocksはこれらの問題を解決し、WFPが発生するすべての取引を完璧に記録することを可能にする。機密データを電話会社などの第三者と共有する必要もないため、難民のセキュリティとプライバシーは強化されるほか、手数料支払いなどにかかっていた年間数百万米ドル規模のコスト削減が可能となり、そのぶんさらに食料支援を拡充することができる。
WFPは現在、ヨルダンのアズラック難民キャンプでより大規模なブロックチェーン・システムのパイロットプロジェクトを行っており、1万人以上のシリア難民がブロックチェーンベースのシステムで食糧支援を受けている。このパイロットではBuilding Blocksに生体認証技術が統合され、難民が識別できるようになっている。
もともと5月31日に終了する予定だったパイロットは、無期限に延長された。今後、WFPは現金送金以外の利用ケースについてもBuilding Blocksの導入を引き続き検討し、デジタルID管理やサプライチェーンオペレーションなどの分野への応用も検討予定だ。
ブロックチェーンの活用により食糧支援の効率化を進めるWFPの取り組みは、テクノロジーが社会課題の解決に向けて果たすことができる役割と可能性の大きさを感じさせてくれる。今後のさらなる展開に期待したいところだ。